10話 狩り
「ママ~、つぎはいつまちにおでかけするのぉ?」
「そうだな、近いうちにまたお出かけするとしよう」
初めて街に行った日から数日。
余程楽しかったのか、ウルティナはことあるごとにこの質問をしていた。
「わぁ~い、やくそくだよ?」
「もちろんだとも。妾がウルちゃんとの約束を破ったことがあるか?」
「ん~とねぇ、ない!」
「そうだろう。妾はウルちゃんとの約束は死んでも守るからな。それよりも今日はこの前言った通り、違う魔法を見せよう」
「たのしみ~」
パチパチと両手を打ち鳴らし、はしゃぐウルティナ。
先日、お風呂で水の龍を造り出した時、今度はもっと凄い魔法を見せると約束したことをふと思い出したエリーシャは、森での狩りにウルティナを同行させることにした。
(魔法を覚えるなら若ければ若い程いいというからな。魔物の肉もちょうどストックが失くなった所だったし、いい機会だ)
普段は魔物を狩りに行く時は、家にウルティナとメリィを残して一人で行っていたが、今日はそういった理由もあり、皆で来ていた。
「守れ《太古の風神》」
エリーシャは普段は移動に使っている古の魔法で、メリィの背中に乗るウルティナを包み込んだ。
「フム、これで安心だ。例え古の化物だろうと、この魔法は破れはしない」
遠い過去、幾度となく生存競争をかけて争った古の化物達。
現存する魔物とは一線を画す強さだった。
それらとの戦闘中に磨き上げ、洗練された魔法。
例えSSSランクの魔物が現れようとも、破られる道理はない。
「すごぉい! かぜのばりあだぁ」
「よし、ではさっそく獲物を探すとしよう――――――一番近いヤツはあそこか…………」
目を閉じて、周囲の魔力を感じとることに集中するエリーシャが、さっそく魔物を発見したようだ。
「少し速くするぞ、ちゃんとついてくるんだぞメリィ!」
「メメェ~!!」
「わわっ、ママもメリィもはや~いっ!」
見つけた魔物目指して、森を駆けていく。
「よし、止まれ」
メリィの前に右手を出し、静止させる。
「これからヤツを狩る。ウルちゃんとメリィはここで待っててくれ」
そう言うエリーシャの視線の先には一体の魔物が。
ちょうど地面の窪みに溜まった水を飲んでる所で、まだエリーシャ達には気づいてない様子だ。
この魔物は『魔猪王』という猪の魔物で、ランクはS。
『終わりの森』では一番数が多い魔物だ。
大人になると『我王牙』にも負けないくらいの巨躯になるが、今眼前にいる魔物はメリィよりも少し大きいくらいだった。
大きさ的に、まだ子供なのだろう。
ゆっくりと正面から近付いてくエリーシャだったが。
何者かの気配を察知した『魔猪王』が水を飲むのをやめ、顔を上げた。
次の瞬間。
――――――――ブモオォッッ!!
激しい鳴き声を上げながら、エリーシャに背を向け逃げ出してしまった。
なまじ実力があるからこそ、わかってしまうのだ。
自分の目の前に現れた女エルフの、異常なまでの強さが。
「逃がすかっ! 《太古の魔刃》」
全てを斬り裂く、鋭利な魔力の塊。
本気になれば空間すら斬り裂く、エリーシャの得意とする魔法の一つ。
迫りくる魔刃に対抗するため『魔猪王』は魔力を体に集め、防御に徹した。
本気で守りに入った「魔猪王」の表皮は黒く変化して、鉄をも上回る強度になる。
その固さは時に、格上の魔物も諦める程の防御力を誇る。
だが、今回は相手が悪かった。
エリーシャの放った魔刃は、「魔猪王」をなんなくバラバラの肉塊へと変えたのだった。
「ふふん、妾から逃げることなどできんのだ。自らの運のなさを悔やむがいい――――――さて」
狩った獲物を袋に詰め込み、愛する娘の元に戻るエリーシャ。
「どうだ、ウルちゃん。妾の魔法は? 凄かっ――――」
――――凄かっただろう?
そう聞こうとしたエリーシャの目に映ったのは、
「うわぁぁぁぁぁぁんっっ、ママが、ママがぶたさんころしちゃったぁっ!」
号泣するウルティナの姿だった。