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わたくしは、魔法を使うために魔力を練り始めた。
"氷結"、"光線"ときたらもう胸から放つしかない。
そして、光線を放つからには、何かしらギミックが欲しい。
そのために、魔力を練りつつ肉体を改造し始め、胸元に紫水晶色の結晶の爪のようなアームを5本生やし、その先端に魔力を集めた。
集めた魔力が臨界に達したところで、氷結系光線魔法に変換して、触手とオークが奏でる絵面の暴力に対して解き放った。
"ピシッ…、パキィ…、バリン"
光線が触れた場所から、悍ましいオブジェは凍り付き、砕け散って消えた。
胸の上下に生えた爪を体内へと引っ込め、最後の爪を鎖骨の間にある胸のコアの下にしまった。
「ふぅ、吐き気を催す、悍ましいほどに暴力的な絵面のオーク達は、消えたわ」
『肉虫よ、アレはなんじゃ? 何故胸から放つ必要がある?』
「そんなの決まっているわ、ロマンよ。わたくしが居た、異世界の日本という国の、特撮という技術で撮影された映画の中で、怪獣の王を模して造られたロボットが使う、絶対零度の光弾をイメージしたわ。でも、わたくしはそのロボットみたいに胸を開くことはできないから、別のゲームの女性型ロボットの砲撃を真似てみたの」
『妾は、あの悍ましい汚物が氷に包まれて、形が分からなくなれば良いと思っただけなんじゃが…、何故アレは砕け散ったのじゃ?』
「絶対零度…-273.15℃になると、原子の動きが停止して、結合が脆くなるとかなんとか。まぁ、わたくし科学者ではないので、詳しくは分かりませんわ」
見ただけで、精神にダメージを与えて来る、暴力的な絵面のオークのオブジェを消滅させ、わたくしは洞窟を出た。
「あとは、街に行くだけですね」
『そこの丘を越えたらすぐぞ、肉虫』
「あら? 案外近いですね?」
『当たり前じゃ、肉虫。公爵家の令嬢が冒険者ごっこをして、行ける場所なぞたかが知れておるわい』
それもそうかと納得しつつも、何故そんな場所でオークに殺されているのか。
しかも、ただの洞窟と思っていた場所は、ダンジョンの可能性まである。
これから行く街は、かなりヤバイ場所に在るのではないか。
そんなことを考えつつ、街に向かい丘の上まで歩くと、街と丘の中間地点に兵士のような格好の人達が整列していた。
その兵士達の前に陣取っている集団からは、ヤバそうな雰囲気がプンプンと臭ってきた。
銀髪の人物と、それに付き従う暗殺者のような雰囲気を漂わせる12人の黒ずくめ。
『おっ、なんじゃ? アレは操者の姉ではないか。お迎えかの?』
「イヤイヤ、無いから。あんな殺気むき出しの、家族のお迎えなんて無いから」
『それでは、何かの?』
「わたくしを殺しに来たのでしょう」
『ぬぅ、それは困る。肉虫お主は、仮初めとはいえ妾の操者じゃ』
「わたくしも死にたくはありませんわ。でも、この身体の家族とも闘いたくはありませんわ。だから、抵抗するつもりはありませんわ」
「取り敢えず、街に向かいましょう?」そう言って、街へと再度歩き始めた。
30分ほど歩くと、兵士達まで数百メートルほどの距離まで近づいた。
ここまで近づくと、待ち構えている者達の顔が分かるようになった。
身長とほぼ同じ長さの幅広の大剣を背負った、聖騎士風の鎧を纏った銀髪の美少女と、それに付き従う仮面とマスクで顔を隠した暗殺者のような雰囲気を漂わせる12人のメイド。
正直に言って、今すぐにここから逃げ出したいです。
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「イオニア、魔王の気配が近付いて来るわ」
「アルカナ姉様が言うのなら、間違いないのでしょう。ただ、わたしの大事な、愛しているアリシアがよく行く洞窟の方角というのが、心配ですが」
丘の上に、魔王の気配を纏った白い人影が現れた。
「アルカナ姉様、アレが魔王ですか?」
「えぇ、アレから魔王の気配を感じますわ」
「白いですね」
「えぇ、白いわね。しかも、怯えているような気配も感じますわ」
30分後、魔王と思しき白い人影が、数百メートルの距離まで近付いて来た。
どこか怯えたように、びくびくと震え、こちらの様子を伺っている。
そんな魔王の顔を見て、わたしは愕然とした。
こちらを見て怯えている魔王の顔は、わたしの大事な、愛しているアリシアのものだった。