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舌打ちをし悪態をつきながら、俺は少女の記憶へ浸食を開始した。
この世界の知識、常識を得るために。
少女の記憶を探るうち、足元が覚束無くなり、俺の意識は闇に飲まれた。
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「…ハッ!」
意識が戻り、慌てて周りの様子を見渡す。
相変わらずの洞窟の風景に、取り敢えずは安堵する。
「わたくしは、どれだけ気を失っていたのかしら?」
『ほほぅ、なかなか良い具合に混じったではないか』
「混じった? …確かに口調が…、それにこの記憶…」
『見た限り、意識は肉虫のものであろう?』
「そうよ、わたくしの名前はアリシア・レヴィエ・スノーサイド、異世界から迷い来た者よ!」
『うむ、やはり綺麗に混ざっておる。中身が肉虫なのは、些か不満ではあるが、仮初めとはいえ操者が生きておるのは良いの』
「フリージア、あなたそれでいいの? それにこの娘、わたくしの記憶が確かなら、公爵令嬢じゃない! 何であんな駆け出し冒険者みたいな格好で、洞窟で亡くなっているのよ!」
『うむ、操者はお転婆じゃからの。それより良いのか? 肉虫、お主が大きな声を出すから、豚共がこちらに向かって来おるぞ?』
"ブフ、ブフ"
"…フゴッ、…フゴッ"
"…ブヒィ、プギィ"
「最悪ね。わたくし、あんな気持ち悪いオークを相手にしたくないわよ? この身体も一度殺されましたし」
『そうは言ってもの? 来てしまったものは仕様があるまい? 妾を構えよ』
「それは無理ですわ。わたくし、剣なんて使ったことありませんもの。剣て刃筋を立てなくては、切れないのでしょう?」
そう言い、わたくしは拳を構え、オークの襲撃に備えた。
しばらくすると、前方から、棍棒を持った3匹の豚ゴリラが、"フガフガ"と頻りに匂いを嗅ぎながらこちらに向かって来ていた。
"プガァ、ピギィ、ピギィ"
1匹のオークが、こちらを棍棒で指し、喚き始めた。
そして、喚いていたオークを先頭に、こちらに向かい走り始め、先頭はショルダータックル、残りの2匹は左右に棍棒を構えて三位一体攻撃の構えをとってきた。
「◯゛ェット◯トリームア◯ックかしら?」
わたくしは、籠手からナックルガードを出し、魔力を練り上げ、推進力に変え、オークが1列に並んでいるのを利用して、正面から迎え撃った。
わたくしの拳にオークが接触した瞬間、衝突音と共にオークが弾け、3匹のオークは物言わぬミンチ肉に変わった。
『肉虫よ、これはちと過剰じゃないかえ?』
「そうね、これはダメね。まさか、ミンチになるなんて思わなかったわ。衝撃波のおかげで、ミンチ肉を被らなかったけど、一歩間違ったら血肉まみれよね」
『そうさの。しかし、豚共が来たということは、出口が近いぞ』
「あら? 何故オークが来ると出口が近いのかしら?」
『記憶を探って思い出してみよ。この洞窟は何もおらんただの洞窟じゃったろ? 故に、操者は冒険者ごっこをしていたのじゃ』
「あら? そう言えばそうね。それなら、何故わたくしやオークがいたのかしら?」
『推測じゃが、ここはそういうダンジョンじゃったのかもの。人や魔物の欲を読み、その欲を叶え得る装備を出現させ、殺し合わせる。そして、死した者達を取り込み糧とする』
「随分と悪趣味なダンジョンね。でも、わたくしの望みは、わたくしで叶うのかしら?」
『まぁ、叶うじゃろうの。操者の望みは、2つ歳上の成人したての姉と児をなすことじゃからの。肉虫が居れば男根くらい生やせるじゃろ?』
「まぁ、出来ないこともないわね。それにしても、わたくしは13歳だったのね。わたくしはてっきり15歳くらいと思っていたのだけれど。やっぱり記憶がきちんと消化できてないわね」
『まぁ、簡単に言ってしまうとじゃ。操者は姉との児が欲しかった。故に、その手段を探す為冒険者となった。しかし、成人しておらなんだ為、ダンジョンへは入る許可が降りなんだ。だから操者は、洞窟でダンジョン探索の練習をしていた。そして、肉虫を見つけたが、妾も肉虫に気を取られている隙にオークが現れた。オークの不意打ちで、胸に抜き手を食らったが喉を突き刺し相討ちに持ち込んだ。そこに肉虫が寄生した、というところじゃの』
「そう聞いてしまうと、わたくしの人生ってかなりアレね」
『そうさの。しかし、姉の影響が大きいのも事実じゃて』
「姉の影響?」
『あれは、操者を溺愛し過ぎておってな。度を越しすぎて、同性愛に走りおった』
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会話を続けながら歩いていると、前方に光が見え始めた。
わたくしは、洞窟の出口に向かって素早く、しかし慎重に近付いていった。
洞窟の外に、オーク達が待ち構えていないともいえないので、そっと洞窟の外を確認した。
確認した洞窟の外には、暴力的な光景が広がっていた。
そう、そこには……。
触手に絡み付かれたオーク達がいた。
「これが、絵面の暴力というものね。それにしても、触手×オークって誰得かしら?」
『肉虫よ、早くあの悍ましいものを処分するんじゃ。妾は、吐きそうじゃ』
「確かに悍ましい光景よね。しかも、頬を染めているオークが居るのが、なお気持ち悪いわ。でも、アレを処分するには、わたくし近付かなくてはならないわよ?」
『魔法じゃ、魔法を使うのじゃ。妾の所有者なら、氷結系の魔法が使えるのじゃ。氷結系光線魔法であの悍ましいものを殲滅するのじゃ』
「フリージア、あなた刀身が蒼いクリスタルで出来た、喋るだけの剣じゃなかったのね。取り敢えず、魔法ね。やってみるわ」