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わたくしは、アリシア・レヴィエ・スノーサイド。
最近、死んだり、種族が変わったり、双子(?) の妹が突然出来た、公爵家の令嬢です。
事の始まりは単純で、イオニアお姉様がわたくしとの間に子供が欲しいと言ったことです。
大好きなお姉様のお願いだったので、二つ返事で「うん」と答えていました。
それから、わたくしはお姉様達との間に女の子同士で赤ちゃんを作る方法を調べました。
[ダンジョン]と呼ばれる洞窟や遺跡の姿をした魔物は、財宝等で獲物を釣り、その場で撒き散らされた魔力や亡骸を餌としている。
そして、そのダンジョン産の道具に、同性同士でも子供を作れる物が存在することを知った。
だから、わたくしは冒険者とも呼ばれるベテラン狩人になって、ダンジョン産アイテムを手に入れることにした。
11歳から狩人として活動を始めて2年が経ち、13歳の春。
王都の学園が長期休暇に入ったので、わたくしは狩人としての活動の傍ら、実家のある街ローエングリンの側にある洞窟に通っていた。
その洞窟は、1年程前に偶然発見し、特に異常も無く、奥には行き止まりの部屋とその手前に、天井に穴が空き、木々が生い茂る泉があり、そこでお弁当を食べ、ピクニック気分を味わうのが楽しみだった。
その日も【思考分割】と【念話】、そしてお姉様達は知らなかったみたいだけど、【憑依】のスキルを使い、分割した思考を魔剣に憑依させ、疑似意思ある武具として、冒険者に成るため洞窟探索の(自己流)訓練をしていた。
いつも通り、常に退路を確保しつつ洞窟を進み、泉の畔でお弁当のサンドイッチを食べ、休憩をしてから奥の行き止まりの部屋に行った。
そして、魔剣に分割憑依させた思考に魔法を維持させつつ、素振りを行っていた(何故か分割した思考はのじゃロリ風味だったけど)。
軽く汗をかき、休憩しようとしていた時、目の前の空間が歪み、明らかに業物と思われる鎧が出現した。
その光景に気を取られていると、背後から"ブヒュ…フガ……グヒィ"という生理的嫌悪感を催す声が聞こえ、振り返ると……
刺突の構えで、こちらに腕を突き出してくるオークの姿があった。
咄嗟に魔剣を突き出し、オークの頚椎を破壊することは成功したものの、オークの腕の勢いは止まらず、わたくしの胸を貫いた。
胸を貫かれたにもかかわらず、わたくしの意識は途切れることは無く、そして痛みも感じることはなかった。
しかし、わたくしはおかしなことに気が付いてしまった。
それは、わたくしの視界が明らかにおかしいということである。
わたくしの視界に映るもの、それは、首を貫かれ崩折れる片腕を血に染めたオークの亡骸と、胸に大穴が空き倒れ瞳から光が失われた自分の姿だった。
恐らく、わたくしの持つ【憑依】のスキルによって、生命活動が失われた肉体から、魔剣に憑依させていた意識に吸い寄せられるように魂が乗り移ったのだろう。
しかし、このままでは、肉体は朽ち果てるか、ただの洞窟と思っていたダンジョン(仮定)に喰われてしまう。
そんなことを考えていると、視界の端に目玉の付いた触手が映った。
触手は、1度視界の端から消えると、束になりわたくしの亡骸の胸に空いた穴に入り込んだ。
暫くすると、わたくしの亡骸の瞳に光が宿り、胸の穴は消え、立ち上がった。
そして、胸元、二の腕、太ももの5ヶ所に紫水晶のような結晶が浮かび上がり、そこから衣服を溶かしながら、触手が肉体を這い回る悍ましい光景の後、触手達は消え代わりにピッチリとした、身体のラインを隠そうともしない破廉恥な衣服を纏っていた。
二三度、何かを確かめるような仕草をした後、脚と腕に装甲を纏い、頭部には耳当て(?)のようなものが装着されているようだった。
触手に寄生されたわたくしの肉体は、何を思ったのか思いっきり洞窟の壁を殴り、ダメージを受けて悶絶していた。
手首を修復した後、何かに驚くような仕草をし、何故かオークの亡骸を解体し始めた。
そして、身体から何本か触手を出すと、触手はオークの亡骸に突き刺さり、何かを吸収しているかのように、オークの亡骸が萎んでいった。
わたくしの身体が、また拳を握り洞窟の壁を殴ると、壁に亀裂が走り、砕けた。
その後、オークの首に刺さったままのフリージアに、気が付いたわたくしの姿をした何かは、わたくしを引き抜き、【念話】で悪態を付いたわたくしの声を聞いてビビり、この洞窟を脱出したいわたくしの挑発に乗せられ、わたくしの肉体が持つ記憶を喰い、その記憶に塗り潰されて、わたくしモドキになってしまった。
オークの襲撃を突破し、悍ましいオークと触手のオブジェを塵に変え、街に向かい、お姉様達とメイドにビビりつつも家路に着き、家族に事情を説明していたら、ママと触手が謎の約束を交わし、触手に連れ去られたと思ったら、ベッドでわたくしに似た誰かとこんにちは。
驚愕のあまり、叫び声を上げていたらメイド達に簀巻きにされて、お風呂行き。
そして、狩人組合で身分証と組合票の再発行を行い、新しく出来た妹の名前を考える。
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これが短くも濃密なわたくしの春休み。
そして、明日からはママとお母様が捩じ込んだ、妹を連れての学園の新学期が始まる。
「何かあったら、わたしを頼ってね(ハート)」とママは言っていたし、お母様が学園寮のわたくしの部屋と、領地の家の間に転移門を作っていた。
自宅から学園に通えるのは嬉しいけど、妹のことを含め、これ以上問題が重なると、いくら最強種の一角たるドラゴンと云えど、わたくしの胃が耐えられるのか不安になってしまう。
もしもの時は、抱き心地の良い妹か、お母様を抱き枕にして、癒されることにしましょう。
彼女達がストレスの原因なので、拒否権はありませんとも、えぇ。




