物語は何事もなく進む(バッドエンド)
ペティは目の前に置かれた懐中時計に手をのばします。銀の懐中時計は、持ち主に返ることを喜ぶかのようにきらきらと光を反射しました。いいえ、その懐中時計は光を放っています。ペティがその懐中時計にふれた瞬間に、ペティは目を開けることさえ出来ない光に襲われました。
「うわ」
光に飲み込まれかけた時、悲しそうに笑うアリサの姿がペティには見えました。
「ご主人!」
ようやく見つけたご主人のはずなのに、体は動くことはありません。明るい光を遮断するために瞳を閉じてしまったとき、”白ウサギ”の中から大切な何かが抜け落ちた気がしました。
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目を開けるとそこは城の自室でした。“白ウサギ”は少し首をかしげると、そのまま立ち上がり服を着ます。そして胸元で時を刻む銀の懐中時計を取り出しました。その時計を見やると、“白ウサギ”は急いで王座の部屋に向かい駆け出します。
“白ウサギ”が王座の間に向かうと、ちょうど女王様が入ってくる所でした。
「女王様。おはようございます。朝でございます。本日、公爵夫人などの方々とクロッケー競技のお約束があります」
「そうかい。白ウサギは真面目だの」
派手な椅子に座った女性は、手にした扇で口元を隠しながら喋ります。“白ウサギ”はその喋り方に違和感を覚えました。そしてカチリとどこかで音がしました。その音で胸元を見ると、見覚えのない鍵がぶら下がっていました。その鍵には『誰かを探しているあなたの鍵』と書いてありました。
『ペティ?』
「えっ?」
“白ウサギ”はあたりを見渡します。しかし周りには女王様以外いません。
「女王様、何かおっしゃいましたか?」
「急にキョロキョロとして、どうかしたか?」
女王様には何も聞こえなかったかのようで、不審な顔で“白ウサギ”を見ます。その女王様の顔が可愛らしい笑顔に見えました。“白ウサギ”は女王様の笑顔など、見たことがないはずなのにです。それなのに楽しそうな声も聞こえます。 頭を抱え始めた“白ウサギ”に女王様首をかしげました。
「うむ。その鍵か」
女王様は長い赤いドレスを翻して”白ウサギ”の近くに来ました。
「ふむ。ほらそれは忘れてよいものじゃ」
そして、”白ウサギ”の頭を撫で、そして胸元の鍵を取り上げました。その瞬間、またカチリと音がします。
「女王様、どうかなさったのですか?」
「うむ。戻ったようだの」
”白ウサギ”は戸惑った顔をしたあと、行儀良く一礼すると王座の間からでました。そして、ポケットに公爵夫人の扇と手袋が入っていることに気がつきました。
「なぜ、こんな所に?」
”白ウサギ”は焦ります。公爵夫人は怒ると怖いのです。
いつも通りの日常。”白ウサギ”は何もなかったかのように、走り出しました。
「急がなきゃ、急がなきゃ」
BADEND『変わらない物語』
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