騒がしいお茶会
ペティは木々が途切れた開けた場所に、ようやく出ることが出来ました。そこには季節など関係が無いかのように四季折々の花が咲き誇っていました。その花畑の中心の芝生の上に、大きなテーブルがありました。テーブルの上には沢山のティーカップと、お菓子が並んでいます。ティーカップとお菓子の山の隙間をよく見ると、テーブルの端には3つの影がありました。
ペティが近づくと、それは麦わら帽子を被ったウサギと、ティーカップに入り寝息を立てているネズミと、大きな帽子を目深に被った男でした。
「招かねざる客がまたきた! お前は白いからウサギじゃない! ウカレウサギのように茶色くなきゃ!」
「おやおや、こんな所に白ウサギとは珍しいこともある。しかし訪問者が多いとお茶会と議論が大いに盛り上がる。我が輩、帽子屋は白ウサギ殿を歓迎するよ」
「チュー、眠りネズミは年中ねむい。白ウサギはチーズくれる?」
ウサギは嫌そうな声、帽子を深く被った男は芝居がかった声でペティを迎え入れました。そしてネズミはティーカップから顔を出すと眠たそうな声をあげて、またカップの中で寝ます。
ペティは騒がしい声をあげるお茶会の面々を睥睨すると、ペティにしては低い声で尋ねました。
「ここにご主人が来なかった? 僕はご主人に追いつかなきゃいけないんだ」
帽子屋とウカレウサギは顔を見合わせました。そしてあの猫を思い出すニヤニヤとした笑顔をペティの方へ向けました。
「白ウサギ殿は誰を捜しているのだろうね? どうやら大事にしていたものすら無くしてしまっているようだぞ。まったく嘆かわしい」
「白いのは正しく狂っているね。よいぞ。それならウサギと認めよう! ほらワインでも飲むか?」
帽子屋は、大きなリアクションをとると、胸元から金の懐中時計を取り出し、その時計を見たあと席を3つ移動しました。ウカレウサギは、有りもしないワインを勧めてきた後、眠りネズミが入ったカップを持つと、帽子屋と同じように3つ移動しました。
ペティは困ってしまいました。もうすぐアリサの行方が分かると思って、一生懸命走って来たのにお茶会の愉快なメンバーはそんなペティの様子など気にせずに紅茶を入れています。
「焦っても意味が無い。それなら寝てしまえば忘れられるちゅ」
寝ているネズミもうわごとのように呟きました。その言葉でペティは余計に焦り始めました。ご主人がこの世界にいると信じていたこと自体が間違っている可能性に思い至ったからです。ペティは思わずテーブルの上のティーセットを押しのけました。
「眠りネズミさん。ご主人はこっちに来たんでしょ? ご主人がどこにいるのか知ってるよね? 早く教えてよ!」
ペティがテーブルを叩くと、ティーカップがカチャカチャと音が鳴り響き、いくつかのカップは地面に落ちました。途端にあんなに騒いでいたはずのお茶会の愉快なメンバーは真顔になり静かになります。寝ていたはずの眠りネズミも顔を上げました。そして非難の目でペティを見つめます。ペティは急に態度が変わったメンバーの様子に怯えてしまいました。
しばらく黙ったままの静かな時間が流れました。
それは、何秒だったのか、はたまた何時間かは分かりません。しかし帽子屋がペティと目が合うと、ため息を吐きました。その途端に時間が進み出しました。そしてゆっくりと帽子屋は口を開きました。
「あーあ、綺麗なティーカップが分からなくなってしまった。それに白ウサギ殿の探し人を知っていたとして、我が時間を奪ったものに何故教えなければいけない? ここにいる住人は白ウサギ殿が嫌いなんだ」
ペティは帽子屋の言ったことを考えました。初めて会ったはずなのに、どうしてここの住人は僕に冷たいのだろうかとか、嫌われてるのはどうしてなのか、考えてみました。しかしペティには何も分かりません。ペティは元々アリサのペットのウサギです。それ以上でもそれ以下でも無いはずでした。そのはずなのに、ペティはこの世界の事をよく知っている気がします。愉快な住人たちも、ペティの事を知ってるかのような態度でした。
帽子屋は胸元から金の懐中時計を、もう一度取り出しました。そしてカチリと音を立てて時計を開きました。
「今日は何日だい?」
麦わら帽子を頭から取ったウカレウサギは答えました。
「4日だよ。確かね」
「ほう。2日ズレている。ああ、壊れてしまっている」
帽子屋は、手にした時計を見ながらため息をつくと、それをウカレウサギに渡しました。ウカレウサギは麦わら帽子を被り直すと、その時計を紅茶が入ったティーカップに入れました。
「これで壊れた原因は分からない。素晴らしいな!」
「元から狂ってるちゅ」
「眠りネズミ、お前はうるさいな。ティーカップよりティーポットの方が寝心地が良いんじゃないかい?」
考え込むペティを横目に、帽子屋は眠っている眠りネズミをティーポットに詰めています。眠りネズミは驚いた顔で薄目を開けましたが、すぐに寝息を立て始めました。
「そうそう。これをなぜだか我が輩が預かっていたのだった」
考え込むペティの前に、さっきの懐中時計とは別のポケットから取り出した銀の懐中時計を、帽子を目深に被った男が差し出しました。その懐中時計からは規則正しい秒針の音が聞こえます。
ペティはその懐中時計が初めて見るはずなのに、凄く懐かしく感じました。そしてその懐中時計を持ってしまうと何かが替わってしまう気がしました。それと同時に、この懐中時計を持てばご主人の元に行けることも分かります。
「僕は……」
次から、エンド分岐です!
1つのエンドだけを見たい方は、目次に戻っていただき、選んで下さい!
バッドエンド→メリーバッドエンド→ハッピーエンドの順番です!
ご注意下さい!