狂ったお茶会(メリーバッドエンド①)
ペティは目を閉じました。
『ペティ?』
アリサの声が聞こえた気がしました。ぱっと目を開けたペティは、胸元の鍵を握りしめます。
帽子屋は、優雅に紅茶を飲みながら、その瞳はペティを面白そうに見つめています。
「帽子屋さん。この懐中時計はもうちょっと持っていてくれますか?」
「ほう。面白い」
帽子屋はにこりと笑うと、ペティの前から銀の懐中時計を取り上げると、握り潰しました。硬いはずの金属がまるで豆腐のように潰れていきます。
「えっ……? どうして?」
ペティは呆然と時計の形をなくした金属の塊を見つめました。帽子屋は手の中の形をなくした懐中時計を、目の前の紅茶の入ったティーポットに入れました。そしてその紅茶をカップに入れて、ペティの前に置きました。
「ふぅ。面白いことを言ったからそのお礼だよ。飲みたまえ」
「遠慮します」
ペティは後ずさりました。
「そうかい。残念だ。まあ、この面白さはこの程度では対価にならないのか。うむ。じゃあ、お前が捜している人のことについて教えてやろう」
帽子屋はまったく残念ではない様子で、首をすくめるとペティの前に置いたカップを回収して、地面に捨てました。
「本当に? ご主人の居場所を教えて!」
ペティは怖がったことを忘れて、身を乗り出しました。
「まったく、白いのは勇敢か?」
「ほら、ウカレウサギよ。あの子はどこに行ったかい?」
帽子屋がウカレウサギに尋ねると、ウカレウサギは麦わら帽子を脱ぎました。そして、歌うように言います。
「あの子は木の扉を開けて、城の庭にいったぞ」
ウカレウサギはそれだけ真剣に言うと、麦わら帽子をまた被り直しました。
「木の扉?」
帽子屋とウカレウサギは小さな声で何かを話し始めてしまいペティの事などもう見てくれていませんでした。
ペティは困りはてました。キョロキョロとあたりを見渡すと、花畑の奥に生け垣があり、そこに木の扉があることを見つけました。
「あった。帽子屋さん、ウカレウサギさん、眠りネズミさん、ありがとう! まっててね、ご主人」
ペティはペコリとお辞儀をすると、駆け足で扉に駆け寄りました。扉には鍵がかかっていましたが、ペティはためらうことなく胸にかけた鍵をさしました。扉は簡単に開きます。扉に入る前にペティは胸にかかった鍵を握りしめました。もうすぐアリサに会えると感じていたからです。
「絶対に一緒に帰るんだ。待ってて、僕が追いつくからね」
顔を上げたペティの表情は初めのオドオドとしたものではありません。ペティは瞳を閉じて1つため息を吐くと、顔を上げて扉の中に足を踏み出しました。