Flag number 06 「 冒険者との邂逅(上) 」
「魔除けの木発見。暗くなる前に焚き木集めとこう。」
夜になる前に、何とか目的の木を見つけた直哉は、さっそく焚き火の準備を始めた。
ちなみに、この森がビギナーズフォレストと呼ばれる点は三つあった。
一つ目は、スライム等の下位の魔物が多く、希にゴブリン等が奥地で活動するくらいで比較的危険が少ない事。
二つ目は、食べられる果実や動物や魔物が多いため、食糧に困らない事。
三つ目に、魔除けの木と呼ばれる群生地が所々にあり、そこは昼夜問わず滅多に、魔物や動物が近寄らない安全地帯があるのだ。
野宿は冒険者の間では、最も危険な事だ。
その為、チームを組み見張りを交代するのが当たり前だった。
しかし、この森にはそれを補ってくれる魔除けの木が存在する。
特徴をちゃんとメモしている直哉は、辺りが暗くなり始めた頃に無事発見出来た。
魔除けの木は、以前テレビで見た千年杉の様に大きかった。
数メートルの高さの所々に、太い枝分かれが入り組んでいて、冒険者が休息を取る事が出来るベッドスペースがあるらしい。
また、1周するの5分程かかり、反対側どころか左右すら見えないのだが、こう大きいと背中が守られているようで安心できる。
歩きながら集めた枯れ木と、燃えやすそうな枯れ草を置いて、軸のしっかりした固めの棒に弓の替え用弦を巻き付ける。弦の端は曲線に曲がったしなりのある棒の両端に取り付ける。
弓なり式着火法というものだ。
これまた、後輩から聞いて無理やり経験させられて覚えていたのだが…
「あいつ…まさかこの状況を考慮して…なわけないか。」
無人島サバイバル番組が、多くて助かった直哉だった。
焚き木も出来て、汲んできた水も、ろ過装置に放り込んだ。
食事は森で取れた果物で充分であり、予想外に美味しかったため、宿の食事から解放された喜びに満ちていた。
道具の手入れを仕上げると、今日ステータス確認した際に、増えていたスキルを確認してみた。
[短剣術Lv.3]
ダガーやナイフなどの扱いに慣れた者。
[弓術Lv.2]
弓の扱いに慣れた者。
[不動の心]
困難な状況でも落ち着くことが出来る。
「…こんな説明しか出ないとは。やっぱり覚えておいて良かった。」
まさかとは思っていたが、自称神の間で紹介された内容を、ざっくりとした説明で表示されたのだ。
本来はこうだ。
[短剣術Lv.3]
小型の刃物でのダメージ増加(中)、使用による消費耐久値減少(微)、
[弓術Lv.2]
小型弓矢によるダメージ増加(小)、使用による消費耐久減少(微)
[不動の心]
状態異常(混乱、動揺)に対して耐性(小)
耐久値まで関係してくる為、やはりスキルは上げるに越したことは無い。
初日にしては結構頑張ったと労いつつも、実際は実入りのないスライムで少し残念な気持ちであった。
「確か勇者の彼らは、平均ステータスが200位って言ってたよな…今の自分の強さがよくわかんないな。大体攻撃力340ってどんなもんなんだろ…」
ふと、足元に転がる拳大の石を持って、思い切り握りしめた。
「簡単に砕けてしまった…握力何キロだよ。数値が1,000超えたら何でも握り潰せそうだ…人間辞めてないか? あ、あと、さっきのスライムが使ってたけど、魔法ってやっぱり便利だよな。どうやるんだろう?」
魔法の練習方法をどうやるか考えていた時、正面方向から何かが走ってくるような音が聴こえ、どんどん近くなってきた。
取り敢えず、中腰姿勢になりダガーを抜いておく。
茂みから飛び出るように出て来たのは3人の、見た所冒険者の様だった。
魔除けの木まで走って来たのだろう。激しく息切れをおこして、3名とも崩れるように倒れ込んだ。
暫く監察すると、こちらに気付いているのだが、それどころでない程疲れている様子に、警戒度合いを少し下げた。
「あーー!疲っかれたぁ!!」
「ど、どうにか、ま、撒けたよ、ね?」
「……魔除けの木には近付かない…はず。」
息を整えた3名が、後ろの茂みを気にしながら怯えながらも、大きな声で会話し始める。ちらちらこちらを見ているのが気になるが、直哉は、再度座り直してメモ帳を取り出した。
スキル暗記の復習だ。
既にこの1月の間に覚えているのだが、暇があれば読み返しているのだ。
……ん? 話しかけないのかって?
確かに何かあったのだろうし、危機的状況だったのかもしれない。しかし、魔除けの木に到着してすぐ、全員が安心したことから、別段緊急でも無いのだろうと判断した。
であるならば、特に話しかける必要も無いだろう。
しかし、そんな直哉に関係なく、3人が近寄ってくると、一人が話し掛けてきた。
「あのー突然すみませんっす。冒険者の方っすよね?」
「ええ、そうですよ。君達もそうだよね?」
近くによると、焚き火の灯りで3人の姿が照らしだされた。
先頭に立つのは、赤髪で単発な少年、革宛など黒で統一された軽装で、腰にはダガーより少し長い短剣を付けている。
左側には、白いターバンの様なものを頭に被る少女だ。全体的にダボったい地味な服装で、手には木で出来た杖を持っている。
右側には、服装は赤髪君と変わらない軽装だが、赤と黒のまばら模様な髪型だったが、髪の先が一房ずつ纏まって蛇のような形になっていた。3人の中でも1番小柄で幼さを残す顔立ちから、性別は判断出来ない。
いずれも、年の頃は14〜5歳って組み合わせだ。
「はい。俺達、正義の渡り鳥ってチームっす。情けない話なんですけど、此処に来る途中に水と食糧を失ってしまって… 」
「ああ、なら少ないけどどーぞ。あ、別に何も要求しないので、気になさらず。」
それ位なら断る理由も無いので、ろ過していた水2本と残っていた果物のうち3つを渡した。
あっさり貰えた事に驚きつつも、赤髪君は嬉しそうに受け取り、二人に渡していく。
「この果物って、ラクシャの実じゃない?」
「…初めて食べた…涙出た…」
「ありがとうっす!こんな高価な物食べれるなんて!」
「ああ、そう。喜んで貰えて良かったよ。」
メモ帳に目線を戻して、またスキル復習に戻ると、まだこちらを伺う視線を感じる。
居づらいと感じた直哉は、焚き木と火の1部を持って立ち上がると、反対側に歩き出した。
「あ、ちょっと待つっす!危ないっすよ!!」
「…地外規則って知ってるかい?外で人が会った際にというやつ。」
「あ!すいませんっす!これっす!」
冒険者組合の受付さんから、事前に聞いていた暗黙のルールだ。
その地外規則の一つに、ダンジョンや野外で顔を合わせて話しをする場合は、ステータスカードを、話しかける側から提示しなければならない。というのがある。
これは、身分を騙る盗賊等と間違われない様になっているのだ。
提示しない事も出来る。しかしその場合、犯罪では無いが信用はされなく、しつこければ戦闘行為もありえるのだ。
3人から名前と職業のステータス確認をし、確かに冒険者であった事からようやく警戒を解いた直哉は、腰を下ろして3人に向き直る。
「危ないっていうのは、君達がさっき撤退してた事かい?」
「そうっす!」
「…ちなみにどんな状況だったんだい?」
「ゴブリンっす!ぐぁーと現れて、うにうにーてなって」
「えっと、私達ゴブリンの集団に襲われて…」
その後、要領得ない赤髪君に、ターバンの少女から補足が付けられ、何とか理解した話しは、
彼ら正義の渡り鳥は、まだ冒険者になって1週間と新人3人PTであった。
赤髪君は、PTリーダーでダレン。
ターバンの子は、レレイ。
まばら模様の子は、リオン。というらしい。
3人は初めての依頼で、奥地にある解毒薬の素材集めの依頼を受け、ビギナーズフォレストへ足を踏み入れたらしい。
その素材採取場所に、ゴブリンの子供がいたらしく、初めての討伐をしたのだが、死体から漂う血臭処理を失念し、その為ゴブリンを集めてしまい、道具やらなんやら全部捨てて逃げて来たそうだ。
いくらダブルブロンズの、まだまだ駆け出し冒険者が受注出来る魔物でも、数が集まると危険度は上がる。
10体程に囲まれる前に逃げ出し、焚き火の灯りを見つけ、何とかこの魔除け木に辿り着いたらしい。
「俺達のせいで迷惑かけたっす。ごめんなさい…」
「いやいや。教えてくれてありがとう。大変でしたね…」
その後も色々と話しを聞き、夜も更けてきた頃、リオン君がこっくりこっくりと船を漕ぎ出した。
取り敢えず警戒を、2人交代で共同することになり初めての外泊をしたのだった。
登場魔物
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討伐ランクF
種族:リトルゴブリン
レベル:5
体 力:85
魔 力:5
攻撃力:75
耐久力:102
素早さ:25
知 力:15
所持スキル
怪力Lv1、痛覚遮断Lv1、悪食Lv1
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