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Flag number 02 「 王族との謁見 」

光の中に入ると視界が暗転し、気付くと薄暗くひんやりした場所に転移していた。

さっきまで真っ白い空間にいたため、視界がまだ慣れないが、近くには高校生達がいることは分かった。


「ようこそ、勇者の皆様。色々とご質問あることでしょうが、ひとまず謁見の間へと、私共に付いて来られますようお願い申し上げます。」


暗闇でよく見えないが、十代くらいの可愛らしい女性の声が聞こえた。

部屋には女性の他にも数名の人影があったが、扉を開いて彼女達は部屋を出ていく。

直哉達は、言われるがまま彼女たちの後に付いていくことにした。


彼女達の後を付いていくと。大きな部屋に案内された。

部屋は、金色の模様がちりばめられた白い壁や天井に、綺麗な茶黒色のツルツルした大理石のような床が広がり、天井には、赤と金色のド派手な龍が描かれていた。

窓の数も多く、その傍には大小様々な黒色の銅像がたたずんでいる。

ファンタジー映画さながらの、謁見の間というやつだろう。

奥には段差を積み重ねたその中央に、小さな椅子に座る一人の煌びやかな装飾品を着こんだ男性、その横には先ほどの女性が立っていた。

玉座って実際は小さいのかな?と疑問に思ったが、

「謁見って言ってたし玉座は別にあるかも」と高校生の子が、そうぶつぶつと話していた。

全員がある程度まで進んでくると、脇に控えていた小太りの男性が、そこで止まるように注意してきたので、直哉達は立ち止まった。


「さて、ようこそ来られた勇者よ!言葉は分かる…ようだな!我は、ホーソン王国の国王で、ヒルベルト=ルシ=ホーソンと言う。先ずは突然の事で戸惑っているだろうが、危害など加えぬと約束しよう。」


椅子に座ってじっとこちらを見ていた男が立ち上がる。座っているときにも思ったが、かなりの体格である。

身長は2メートル位ありそうで、お国柄なのか上半身は豪華な装飾品のみの裸で、贅肉のない引き締まった身体、肌の色はよく日に焼け濃い黄褐色だ。

下半身は服を着ているが、足元から腰に掛け這うように何かの毛皮を張り付けていて、顔は整っているが、人ではなく獣を思わせるような双眼がギラギラしてちょっと怖い。

肌の色とは対照的で、肩にかかる程長い、雪のように白い髪がとても似合っている。年齢としては30代くらいじゃないかと思う。


「私は、第二王女のアルセリア=ルシ=ホーソンと申します。よろしくお願い致します。」


直哉達連れてきた女性は、この国の王女のようだった。

王様とは違い、見た感じ150㎝程の低身長。

淡いブルーの瞳や小さな唇など、その端正な顔立ちは、ヨーロッパ人形のように整えられていて、足元を隠すような白いロングドレスは、フリルが多く装飾されており、とても可愛らしかった。

低身長ながらも、出るところは出ており、目を引かれてしまう。まぎれもなく、直哉の人生で一番可愛い女性である。

そんな王女に、男子高校生達は見惚れているのか、口を開きっぱなしである。

それを見た、隣の女子高校生達に足を蹴られて痛がっていたが…気持ちは分かるぞ。

そんなやり取りをにこやかに見守りながら、王女は話を続けていく。


「最初に、皆様の事情を考慮せず、こちらの世界に強制的に召喚したこと、誠に申し訳ございません。…しかし、我らの世界ではもう、勇者様のお力を借りねばならぬ程、切迫した状況で、他に手段がございませんでした。」


「切迫した状況と言うのは、どのような事態でしょうか?」


男子高校生の一人が話をしていく。

他の高校生達の様子をみると、どうやら彼らの代表のようだ。

態度や声質からして、正義感溢れる頼れるリーダーというやつだろう。


「はい。10年前より徐々に魔物の数が多くなり、それに合わせてスタンピードの発生が各地で起こり被害が酷くなりました。騎士団や冒険者などで対応しているのですが、それもどこまで出来るのか不安であり…噂では、この大陸で隔離されている魔族が住む地で、魔王が誕生したため、強大な力の影響で魔素の濃度が濃ゆくなりました。我が国に伝わる伝承に、魔の王蘇り時かの地から来た聖なる力を持つ勇…」


「あー。すみません。簡潔にお願いいたします。」


いっぺんに情報を詰め込むのはいいが、いかんせん慣れない用語が多すぎる。

この場合は、結論を簡潔にして貰おうと、直哉は言葉を挟んだ。

王女と高校生達からじっと見られ、少し変な間が生まれたが気にしないことにした。


「……申し訳ございません。つまり、魔王を倒すには勇者でなければならないようなので、勇者召喚を行いました。第一王女のお姉さまもまた、その犠牲に…どうか…どうか私達の世界を救って頂けないでしょうか!」


必死にお願いをする王女の瞳から、一筋の涙が流れる。

それを見た王様や控えていた者たちの表情にも陰りが生まれる。

高校生達は、その必死さに感動している。


「お姫様…」

「分かりました!僕らの力でいいなっ」


「ちょっと待った。」


安易でふざけた発言をしようとした、リーダーの男子高校生を抑えた。

不満げな顔を向けられたが、彼の言葉が全体の総意となることには出来ないのだ。

どう考えても、ノリで判断しようとしていた為、巻き込まれるわけにはいかない。

個人の意思ははっきりと伝えなければならないのだ。


「そちらの都合は分かりましたが、私にはするべきことがありますので、元の世界に返して頂けないでしょうか?」


高校生達から向けられる視線が痛い…しかし、そんな批判的な視線は既に慣れ切っている。

社会を知らない高校生などに臆することなぞ何もないのだ。


「送還方法は伝わっておらず、魔王を倒した勇者は、そのまま元の世界に戻っていったとの伝承しかございません。」


やはりか。と淡い期待をしていた直哉は予想通りの返答だったため同様することはなかった。

しかし、女子高校生のうちの一人はかなり落ち込んでしまったようで、友達に肩を抱かれていた。

可哀そうとは思うが、帰る方法が今は無いというだけだ。確かめてもいないことに落ち込んで、悲しんでいられる状況ではない。

また、きちんと伝えなければならないこともあったので、直哉は話しを続ける。


「そうですか。しかし、私にはそのような勇者の力というものがございませんので…」


「なんだよおっさん!ビビってんじゃねーよ!」

「沢山の人が苦しんでいて、尚且つ、僕らには神様よりスキルを与えられているではないですか?」


そうか、この子達は先に光の中に入ったため、私がスキルを拒んだことを知らないのか。と納得した直哉は、この状況に飲まれているだけの、正義感というまだまだ青くさい考えで、行動しようとしている学生達にも、分かりやすく伝えるため、言葉を選んで説明をし始めた。


「ふぅ…先ず一つ。私達は拉致されて、戦場に強制的に行ってこいと言われて納得出来ない点。もう一つが、感情に流されて何も分からない状態で、何を即断即決しているのですか?あと最後に、私はそのようなスキルを、あの自称神様とやらから貰っていません。というわけで、私にはその勇者という資質はこの中の誰よりも無いです。」


「はあ!そんな言い方…って!?おっさんマジか!?スキル貰ってないって…勿体なさすぎるぞ?」


学生達が驚愕の表情で見てくるが、飄々とした表情の直哉の選択が信じられないようだった。

直哉自身はもうそんなことはどうでも良いため、さっさとこれからの事を話したかったのだが、そこで王女様より待ったが掛けられた。


「ふむ…少し待て、自称神様とは一体…まさか、お前達は神に会ったというのか?」


王様達が、凄く動揺していた。

どうでも良いが、さっきまでずっと涙を流していた王女様まで驚いて涙が止まっているがそんなに簡単に止まるものなのかと思う。


「そうですよ。まあ、自称でしたが、その人物から、彼らは様々なスキルを貰っていますが、私は頂いてないんですよね。なので、この世界の人種の子供レベルらしいです。」


「…申し訳ございません。先に、ステータスの確認からさせて頂きます。」


すると、壁際に控えていた兵隊のから直哉達それぞれに、四角い小さな革製のカードを配られた。

使い方の説明を受けると、どうやら血の一滴若しくは唾液を付けることにより、自身のステータスが表示されるらしく、さっそく試すことにした。


======================================

名前:斎藤・ロットン・直哉

種族:異世界人

称号:巻き込まれた一般人


レベル:1

体 力:35

魔 力:15

攻撃力:15

耐久力:21

素早さ:24

知 力:68

器用さ:60


固有スキル:異世界言語変換、成長補正【弱】


習得スキル:

======================================


直哉は自分のステータスを確認するが、固有スキルに、異世界言語変換があるため言葉に困らないのはありがたいなくらいの事しか分からない。

その他の数値の基準が分からないため、すぐに高校生達に見せ、確認して貰うことにした。

各自のステータスが見れることに感激していた高校生達は、直哉のステータスを見るなり怪訝な表情に変わる。


「な…本当に…習得スキル無しだ。しかも、称号が一般人って…俺らは異世界の勇者になってるぞ。」

「僕のステータスは平均200位なんですよ。二桁の数値は無いし…これは厳しいです。」


そこまで酷いとは思っていなかった直哉は、勇者補正が掛かってるはずの、彼らに比べてもしょうがないと納得し、その後王女へとステータスカードを見せた。


「これは…確かにこの世界の子供と同様程度ですね…お父様、どう致しましょう。」


「ふむ、では彼には討伐などは無理だな。城にて保護する事にしようか。」


どうやら納得して貰えたようだったが、直哉は王様の考えにはっきりと断りをいれることにした。

このまま保護され続けるつもりは毛頭なかったのだ。


「あ、いえ。私は外で自由に生活したいと思っています。」


「ん?いや、しかし我らの勝手で召喚しておいて、それは無責任というものであろう。城の中の方が安全だ。」


やはり簡単には引いてくれないようだ。

ならばここは、小さなお願いをしてチャラにしてしまう方が手っ取り早いと切り替え、今後必要となるもので手を打ってもらうことにした。


「あー…では、生活に必要な身分証と少々の路銀で、私の分の召喚については、相殺とさせて下さい。ヒモ生活で更には、他人の家で生活というのは嫌いな性分なのですよ。駄目ですか?」


「しかし…」


まだ納得できない顔をしている王様に、直哉は、ここで選択が出来るということを、理解して貰う為に分かりやすく伝える。


「それに、選択の自由を保障してくれるというのは、他の勇者達も気になるところでしょうし。」


少々の謝礼を要求してその負い目を取り消しにし、少しの状況説明を口にする事で、立場を平等に保つようにみせる。そうすることで自身の意見を通す交渉に持っていける。

若干、最後は脅迫のようになったが、高校生達もその事を聞いて、理解したのか王様を見つめ始めた。

勇者達の視線を受けた王様は、少し悩んだようだったが仕方ないと脇に控えていた兵士の一人に指示を出し始めた。


「…あい分かった。では、そなたの身分証と僅かで申し訳ないが、通貨も用意しよう。他の勇者の方はどうなのだろうか?」


「あ、はい。僕達はこの世界に平和を取り戻すべく、力を付けたいと思います。なあ、みんな!」


どうやら、OKを貰えたようで安心した直哉は、その後続けられた王様達と高校生達の話を聞いていた。

若者は熱いな。とかおっさんのような感想を持ちながら時間を過ごしていると、先ほど指示を受けた兵士が戻ってきて、身分証と茶色い麻のような袋に入れられた硬貨を渡された。

また、話し合いの場所を変えるとのことだったので、用も済んだ直哉は、お城を出ていく事にした。

高校生達も見送るとのことだったので、城門まで付いてきて少々の言葉を交わしてさよならをした直哉は、見慣れぬ地へと繰り出すのであった。




その頃謁見の間では、王様と王女様が話をしていた。


「勇者達への契約魔法は無事発動出来たか?」


「滞りなく。しかし、直哉という者には施すことが出来ませんでした。」


「仕方ないな。契約魔法の発動中に一人でも他の者を含めた意思を代弁して同意してくれることで発動出来るが、その前に奴は否定してしまったからな。契約は奴以外の勇者だけとなったか…せめて、勇者共が反乱を起こさせないよう人質としたかったが、先に釘を刺された…」


「神が存在していたというのも驚愕でしたが…奴が何かしないように殺しておいた方が…」


「よい。どうせ子供程の力しかない以上、盗賊や魔物にでもやられて早々に死んでくれる。渡した金も銀貨10枚と回収する程のものでない。何も出来まい。それより、今後の勇者共の洗脳に力を入れよ。」


謁見の間で怪しく笑う王様と王女様の笑い声が小さくこだましているのであった。



無事、王族の野望フラグを回避することが出来た直哉である。

初対面で、感情論を語ってくる相手は疑ってかかることだ。

客観的立場で物事を判断すると、ただの拉致、脅迫、そして従わなければ監禁ときた。

しかし決して反感を買う態度をしないこと。

細心の注意で、相手と距離を置くことが大切である。

慎重に動く為と言いつつ、わざわざ相手の土俵である内部に居続けるなんて、余程の自信家か疑似創作物に感化された馬鹿である。どちらにしても、世界の事を何も知らない状態で、それをやるのは危険極まりないのだ。

さて、与えられた身分証と路銀を持って、今後直哉はどうするのだろうか。


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