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Flag number 10 「 第二の強敵(中) 」


「着きました。もう安全ですよ。ようこそレーツァイへ!」



鵺と呼ばれる魔物に会わぬよう、慎重に移動した直哉達が案内され、連れてこられた集落の名前は、レーツァイという。

7本の巨大な魔除けの木が周囲に立っており、その中心は草野球場程の広さのスペース、ここが住民達の修練場となっているそうだ。

上を見上げると、樹木の枝分かれした部分が複雑に絡まり合い、それらを繋ぐ橋や階段が出来ている。

組み合わされたスペースを使い、住居が所々に建てられていた。

ツリーハウスが密集し生活している様だ。

着いた時には、既に夜になっていたが、地球と同じような不思議な二つの月から放たれる光の邪魔にならない様、住居も枝も避けていたため、暗いと感じることも無かった。


初めて見る木の上の住処に、直哉達は感動し見上げていると、レチルーノが話し掛けてきた。



「この集落には、住居以外だと武具屋、道具屋、換金所、水場、宿場もありますが、良ければ僕等が住んでいる家に泊まりませんか?」


「それは有難いです。3人で暮しているのですか?」


「気が合う仲間なんですよ。部屋も充分ありますのでご心配無く…あの家です。」



男女で暮しているシェアハウスというものだろう。

刺された方向に目を向けると、他よりも一際大きい家だった。

はしゃぎ始めるダレンとレレイだが、リオンも疼くのを我慢しているように視線がキョロキョロと忙しない。

まだまだ子供な部分を隠せない3人だ。

蔦を登るか、突出して絡み合った枝の道を渡り歩くなど説明を受けるといっそう楽しそうにしている。

早速家に行こうと話していると、ゴイトがそれを止めた。



「待て待て!その前に水場いって身体洗ってこようや!汚ねーのはいかんからな!がはは!」



水場と聞いていち早くレレイが反応する。

ここ2日程禄に身体を洗えていないため、気になっていたのだろう。



「身体洗えるんですか!?……ゴイトさんって以外と、見かけによらず綺麗好きなんですね。」


「そんなに俺はものぐさにみえるのか!?」


「…レレイ…冗談…にも…言っちゃ…いけない…事実も…ある。」

「そうっす!謝るっす!」


「そうだ…じゃねぇよ!事実なのかおい!2人とも待てや!」



怒ったゴイトが、2人を捕まえようと広場で走り出した。


――2人とも楽しそうで良かった。


慣れて冗談も言える間柄になったのか、ダレンとリオンの普段見られない姿に直哉は感心していた。

必死で追い掛けていたゴイトは、ダレンはなんとか捕まえられたが、4人の中で素早さが、突出し出したリオンには勝てないようだ。

無表情ながらも、捕まえて欲しい顔をしているリオンに直哉は微笑ましくなった。



「さて!レレイも早く行きたがっているようですから、2人ともそこまでにしましょうね。」



はーい!と良い返事をしてゴイトに謝ると、全員で水場に移動した。



女性が長風呂なのは異世界でも変わらぬ様で、身体を洗った後、直哉達男性陣は先に住居へ向かう。

季節は秋に差し掛かるとはいえ、夜風が体温を奪っていく。

梯子状に編み込まれた太い蔦を登り、天然の橋を渡っていると、随分気に入ったのかダレンもリオンも終始浮かれはしゃいでいる。



「ここが僕等の住居です。どうぞお入りください。」



外観は二階建て位の高さで、奥行はかなりあった。

戸を開き中に入ると、ただっぴろいダイニングキッチンがそのまま見えて、置かれているのはテーブルや丸型木こり椅子、床から突き出た魔除けの木の太い枝樹が天井部分で枝分かれし、そのまま吸い込まれる様に壁と繋がっている。

奥手には二階建てへと続く階段、余すこと無く全てが木製であり、落ち着く香りが立ち込めていた。



「なんか、心躍るっす!」



やはり男の子なのだろう。

隠れ家的な建物に口吻していた。



「アラセリス達が来るまで、飲み物でも飲んでおきましょうか。そこに座って休んで下さい。」



直哉達は飲み物を貰い寛いでいる。

少し甘い果汁だが、スッキリして美味しい。

聞けば、この辺りで採れるミルミルという実から取れる絞り汁で作る飲み物のようだ。

暫く団欒していると、レレイ達が帰ってきた。

ダレン達と同じ様に反応したが、それを子供だな。と言うダレンの最初の反応をゴイトとリオンにバラされ、また一悶着おこすのであるが…


改めて3人の素顔を見ると、レチルーノは女性のように整った白濁の美青年で、ゴイトは日焼けしていて無精髭等から野性味溢れる中年男性、アラセリスは美人なのだが影がチラつく瞳が少しだけ残念だった。


アラセリスとレレイが、晩飯を作ってくれて、7人でテーブルを囲み久方のゆっくりした食事を取れた。

食後は、主に直哉達の話しをしていたが、一息ついたところで、逆に質問してみた。



「皆さんは、剣の修行でこちらに?」


「はい。僕らは、来る時期も出身もバラバラですが、剣術を極めたいという志で気が合った仲間です。まあ、現在は集落の警護役を優先にしているのですが。」

「まあ、修行に疲れて休憩中ってやつだ!まだまだ集落の奴らには負けないけどな!」



うんうんと同調して頷くレチルーノ達、仲の良さがわかる。

剣の集落でも指折りの実力と聞き、やはり気になるのかダレンが目を輝かせて聞いてみた。



「3人の中では誰が強いんっすか?」


「ゴイトですね。勝てそうにはありません。」

「ゴイトさんです。次にレチルーノさんです。」


「意外ですね!でも、アラセリスさんも強そうです!」


「ありがとう。」



見る者に安らぎを与える微笑みだった。

ゴイトの方は、意外とはなんだと糞外するも、強者と認められ嬉しそうな顔をしている。



「じゃ、俺っちと剣の勝負して欲しいっす!」


「おお!明日でもやるか!お前らの戦い見ていて、俺もやってみたいと思っていたんだよ!」



剣士としてこの集落で1番の実力と聞いては、こんな機会を逃すべきでないと打算するダレンだが、意外にもゴイトが乗り気だった為すんなりいき喜ぶ。



「そういえば、その鵺について外見は聞いていたのですが、他に知っている事ってありますか?」


「ああ、それはね…」



20日前、集落でも指折りの実力者4人の警護中に鵺が現れた。

当初は気付かれることなく発見できたのだが、外見や鳴き声でもかなりの実力と思い、剣士としての自負と強者への興味から先駆けて挑んでしまったらしい。

しかし相手が悪かった。

斬撃に対して無効スキルを持つのか、当たっているが一切効いてる様子が無い。

徐々に削られる中で理解した為、撤退したらしい。

情報としては、それくらいしか無かったのでまだまだ不足もある。

その後別の話題となったが、ダレン達が舟を漕ぎ始めた。



「今日はもう遅いので、休みましょうか。」



それぞれ個室を提供され、休む事にするのだった。



早朝、起きてみると隣に寝ているはずのダレン達がいないので、不思議に思いながらも1階の広間へと下りていくと、台所で食事を作っているレチルーノが居た。



「おはようございます。すみません、ダレンとリオンを見ていませんか?」



何かの甘い香りが熱せられた果実から漂う。

昨日の食事から分かったのだが、こちらの集落の料理は甘味系統が多く、王都よりも格段に食べやすい。

肉料理や野菜料理も、大雑把な料理では無く、甘めの繊細な味付けもまた有難い。

ペティナイフのような、小さな包丁を器用に使いながら果物をカットするレチルーノが、手を止めて軽く会釈し挨拶してくれた。



「おはよう? ああ、朝の挨拶ですね。彼等は、ゴイトとアラセリスと一緒に、朝早く修練場に降りてますよ。丁度食事も出来ますので、申し訳ありませんが伝えて貰えますか?」


「朝食まで頂きありがとうございます。レチルーノさんも、あの子達と鍛錬されたのですか?」



なんとなしに聞いてみたのだが、レチルーノの表情に影が指す。

だが、それも一瞬でありすぐに元に戻ると、果物を切りながら答えてくれた。



「いえ…僕はこの集落を警護するだけで、剣への情熱は今はそこまで…努力しても実らない人もいると知ってしまい。」



何かあったのだろうと思ったが、無理に聞くつもりは無かった。



「無粋な事でしたね。申し訳ありません。彼等を呼んできますね。」



気を取り直してダレン達の所へ向かうことにし、昨日来た道を戻り下の広場へと向かう。

修練場には、早朝でもチラホラと剣を持つ人がいる。

持っている剣は大小様々で、稽古の様子も人によって異なっている。しかし、気になるとしたらやはり、西洋風の剣ばかりである事だ。

叩き切る形の太さが多いのは、文化なのか又は硬い魔物の甲皮に合わせているのだろうか。

いつか鍛冶師にでも会えたら日本刀を作成してみるかと、そんな事を考えながら歩いていると、目的の人物を見つけた。

近寄ってみると、どうやらゴイトとダレンが試合をしていてちょうど決着がついたようだ。



「2人とも、かなりやるじゃねーか!これなら、二人掛かりで来られたら負けちまうな!」


「悔しいっす!でもまだまだこれから強くなるっす!」

「…もうちょい…だった…次は…勝てる。」



激しく息切れを起こしているダレンの傍に、仰向けで寝転んでいるリオンもいる。

そんな二人に、水を手渡しているのはアラセリスだ。

遠慮なく受け取ったダレン達が、勢いよく飲んでいるとアラセリスから問われていた。



「ダレン君は、もしかして双剣使いじゃない?」


「え!? よく分かったっすね!…あ、これは言っちゃ駄目なんだった!」


「ふふ。左手の動きに少し違和感がありました。拳闘士のリオン君も何かありそうです。」


「…まだまだ…未熟者。」



よく見ていると驚愕したダレン達であった。

そんな2人にニヤニヤと笑いながらゴイトが自慢してきた。



「だろ!アラセリスは見切りが得意なんだぜ!俺やレチルーノとも張り合えるしな!」


「いや、全然勝てないからね? 仕方ないとはいえ悔しいよ?」


「けど、まだナオヤ兄の方が強いっすね!」

「…アニィは…別格。」


「やっぱりそうか。討伐してる姿は見てたが…一度相手して貰えるといいな!」



楽しそうに会話している姿にほっこりする。

直哉にとって、こういう裏表の無い人付き合いの部分が、これまでの人生で抜けていたと理解していたが、彼等の様にまだ染まっていない純粋無垢な部分が羨ましくもあった。

丁度終わっていることを確認したので、朝食の事を伝える事にした。



「朝御飯が出来るようですよ。そこまでにしましょうか。」



軽く水浴びをして、皆で食を頂き終えると、大きくドアを叩く音が聞こえた。

扉の外から呼び掛ける声が響く。



「冒険者が来てくれたぞ! なんとシングルゴールドクラスだ! 挨拶してくれねえか!」



依頼を受けてくれたのだろうか。

早速みんなで向かうことにした。

広場に行くと、そこには煌びやかな真紅のフルプレートを来た4人がいた。

男2人と女2人の冒険者チームだが、直哉の記憶では王都の冒険者組合で顔は覚えていないが、鎧は何度か見た事がある。

代表らしき女性の冒険者が歩み出てきたので、レチルーノが挨拶をする。



「初めまして、この集落の警護長レチルーノと言います。隣からゴイトにアラセリスです。」


「態々すまないな。私は白狼千花の副リーダーのイサドラだ。今回はリーダーは不在で私達が対応する。Cランク魔物のキマイラらしいんだが、詳細な情報を頼みたい。ああ、すぐ討伐に動くつもりなので、この場でかまわない。」


「ひゅー♪アラセリスちゃんって美人さんだね!相手いないならどうよ俺は?」

「ばーか。アンタみたいなチャラい奴より、アタイの方が良いに決まってるじゃん? ね、どう?アラセリスちゃんお姉さんと?」



副リーダーと違い、後ろの2人は絡むタイプであるようで、アラセリスは困った表情をしている。



「…やめろ。品位を下げるな馬鹿者が! 済まないな、こいつらは無視してくれ。」



怒られた2人だったが、全く反省すること無くちょっかいをかけ続けていたが、ふと直哉達と視線が合うと大声を出してきた。



「そういえば、あいつらって芸集団の変人共じゃんか! なに?ここで稼ぎに来てるとかか?」

「大変だねー。あれ?でも冒険者の紋章付けてるよ? うわー、同業者さんだったのかー。でもこの辺りはDランクの魔物がいるから危ないよー?」



付けている銅の紋章からランクを判断した彼等は、笑いながらこちらに注意してきた。

確かに、この山奥は多種類の魔物が多くいる。

シルバーでも無い直哉達には辛いと言われても仕方の無いことだが、それを良しと思わないダレン達である。

当然反論しようとしたが、直哉に止められて言われっぱなしで耐えていた。

副団長が一通りの情報を聞き終え、森の奥へ入る頃には、ダレンだけでなくレレイやリオンすら拳を握り締めて感情が爆発するギリギリだったが、なんとか揉めることなくやり過ごした。

姿が見えなくなってから、ようやく我慢していた気持ちを吐き出す。



「すっげー!悔しいっす!」

「仕方ありませんよ。私達は私達の仕事をしましょう…。」



悔しくてもランク違いは変わらぬ事実だ。しかもゴールドとなると歩が悪い。

よく耐えたとダレンとレレイの頭を撫でてあげると、裾を掴んで見あげてくるリオンが何か言いたそうにしている。



「…ナオヤニィ…魔道スライムは…Cランク………いける!」



大発見とでも言いたげに期待した目で見られるのにたじろいでいると、



「あっ!? そうっす!なら!」

「待って!ちゃんと考えよう。ナオヤ兄さんは倒せたけど、私達では………倒せないですか?」



単純なダレンは別として、レレイまでも止めるつもりのない発言で直哉を見つめて来る。

当然、無謀な話しの流れになった為レチルーノが止めに入る。



「ちょっと待って下さい!危険ですよ。」


「そうですよ。彼等に任せておいて私達は……多分魔道スライムくらいの魔物なら倒せるでしょうが、未知数で……危険感知反応しまので…はぁ。」



比定する話しを切り出す度に、3人の目から光が消えて落ち込んでいくのはずるいと直哉は思う。

深い溜息を吐き出すと、少しだけ本音を話してみる。



「私としては、まだ経験稼ぎとしては危険だと思うのですが、しかし山篭り中に偶然出会って、それをたまたま討伐しても問題ありませんよね。」



ダレン達まで馬鹿にされてイラついていたのは隠す必要は無いのだ。

一応、依頼を横取りする行為となるので建前は必要となるため言葉を選んだが、きちんと伝わったのか、ダレン達は手を組んで喜び出す。



「おいおい。お前らは…まあ、冒険者らしいっちゃーそうだよな。」



ゴイトが呆れた顔で見ていたが、止めても無駄と分かったのだろう。



「でも、実際俺らもあんな貴族風な奴らには頼りたくねえしな。俺らも一緒に行かせてくれないか?」

「僕等も集落の警護が…」

「警護も、しつつになるね。」



意外にもアラセリスまで行くつもりであることに遂にレチルーノが折れてしまった。



「わかりましたよ!では、僕達も一緒に行かせてもらってもいいですか?」


「是非とも!戦力が増えるのは有難いです。」



その後、消耗品等を調達し一行は森へと向かうのであった。


入院生活が長すぎ…ようやく一時帰宅しましたヽ(´Д`;)ノアゥ...


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