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Flag number 10 「 第二の強敵(上) 」


とある農家で生まれた子供がいた。

母親は、その子を生んですぐ他界してしまい、子供は父親と姉に育てられる。

片親だったが、村一番の品質を育てる優秀な父親であり、母親がいない事以外では特に不自由は無かった。

子供が7歳の頃、村に魔物の大軍が押し寄せて来た。

事前に兆候を掴んだ村人は、冒険者組合へと依頼をした際、村に大量の冒険者が訪れる。

結果、翌日の昼前に来た魔物の大軍は、村への被害は殆ど無く、無事討伐された。

村の避難場所から冒険者の活躍の一部始終を見ていた子供は、大小様々な剣を持った冒険者が、先陣を切って突撃し、銀の剣筋が発生する度に魔物が倒れていく。

多くの魔物を討伐した剣士の姿に憧れを持ったのは仕方ない事だろう。


姉はその時に出会った冒険者と結婚をして、婿養子となった冒険者が家にやってきて、それからは4人暮らしとなる。

やってきた冒険者は、元シングルゴールドの剣闘士であった為、農家仕事の合間に村で剣術を教え始めた。

子供も、同年代の子達と一緒に鍛錬を始める。

しかしいっこうに上達しない、同じだけ練習している子達は直ぐにスキルを身に付けた。

ならば倍の努力をすれば良いと考え実行するが、どんどん差が開いていく。

3年が経ち10歳になる頃には、既に周りの全員がスキルを取得していた。

同レベルであれば、剣術レベル1相手には勝てるが、それ以上になると手も足も出ない。

そんなある夜、義兄から話しをされた。


「お前には、剣の才能が無いかもしれない。他の道もあるだろう。」


衝撃的だった。

いつかはきっと覚えられると信じて努力を怠ったことは無い。


──何故、僕は覚えられないの? 才能が無い?


──いや、まだまだ努力が足りないんだ!


子供はその日から寝る間も惜しんで鍛錬に励む。

その姿を見た父親は、剣を辞めさせるように試行錯誤し始めるが、それら全てが失敗した。

15歳になる頃、縁談が持ち込まれた。

色々と手の込んだ先回りをされ、うんざりした子供は村を飛び出す。


村を出てからは山に篭もり自給自足の生活を始めて、鍛錬は続けていたが、いっこうに剣術スキルは身につかない。その理由が判明したのは、偶然来た中級鑑定スキル持ちに、内容を聞いた時だ。


[ 十年一日Lv8 ]


努力しても実らない。と鑑定されたのだ。

唯一踏み止まれた努力という依り代が、粉々に砕け散った瞬間だった。

それ以降、やる気が出なくなりそのまま山に引きこもり、流れてくる同じような人達と一緒に生活を始めていた…





貴族との出会いから7日が経過し、4人は現在、山の中でサバイバル生活をしていた。

当初の目的は西の街だったが、その前に冒険者組合で受けていた複数の採取依頼を達成する予定なのだ。

指名手配されているかもしれないので、通常ルートを外れようかとも相談あったが、直哉がその時はその時だと楽観視していたので諦めて予定通りに行動していた。



ビギナーズフォレストと違い、この山には大型の魔物も存在するので、経験値を稼ぐには丁度いい。

目的物を探すため、勾配の大きい獣道を進んで奥へと進み続ける。

時折出るゴブリンやスライム、ウルフ等の魔物も発見しだい討伐していく。

これまでと違い、スキルによって補助された戦闘は安定していた。


「ありましたよ!長寿キノコ!これで全部揃いましたね♪」


漸く目的の物を採取でき嬉しそうに保管していると、リオンが何かを感知する。


「……魔物…発見…茂みの向こう…4体。」

「了解っす!じゃ、いつものパターンでいくっす!」


レレイが詠唱短縮により素早く皆の強化を行うため詠唱を唱え、直哉が茂みの奥へと矢を放つ。

2本程放った時に、飛び出てきたのはロックアリゲーターが3体だった。

拳大のゴツゴツした岩を粘着性の皮膚に貼り付けたワニみたいな魔物であり、一本一本の歯が牙のように長く、交差するように上下で噛み合わさっている。

一体は体長2mもありそうな長さで、他のは1.5m位だ。

鈍重な印象を受けるが直進移動の速度は中々に素早く、その顎力は鉄の盾すら噛み砕く。張り付いた岩の一つ一つを、剥がす若しくは壊さなければ下手な斬撃は通用しない厄介な魔物だ。


「筋力強化、俊敏強化、反射強化、きます!」


ダレンはアイアンショートソードを構え、リオンはアイスピックの様な細長い尖端が付いている銅製のグローブをはめてそれぞれ前衛に立つ。

直哉は弓を、レレイは魔法を持って後衛役となるのがいつものパターンとなっていた。



小さい方のロックアリゲーターがダレンの元へ突進してくると、焦ることなくサイドステップでそれを躱す。

止まることなく後ろの木に当たり一瞬怯むんだ。

交わしざまに斬ってみたが、一つの石を砕くだけで効果が無い、寧ろ剣の方が持たないと判断したダレンは、剣を鞘に納める。

やる事は一つだと決心を固め、こちらに振り向いき始めた魔物との距離を縮める。

大きく広げる口に突っ込む無謀とも思える行為だったが、背後から飛んできた弓矢が吸い込まれていき、魔物は痛みで大きく怯む。

その隙に、身体の周辺に付いている石を暴れ回る魔物にぶつからない様、手当り次第に強引に引っこ抜く。

痛みに慣れてきた魔物が落ち着く頃には、まばらになった石の鎧になっていた。

今度は剣を抜き、一つ一つの隙間を慎重に切り込む。

十数回切り込むと漸く動かなくなった。



一方、リオンの方も石の剥がし作業を終えていた。

時折太い尻尾の攻撃が当たるが、寧ろ避けることなく受け流す形で被弾するが、即座に飛んで来る回復魔法で、ダメージは全く溜まっていなかった。

同じようにまばらに剥がし終えると、ボクサーの様な構えから、細かなステップを繰り返しつつ魔物の周囲を旋回しながら突き出す。


当初、打撃以外の武器を使おうかと悩んでいたが、刺突武器にもなるグローブを見つけ相性の良さからそれを選んだのだ。


グローブの尖端が魔物の身体に穴を開けていく、そこから流れる血が大量になってくると、魔物の動きも鈍くなっていた。

最後の力を振り絞るかのように口を開き飛び掛るが、地面スレスレまで屈んで全身ステップをして懐に潜り込んだリオンは、石のない腹部へ下からのアッパースイングを放つ。

細身の身体のリオンだが、魔物を中空へと打ち上げる威力だった。

そのまま地面に落ちてきた時には、魔物は動くことなく死んでしまった。



二人の攻防を見ていた直哉は、残り1匹となった大きなロックアリゲーターが後衛へと突進してきたのを確認すると、5つほど出した魔力球を盾の形状に変化させ重ねる。

簡単に3枚の盾が壊れる威力だが、何とか5枚目で動きが止まった。

即座に蒼炎魔法で創り出した鷲を魔物の足元の地面にぶつけ穴を空けると、魔物は片足が穴に入り体勢がぐらつく。

残りの手脚がバタつく始めるのに合わせて、強引に魔物をひっくり返す。

ダガーで尻尾を切り落とすと、魔物はジタバタしているだけの置物となった。

柔らかいお腹に掌打を繰り返し、時間を掛けて倒した。

涼しい顔して振り向くと、ダレン達が冷やかな目で見ていた。


「ナオヤ兄の戦い方って、やっぱり変っす!」

「…アニィは…いつも…楽する。」

「寧ろ最近は、見習おうかと思い始めました…」


「そうですか? こちらの方が動かなくて済むじゃないですか。スキル上げもやりやすいでしょう?」


不満げだが、その通りであるのでなにも言い返せないダレン達であった。

彼等は今回の戦闘にレベルアップに加えてスキル上げも目的としていた。

ただ倒すだけでなく、条件を付けて何度も攻撃若しくは防御する。魔物を相手にしなければ戦闘スキルは上がらない。

油断は禁物だが、ギリギリの戦いを昼夜問わず行ううちに、既にブロンズクラスでは無い実力を身に付けていた。

4体目は、茂みの向こうで2本の矢が左眼と顎下から脳天にかけて突き刺さっておりすでに絶命していた。

魔物の死体を解体した後、レベルが上がり浄化魔法を覚えたレレイにより処理していく。

ロックアリゲーターは、素材にはならないが体内は魔石がある。

ゴブリンやスライム等、低ランクの魔物は魔石が小さすぎるため売買出来ないが、このランク帯になると少いながらも冒険者組合にて買取りが可能となる。

一通り済んだところでそろそろ日も暮れてくる。


「それでは、次の町へ向かいましょうか。」


「やっとですね…早く安全な宿で眠りたいです。」

「魔物の素材売って、武器新調したいっす!」

「…待って…まだ…誰か…いる…人っぽい。」


危険察知が働かないが油断は出来ないと指す方向を見ていると、木々の背後から3人、両手を上げて声を掛けてきた。


「ちょっと待ってくれ!盗賊じゃない!」

「すみません。僕らはロックアリゲーターを討伐していた皆さんに見蕩れていただけでして。」

「凄いですね…」


現れたのは、人族の2人の男と1人の女だ。

3人共何かの毛皮で出来た灰色のロングマントを着用している。

顔だけでしか判断出来ないが、40台の男の背後に続く20台の男女という組み合わせだ。

カードを提示してきたので確認してみたが確かに盗賊では無い。警戒を解く前に質問をした。


「どうしてこんな山の奥地に?」


「僕らは集落周りの間引きをしていたのです。まあ、さっきのロックアリゲーターが出たら逃げちゃいますけどね。」

「それでも俺達が、集落一番の実力何だけどな!」

「この近くで暮らしています。」


3人の紹介もあったので纏めてみる。


女性と見紛うほど整えられた顔立ちで物腰の柔らかい男は、レチルーノ。


3人の中でも一番背が高く、顎鬚を短く切り揃えた、豪快な話し方をする男は、ゴイト。


ややソプラノ気味の声で、切れ長狐目が印象的な美しい女性は、アラセリス。


いずれも、腰に長剣を吊り下げているので剣士職なのだろう。



「私達はブロンズ冒険者の正義の渡り鳥と言います。」


「ブロンズですか!? あんなに強いのに…」


「まだまだ強くなるっす!」

「…謙虚…ぽいけど…ずに乗っちゃ…駄目。」


ダレン達のやり取りで雰囲気は少しずつ和やかになっていた。

同じ剣士として何か通じるものがあったのだろう、ダレンが一番質問攻めにされている。

何でも、彼等の暮らす場所では剣の鍛錬が盛んで、主にそれを目的として訪れる者もいるらしい。

その後1時間程話しをしていると、日も暮れて始めた。

移動もあるので帰ろうかと直哉達が相談していると、レチルーノから声を掛けられた。


「そろそろ夜になりますので、良ければ僕らの家に来ませんか?」


「そうですね…ナオヤ兄さんどうでしょうか?。」


久しぶりに宿を取れると喜ぶダレン達であったが、直哉は疑いの眼差しを向けてしまう。少し都合が良い気がしたのだ。

表情に出してしまったので、彼等が苦笑しながら誤解だと伝えてくる。


「あー…違う違う。この辺は夜になると厄介な魔物が出るんだよ。」

「鵺と呼ばれる魔物がいるのです。」


「ぬえ、とは何でしょうか?」


「夜に現れるんだ。猿人族の顔に狸人族の胴体、虎人族の手足と尻尾は大蛇の様な不気味な奴でな、継ぎ接ぎだらけでキマイラ種の様なんだよ。20日程前から現れる様になった。」

「俊敏かつ強靭な肉体で、更には魔法まで使ってくるとの話しです。僕達の仲間が冒険者組合に依頼を出しに行ってますが、まだ帰ってきておりません。」

「集落は、魔除けの木に囲まれているため安全ですよ。」


始めて聞く魔物だったのでレレイに尋ねて見る。


「恐らくキマイラ種じゃないでしょうか?私達はまだ出会ってな……何か聞こえます!」


遠方から聞こえる、身体の内側から底冷えする奇怪な叫び声だ。


「ナオヤ兄!ちょっとやばそうな気がするっす!」

「…危険感知…反応…してる。」


まだ見つかってはいないだろうが、情報不足の為彼等の集落へ行く事に決めた。


「まだ遠いとは思います。一旦逃げましょうか。申し訳ありませんが、皆さんの集落まで案内をお願いします。」


彼等の後に続き移動していても、鳴き声は響き続けるのであった。

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名前:ダレン

種族:人族

称号:

職業:冒険者 

タイプ:見習い剣士 Lv9

レベル:15

体 力:157

魔 力:71

攻撃力:210

耐久力:185

素早さ:168

知 力:70

器用さ:15

【 固有スキル 】


【 習得スキル 】

攻撃力向上補正Lv3、疲労回復速度Lv2

歩法Lv5、危険察知Lv3、魔法耐性Lv2

痛覚耐性Lv4、強固Lv2、

剣術Lv3、短剣術Lv3、双剣術Lv2

威力増加(斬)強撃Lv2

重心移動補正Lv1

【 タイプスキル 】

一閃

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