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Flag number 09 「 高貴な貴族 」


ファンタジーな世界に飛ばされました。

そして、高潔な血が流れている者がその他の者を支配する。そんな傲慢な貴族が仲間を奴隷にしようとしたら、リアリストな皆様はどうしますか?


1、 激昂して暴力に出る


2 、遠回しに脅し


3 、情に訴えて懇願


4、 次の仲間に期待


5、 逃走


6 、その他画期的な選択(その選択内容、コメントで教えて下さい。)




「顔を見せてみよ。」


平伏していた体勢から顔を上げてみると、馬車の窓から肥太ったダルダルで醜悪な顔をした男がこちらを見ている。

直哉達は言われた通りに顔を上げると、その男はいっそう下卑た下品な顔で笑って馬車から降りてきた。鼻につく臭いが漂う程ダレン達の近くに寄って来たと思ったら、うんうんとひとりで頷いている。


「ふむ…冒険者か。そこの子供ら3人、お前らは今日からワシの専属とする。喜ぶが良い。」


下卑た視線を浴びた3人は震えていた。

貴族に歯向かう事は禁忌とされており、唯の平民では逆らう事は出来ない。

冒険者ではあるが、階特権級持ちのクラスでも無ければただの一般市民と変わりはない。

これまでに数々の噂を聞いていた中にも、こういった横暴な行為が幾多もあった。

反論すれば武力行使又は権力を笠に破滅させることが必ずあり、生き残った噂はホンの一握りである。


────何故自分達が?嫌だ!


そんな否定の言葉が発せず、ただ目を瞑って悪い夢であって欲しいと叶わぬ願いをするしかない。

肩を震わせる3人を、直哉は見ていた。


すると、先程こちらに護衛中だと知らせて来た冒険者が、一歩踏み出し庇ってくれた。


「ちょ、ちょっと待って下さい旦那!そんな事したら冒険者組合が黙ってないですぜ。」


「なんだ?ワシに従えぬというのか?平民風情が!冒険者組合など野蛮な組織、いくらでも黙らせられるわ!」


唯一考え直させるかも知れない冒険者組合組織の権力も、効果が無いと分かった以上は、自らの保身と冒険者ではあるが仲間でもない子供らでは、やはり吊りえないのだろう。

それ以上の庇いだては出来なかった。

背を向け馬車の前方に戻っていく。

護衛の冒険者達のリーダーらしき人物を、黙らせた事に愉悦を満たした貴族の男は、上機嫌に鼻で笑った後、ダレン達に声を掛けた。


「さて、いくぞ。さっさと立たんか貴様ら!」


しかし、いっこうに立ち上がろうとしないダレン達に、手に持っていた杖を振り上げ叩きつけようとしていた瞬間、直哉は間に入った。

振り込んだ杖を止め、ダレン達に伏せておくように伝えると、貴族の男の前に立つ。


「あの、済みません。彼等をどうするのですか?」


────取り敢えず確認だ。

そう思いつつ、すべき事の為順序よく進めていく。


「貴様に発言の許可を許してない…が良いわ。決まっている、高貴なワシの奴隷としてたっぷり可愛がってやるのだ。拒否なぞ出来んわ。」


「まだ13歳ですが…」


「ワシはな、子供の方が好きなんじゃ。」


にやけた顔で答えてくる貴族の男に吐き気を堪える。

つまりこうだ。

身分で人の価値を決め、劣るものは搾取されるべきだと考えている、バイでロリコン野郎なのだ。

────さて、決まりだ。

と、思い。ここからは土台作りを開始する。


「……ステータスカードの確認させて下さい。」


懐からステータスカードを取り出し、先に貴族の男に見せる。分かっていた事だが、男は不機嫌になり始め、差し出されたカードを杖で叩きつけた。


「何を言っている。この紋章旗から分かるだろう!立場が分からんとは、これだから愚物は好かん。」


────よし。これでいい。

と、決して口にはせず、落されたカードを拾い上げ直哉は続けた。


「わかりました……では、盗賊と判断し、防衛のため処理します。」


腰に備えたダガーの柄に手を置く。


すると、目の前の愚物と呼んだ男に凄みを感じ一瞬怯んでしまった。表情は変わっていない、だがとぐろを巻いた臨戦態勢の蛇に対峙した底冷えする感覚に陥った。

しかしそれも直ぐに貴族という強固な鎧を持つ自分に対して、そんな事が出来るはずがないと一蹴してしまう。

むしろ、自尊心を傷付けられたことに怒りが復活した。


「何を馬鹿なことを、おい!護衛ども!さっさとこの無礼者を斬らんか!」


舐めた態度をとる冒険者風情と判断し、護衛に付いている冒険者達の元に駆け出すとそう命令する。

しかし、一部始終を見ていた彼らが動き出す様子が無い事にも、イラつき始めた。

先程のリーダーらしき人物が、それに答える。


「旦那、それは無理だわ。知ってるだろ? 犯罪者でもない奴を殺して何か奪うと犯罪者に就いちまう。そうなったら街にも入れねぇよ。」


この世界のステータスの職業は、タイプとは違い従事する行為に対して自動的に更新される。

しかし例外として、故意に盗賊等以外の者を殺害した場合は、それに準じた職業に変更される。

だからこそカード確認は、絶対視されている。


「煩いわ!ではボロボロになるまで傷付ければよいわ!」


「まあ一応、護衛のついでに守りはす… る!?」


答え切る前に護衛のリーダーが見たのは、自分の方向を見ている貴族のその背後に、いつの間にか迫っている直哉の姿だった。

彼等は決して油断してなどなかった。

直哉がダガーに手を掛けた瞬間から、仲間に止める準備をする様にハンドサインを出していた。

もし、殺気を持って行動したならば即座に対応出来る自信があった。

ブロンズ彰を舐めている事は無い、寧ろ

ダブルシルバークラスである自分達なら動いてからでも対応できると自負していたのだ。

だが、そんな彼等が全く反応出来なかった。


「ぐぎゃあ!?」


突如、左肩から右脇腹に掛けて鋭く熱い痛みが襲ってきた。何が起きたのか理解出来ないまま、前方に倒れ痛みを堪えながら振り返ると、赤い液体が付くダガーを構えた愚者と呼んだ男が、いつの間にかすぐそこで立っていた。

背後の激痛で出た感情は怒りだった。


「巫山戯るな平民が!ワシに…ぎゃあああ!?」


言い終わる前に、腹部を斜めに通過する銀の線が視界に見えた。

背中の痛みと同様の感触が後から襲って来た。

もがき苦しみながら地面を転がる。

思考は働かない、既に痛みと恐怖で混乱状態になる。唯一やれるべき事で浮かんだのは先程のやり取りだった。

自身の体型に合うように、いくらかかったのかかかったのか覚えていないが、領地自慢の職人に作らせた、シルク製のサーコートに有るカードを取り出そうと、血で染まった手を動かす。

同時に、斬ってきた愚物を見ていると、今度はゆっくりと近付いてくるではないか。


「まて!見せ…ぐぁはっ!?」


最後に見たのは、先程の赤みを帯びた銀色の光が眼前に飛び込んでくる光景だった。



地面に転がる大きな塊と、その周りに飛び散る赤色の斑点、塊から流れる血の水溜まりがその場を重苦しくしていた。

余りにも一瞬の間で、耳障りな金切り声の主はもの言えぬ死体と変わっていた。

戦慄していた護衛の冒険者達だったが、正気を取り戻し始めると更に警戒を強める。

護衛達のリーダーが直哉に距離を置き話しかける。


「えげつないなあんた…見せようとしてたじゃないか…それにその規則は貴族に適用されないぞ!」


「人質も無い盗賊を相手に、何か武器を取り出そうとしている場面で、後手に回る必要がありませんよ。」


声をかけられたので、ダガーの血を振り払っていた直哉はそちらを見て答えた。

その表情は出会った頃と変わらないが、先程よりも、何か歪な魔物の様な気がする。


「それに、もし本当に貴族だったとしても、それを知らなかっただけの不幸な事故でした。ほら?盗賊になってませんよ?」


そう言うなり、直哉がその場で更新したステータスカードを再度提示してくる。

そこには確かに、職業が冒険者となっている。


「本当だ…何でだ?会う前に素性話しただろう?」


「カード提示の無い状態では、本人が盗賊と判断していたからでしょうね。」


何を当たり前なことを。とでも言いたげな直哉が余計に理解不能になってきた。


「ありえない…少しでも疑っていれば盗賊落ちするんだぞ!…本気でそう思ってたってーのか…」


あまりの出来事に思考を放棄し始め、交戦の意志が霧散していく護衛達を一瞥した直哉は、男に尋ねた。


「ところで、まだ馬車の中にいるようですが、そちらの方は?」


すると一気に場の空気が緊迫した。

────予想通りかな。

直哉はそう思った。

リーダーの男と貴族のやり取り、そして死体なった姿に焦る様子が薄い事から、何となく雇い主では無い気がしていた。

どう答えようか考えていた護衛達だったが、そんな中、馬車から1人降りてきた。

老齢の様だが、眼光は鋭く、皺がある顔だが品性を感じさせた。もの言わぬ死体となった男とは違う、貴族然とした堂々とした老人だ。


「ふむ。私は、西の領土を統治する公爵家当主、ロレーヌ=ルシ=アルフだ。さて、大変なことをしてくれたな。」


突然降りてきた事に驚きつつ、護衛達は慌てて傍に駆け寄り警護体制に入る。

この老人が本来の依頼主なのだろう。

話しかけられた直哉は、構えていたダガーの先端を地面に向けて答える。


「大変なことですか…ちなみに、貴方もカードを見せないのですか?」


「そうせくな。そこの男は歴とした伯爵の位を持つ者だった。事故ではすまんぞ?手配されることになるが、覚悟をしないとな。当然、冒険者組合も庇ってはくれん。」


恐れることの無い態度だが、先程の貴族とは違い嫌味が感じられない。

だが、それはもう聞き飽きた脅しでもあったので、ならばと用意していた内容を話すことにした。


「では、こちらは勇者達との権限を使わせて貰うまでです。」


更新したステータスカードを老人に見せる。

そこには、異世界人という種族が表示してあった。

老人は確認するなり微かに表情が動いたように見えた。


「これは…勇者と同じ種族ではないか…どういう事かの?」


「勇者達と私は、同じ時に召喚されたってことですよ。勇者達からの密命で、私は世界を回る必要があります。立ち止まる理由にはいきません。」


「…それを何故先程申さなかった。」


当然の反論である。

でも、状況次第であると直哉は思っていたことを話し出す。


「信じないでしょう?もし信じたとしても遺恨が残るでしょう。ならばどちらが有利になるのかと考えたのですよ。生かしておいて、後に足止めされるならばと……それに、今回の件の一件を勇者達に報告すると、どうなるか分かりますよね?」


「それを信じられると?」


「信じてもらうより早いやり方を選択するだけですが? 私は異世界の人間ですので、果ては元の世界に帰るつもりです。拉致されて連れてこられた身で、向こうの世界に残して来た大切なものと天秤にかけられるモノなんてありませんよ。」


老人は、淡々と答える直哉を観察する。


「…それはそこの仲間でもか?」


「守れる事なら守りますよ? はっきりと言わせて貰いますが、私達とこの世界とでは、交わることの無い常識の差があります。皆さんが思うような甘い考えが、私達にとって何よりも重要であったり、逆もまた然りです。」


問えばすぐ答えるやり取り、かつ先程斬殺を行った人物ならではの思想内容に、発言に嘘は無いと思った。

周囲を囲んでいる護衛達の雰囲気から、これからの対応を考慮していると、急かすように直哉が口を開いた。


「それで、貴方はどうしますか? 此処で朽ちるか、一先ず帰って指名手配や暗殺を差し向けますか?」


「待て待て、そう結論を出すな。ワシも此奴の趣味嗜好は好かんかったのだ。治める領地も他の貴族共が喜んで継ぐだろう。…今回は盗賊に襲われた。それで良いわ。」


相手が駆け引きをするタイプ出ないと咄嗟に判断した老人は、矛を収めるように護衛達に支持する。

全員が警戒を解いたのを確認すると、直哉は笑みを浮かべて老人に話しかけた。


「懸命な判断ですね。しかし、油断はしませんからね? “まだ“事故は1回だけですから、ロレーヌ=ルシ=アルフ公爵様?」


「……分かっておるわ。」


裏表を感じさせ無い笑顔の直哉に、背筋に汗が流れてしまう一同だった。

死体となった伯爵を積むと、矢継ぎ早に立ち去っていった。



公爵家の馬車が見えなくなった頃、直哉はダレン達に謝っていた。


「さて!皆さん、いきなり過激な事をして済みませんでした。」


「……本当に…事前に…言ってた通り。」

「…やっぱり、簡単に人を殺すのは…ううん、私達のためにですもんね。」

「怖かったっす!ありがとうっす!」


彼等が言う通り、事前に話しをしていたのだ。

直哉の境遇とそのカモフラージュとしての役割が、勇者達に代わり世界を見て回る事にしていて、そして直哉自身が決めたこの世界の行き方をだ。

ダレン達から聞かされた、日本に居た頃とこの世界の常識との違い。

この世界は日本と比べ命に対する権利が非常に軽い。

盗賊、奴隷、魔族、魔物…あらゆる危険が身近にあり過ぎて、そこには命の奪い合いが必ず存在する。

此処は日本と違う価値観なのだから、割り切るラインは必要だと感じた直哉は、聞かされた翌日には、ダレン達に告げていた。


一つ、大切な者を侮辱し傷付ける人物。


二つ、明確に殺意を持って敵対する人物。


この二つに触れた場合は、戸惑いなく行動すると話し、そこには殺害も含んでいた。

当初は、話し半分に聞いていた3人だったが、最後の方になると、以前自由の翼と名乗る人物と接触した直哉を思い出し、本気じゃないかと深く刻んでいた。

勿論自分達だって冒険者をやる以上は、盗賊狩り等の殺人行為をする覚悟があった。


「でも…伯爵でした…これから大変な事になりませんか?」


不安な気持ちが中々振り払えないレレイが訊ねる。


「どうでしょうか。しかしまあ、そうなるとしても時間がかかるでしょう。まあ、あの伯爵には悪い噂なんて数多くあるでしょうし、気楽に行きましょう。けどこれで強くなる必要がまた出来ましたね。」


そうである。

今回行動を起こした結果と、当初の目的は変わらない。

敵を増やした。指名手配される。

何れにしても、弱けれぼ搾取される現状と変わりが無い。

ステータス概念があるこの世界、力を付ける事が最善であり、解決策の幅が広がると判断している直哉だった。


少しだけ沈黙した中、彼がやってくれた。


「強くなるって、レベルどんだけ上げないといけないんっすかね!?」


「少なくとも…平均ステータスを考えると、100は超えようね?」


「100とか、鬼っす!おじいちゃんになるっす!そしたら最強のおじいちゃんっすね!?」


何処かズレた返答をして、まだまだ遠い数値にこれからの修行を想像して涙するダレンに、いつもの如くツッコミを入れるレレイ達だった。

いつも落ち込んだ雰囲気を和らげてくれるそんなダレンに感謝した直哉である。





直哉達のいつもの雰囲気が戻った頃、移動している公爵家の馬車では、護衛に雇った冒険者チームのリーダーに質問をしていた。


「奴の名は何と申したか。」


「はい!ナオヤと書いておりました!」


「そなたはどう想う?」


「はい?何がでしょうか?」


「奴が言っておることを詮索するとしたらだ。」


「……少なくとも、表情一つ変えることなく殺したアイツに、敵対しようなんて思いません。それに、俺達より圧倒的に強いです。」


「……勇者達は短絡的思考と聞いていたが、存外違うものだ。この事は他言無用ぞ?」


「俺らも関わりは持ちたくないんで、広めるつもりはありません。」


いつもは飄々とした態度で仕事をこなす目の前の冒険者が、意思を込めて答える。

そんな姿を見て、何も言わず馬車の窓を閉めた。

一人になり、これからの事を考えていくと、自然と独り言を呟いた。


「ふむ…王族は、勇者達を洗脳すると画策しておるが…あの様な人間達を操ろうとなど、分かっているのだろうか?」

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名前:レレイ

種族:人族

称号:

職業:冒険者 

タイプ:見習い白魔法士 Lv5

レベル:7

体 力:65

魔 力:86

攻撃力:14

耐久力:35

素早さ:30

知 力:55

器用さ:40

【 固有スキル 】


【 習得スキル 】

魔力向上補正Lv2、疲労回復速度Lv1

歩法Lv1、危険察知Lv1、魔法耐性Lv1

魔力増加、魔力操作Lv1、魔力効果増加

詠唱短縮Lv1

回復魔法Lv3、炎魔法Lv1、強化魔法Lv3

【 タイプスキル 】

純白の祝福

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