第八話 新たなる冒険!
「お疲れ様でした、勇者様!」
私は、目の前の一人の青年に笑顔で話しかける。毎回恒例の、勇者様とのお別れの儀式。
今日の勇者様は、割りと活躍して下さった。平均よりちょと上くらいの活躍だ。
「ありがとう!みんな!」
そして勇者様は、私たちの目の前から消えていく。勇者様が消えると同時に、私はぐったりとその場にしゃがみこんだ。足元の雑草を両手の指でこねくりながら、深いため息をつく。
「……私は、日雇い傭兵のガイドじゃないのよ!」
私の名前は【パンナ】。正式名称はパンナ=コッタだ。この世界で冒険者をやっている、金色の長髪と銀色の眼鏡が可愛さの秘訣の白魔法を使う魔道士だ。
最近は、そこそこ有名になってきたようで、自称、中級冒険者というところね。
「まぁ、役に立たないよりはいいんじゃないか?戦力にもなってるし」
そう私に話しかけるのは、パーティーのメイン盾の「アイス」。正式名称はアイス=モナカ。かなりの腕の元王国の騎士。色々あって今は私たちとパーティーを組んでいる。性格もよく、わりと顔もいい。女性にはもてるはずなんだけど、本人は私たち含めて女性にあまり関心はないようだ。
もちろん男性に関心があるわけでもないようだった。
「……眠い……」
勇者を見送って、眠そうな顔をしているちびっこい幼女のように見える少女。正確には年齢は私と一緒らしいんだけど、やっぱり幼女っぽくみえてしまう。
彼女の名前は「ザッハ」。正式名称はザッハ=トルテ。
長い黒髪の黒魔法を使う魔道士だ。結構由緒ある師匠の元で修行をしていたらしく、魔法の力はかなり高い。パーティーの遠距離支援の要となっている。
そして、この私には、ある特別な魔法があるのです。話せば長くなるので、詳細は割愛するけど。
その魔法の名前は「勇者様ガチャ」!
1日1回異世界から勇者様を召喚する、神魔法なのだ!とはいえ色々制限があったりする。確実に超すごい勇者が召喚できるとは限らない。全ては【運】なのだ。
しかし、幸いなことにレアでないノーマル勇者様もしっかり強い。正直、その辺の傭兵よりは強いのだ。……なので私たちは、毎日勇者様を召喚し、ギルドの依頼などを受けて生計を立てている。一人いるだけでも、戦闘の安定度は格段に上がるのだが、傭兵を雇うには結構な金額は必要となってしまう。しかし、召喚した勇者様は銅貨三枚で、雇えてしまうのだ。これは有効利用するしかないだろう。
少し前、私たちはとある街の近くの孤島に住み着いていた狂獣【シャコタン】を退治して、高額の賞金を受け取る……はずだったのだが、私たちの戦いで、その孤島をまるごとふっ飛ばしてしまった。
吹っ飛ばした力は勇者様の力なんだけど、さすがにやりすぎてしまった感はあった。もちろん街の人には、知らぬ存ぜぬ記憶にございませんで通している。
ギルドの話だと孤島の周りの復旧に膨大が金額がかかるため、本来の討伐に対する報奨金を出すことが難しくなってしまったとのことだった。
結局、私たちは賞金を辞退して、再度旅の資金を稼ぐために日夜頑張っているというわけだ。
「じゃあ、勇者様も見送ったし、一度戻りましょう!」
私たちは宿に戻り、ゆっくり休んでから、再度この街のギルドの依頼を確認することにした。宿につき、三人部屋のベッドで横になる私とザッハ。
「このベッドふかふかね!」
私は毛布をぎゅっと抱きしめる。程よい弾力が気持ちいい。
「……ぐぅ……」
「はやっ……!」
ザッハは既に熟睡の域に達していた。
アイスは、そんな私たちを気にも留めず、部屋の隅に布を敷いて寝ている。昔は男女別々の部屋だったんだけど、最近は宿代節約の為で一緒の部屋で過ごすことが多くなった。まぁ私とザッハもアイスがいても、アイスは興味ない素振りだし、いままでこれといってそういう男女の関係みたいなものも起きたことがなかったから、いまではこんな感じになっている。
「さて、寝るぞー!」
私はふかふかのベッドに大の字で倒れ込むと、そのまま死んだように熟睡してしまう。どうか、明日は強い勇者様が現れますように……。そんなことを考えながら。
そして次の朝――。深い眠りだったせいかかなり寝過ごしてしまったようだ。窓からみる日の光は、あと少し経てば真上にくる感じだった。
私だけ寝坊してしまったようで、アイスとザッハは既にギルドへ行く準備は既に終わらせて、他愛のない雑談をしつつお茶を飲んでいた。まぁ、アイスがほぼ一方的に話していてザッハが相づちを打っているいるだけなんだけど。どうも仲間はずれにされたようで悔しいのだが、アイスに熟睡していたので起こすのがかわいそうだったと言われてしまって、反論することができなかった。
私は、さっさと支度をすまして、アイスがいることも気にもせず着替え始める。
「さぁ、準備できたわ! 行きましょう!」
「よし、いくか」
「……了解……」
私たちは宿屋を出ると、この街のギルドに向かうことにした。私たちがギルドに近づにつれて、人だかりが多くなってきた。それに何かざわついている感じがする。何かあったのだろうか?
「何かあったんですか?」
私は、通りすがりの冒険者に声をかけてみる。
「ああ、さっき負傷した冒険者が運ばれてきたんだけど、15人のパーティーが壊滅したらしいんだ」
「15人!?」
結構な人数で編成されたパーティーだ。それが壊滅となると只事ではない。
詳しい話しを聞きたかったが、先程話していた冒険者は用があるとのことで既に私たちの視界からは消えていた。なので、私たちは他の冒険者に色々話しを聞くことにした。すると、どうも狂獣が街の近くの廃墟となった城で何かをしているらしいとのことだった。狂獣の種類、数は不明。壊滅したパーティーの人数を考えると、かなりの強敵と考えられるだろう。
私がギルドの前で情報を仕入れていると、ギルドの依頼掲示板に、一つの新しい依頼が貼られていた。
「廃墟となった城の調査と原因の解決 報酬300銀貨」
銀貨300――。
それなりの大金だ!中級辺りの冒険者が、百日以上でやっと稼ぐくらいの金額だろう。
「ねえ二人共、あの依頼受けてみない?」
「確かに三人では難しいが、それなりの勇者様がでれば問題なさそうだ」
「……うん、いいよ……」
私たちは、さっそく街の外れの林に向かうと勇者様を召喚することにした。ここで強い勇者様を召喚できれば、依頼達成など容易いものだろう。
【勇者様ガチャ】の魔法陣を描き、銅貨三枚を対価として魔法陣に投げ込んで支払う。
そして中央には【TOUCH!】の文字が空中にふわふわと浮かんでいる。
「本当に、本当に、超強い勇者様、お願いします!」
私はいつものお祈りをして、【TOUCH!】の文字に触れる。
後ろで見ていた二人も、今回の報酬額もあり、結果が気になるようで身を乗り出してこちらの様子を伺っている。
「……!! こ、これは!!」
以前召喚した勇者様の中には、召喚までの【演出】が違うレアな方がいらっしゃったのだが、目の前で起きているその【演出】は、それ以上に豪華で派手なものになっていた。黄金の光が魔法陣からあふれるほど、光り輝いてくる。星を形をした光のような物体が、くるりくるりと魔法陣の周りを舞い踊るように動いている。
しばらくすると、黄金の光は収束し魔法陣から扉が現れる。
「……おう…ごん……だわ……!」
私は息を飲む。いつもは、ちょっと豪華な装飾付きの扉が現れるのだが今回は違う。全体が金色ピカピパの豪華な扉だった。
この扉、一体いくらするんだ……とか考えてしまった。結構な貧乏性よね……。
しかし、これは明らかに【あたり】だ。
私はついに【勇者様ガチャ】で【あたり】を引いたのだ。
「やった……やったわ……!」
嬉しさのあまり、体中が震えている。
そして、黄金の扉が重い音をたててゆっくりと開いていく。私たちは、開かれる扉に視線を集中する!どんな強い勇者が現れるのか、一刻も早く見てみたかったのだ。
そして――!黄金の扉が消えると、そこに一人の勇者様が現れる。
驚愕した……!
年齢は私よりも結構年上の、おじさんという感じだった。
勇者というには、あまりにもふくよかで。
勇者というには、あまりにもぽっちゃりで。
勇者というには、あまりにもまるかった。
「にくだんご……」
ザッハの口から、うっかり本音が漏れてしまっていた。……とはいえ、見た目が全てな訳ではない。あれだけの豪華な勇者様ガチャの【演出】を見せたのだから、きっとすごい能力を持っているに違いない!
……にくだんごだけど……。
私はいつものように、にくだんご……じゃなかった、勇者様にことの成り行きを話そうとすると、勇者様は息を上げながら、小走りでザッハに近づいていった。
「はぁはぁ……」
「ふぅふぅ……」
「ねぇ君かわいいね? 小学生? 中学生かな? おじさんに教えてくれないかな?」
「……ひっ!」
ザッハに顔に、限界まで近づけようと試みるにくだんご。ザッハは突然の出来事で顔面蒼白。魔物に襲われる直前の小動物のように小刻みに震えていた。