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第七話 あなたは勇者様!

 ここは、私たちが宿泊している宿屋の近くにあった料理屋だ。この街一番の料理屋ということで、店内は多くの地元人、冒険者で賑わっていた。

 私たちは、店内の奥にある少し豪華な円卓を囲って、注文した料理を待っていた。



*****



 私たちは、あの戦いの後なんとか無事に戻ってきた。正直、街に到着するまで生きた心地はしていなかったけど。途中で狂獣にでも襲われたら、全滅しかねないほど全員疲弊していたからだ。

 

 街に到着すると街の入り口にいた守衛が、私たちの姿に驚いていた。その守衛の姿を見て、やっと私たちは安堵することができた。

 その後、守衛の方にシャコタン討伐の話をすると、すぐに冒険ギルド(冒険者が集まる独自の組合)の人たちを呼んできてくれた。

 四天王のことは、面倒になりそうなので、今のところは黙っておくことにした。


 すぐにギルドで、私たちは治療を受けることにした。私とザッハは魔力の枯渇、アイスは極度の肉体疲労とのことで、幸いにも命に別状はない状態だった。ケイスケ様は、それなりに疲弊はしていたが大きな怪我もなく、私たちよりも早く動けるようになっていた。

 治療が終わり、何とか歩けるようになった私たちは、ギルドの窓口で依頼達成の報告をすることにした。


 「はいこれ、シャコタンの髭ね。確認してちょうだい」


 「え! あの孤島のシャコタンをですか?! は、はい! いま確認いたしますので、そちらでお待ち下さい冒険者様!」


 ギルドの受付嬢は、私たちの報告に驚いていた。シャコタンが住み着くようになってから、あの湖近辺の産物の恵みを受けることができなかったのだ。恵みを受けられるようになれば、街の多大なる活性化につながるだろう。


「しかし……どうするんだ……島は……」


 報酬の結果を待ちながらも、ため息をつくアイス。


「……消えてなくなっていた……」


 そう呟いたザッハは、待ちきれない様子だった。


 ……私たちが気がついたときは、孤島の山が消えてなくなっていた。

 おそらく……というか間違いなくケイスケ様が召喚した【超破壊爆弾】が原因だろう。かなりの規模の爆発だったと思う。私たち全員、湖の中で満身創痍中だったので爆発のことを覚えていないのだけれども。おそらく既に、孤島の方は大騒ぎになっているのかもしれない。


「いい? 私たちはシャコタンを倒しただけ。それ以外は何も見なかったし、聞かなかった。わかった?」


「りょーかい」

「……わかった……」


 うなずく二人。あのミチバとかいう四天王が追ってこない所を見ると、爆発に巻き込まれたか、それとも見逃してくれたのか。今のところは大丈夫だろう。たぶん。


「ケイスケ様?」


 私は、うつ向いているケイスケ様に話しかける。すると、はっとした表情で私の方を見返す。


「あ、うん……、わかったよ。街のみんなには内緒なんだね」


「はい」


 街に戻ってきても、どことなく落ち込んでいるように見えるケイスケ様。治療を受けた時には、怪我などはなかったようなので大丈夫とは思うけど、一体どうしたのだろう?


 そんなことを考えていると、先ほどの受付嬢が戻ってきた。


「お……おまたせしました! 確認致しました! 確かにシャコタンの髭の先端ですね。後ほどギルドの者がシャコタン討伐の確認にいきますので、報酬は確認後になりますがよろしいでしょうか」


 私は、受付嬢に交渉する。


「あの、ごめんなさい。私たちいま無一文なので、できれば一時金とか貰えると助かるんだけど」


「あ、はい、わかりました。髭は間違いなく本物でしたので大丈夫だと思います。少々お待ち下さい」


 あっさり交渉成立! 討伐したのは確かだからね。そして、程なく受付嬢が戻ってきた。


「はい、問題ございません。それではこちらへどうぞ」


「それじゃあ、報酬受け取ってくるね」


 私は、案内された窓口でで報酬の一時金を受け取ると、受取表にギルドの冒険者番号を記載した。受け取った袋には銀貨百枚が入っていた。銀貨一枚で銅貨十枚分の価値がある。少なくとも当面の生活には困らない金額だ。


「ありがとう!」


 私は受付嬢にお礼をいうと、みんなの元に戻った。



*****



 それから私たちは、そのまま討伐達成を祝う為に、宿屋の近くの料理屋に来たというわけだ。


 そして頼んでいた料理が届き始める。円卓の上には、この街の産物なのだろうか、街で育てている作物、森の果実、湖近辺で取れた生き物を使った豪華な料理が幾つも並べられた。


「ケイスケ様、飲み物はどうなさいます? お酒は飲まれます?」


 私はケイスケ様に確認する。


「あ……ああ、僕はお酒飲めないから、何か美味しい飲み物をお願いできるかな?」


「分かりました、ケイスケ様」


 飲み物はザッハとアイスはお酒を、私と果汁汁を持ってきてもらった。


「それでは、頂きましょう!みんなお疲れ様!」


 私が食事開始の合図をすると、ザッハが勢い良く前の料理に食らいついた。一心不乱食べる彼女。いつもの見慣れた光景なのではあるが体型に見合わずすごい食欲だった。


「いてて……」


 難しい顔をしながらも、アイスはお酒を楽しんでいた。肉体を酷使した影響だろう、まだ体中に痛みが残っているはずだ。


「アイス大丈夫? 宿で休む?」


「大丈夫だ。問題ない」


 そういったアイスは、ケイスケ様の方を向くと話しかける。


「今日は助かったよ。勇者様、ありがとう」


 アイスは深々と頭を下げる。


「い、いえいえ、僕の方こそ助けて頂いて……!」


 謎肉を食べながら、アイスと同じように頭を下げるケイスケ様。


「もっと誇っていいんだぞ? 勇者様がいなかったら、我々は危ないところだったんだからな」


 そういってアイスは、ケイスケ様に自分の前の料理を取り分け食べるように進める。アイスは結構気配りが聞く男なのだ。


「い、いえ……! そんなこと……」


 褒め慣れていないのか、ケイスケ様の態度はぎこちなかった。それとは多雨省的に、ザッハは何も語らずただ一心不乱に食べていた。



*****



 お酒の影響か、アイスとザッハはほろ酔い状態だった。料理の残りをつまみながら、お酒の追加を、料理屋の娘に頼んでいた。この二人は、まだ飲む気なのか……。いや、いいんだけどさ。


「ねぇ? ケイスケ様、少し夜風にあたりにいきませんか?」


「あ……うん」


 私はケイスケ様の手を引きながら、料理屋を出る。料理屋の前の街道の隅に、小さな水飲み場があったので、そこにケイスケ様と一緒に座った。


 空を見上げると、夜空には無数の星が輝いていた。


「私、星を見るのが好きなんですよ」


 そんな他愛のない言葉を掛けると、ケイスケ様が私に訪ねてきた。


「僕は……、勇者になれたのかな……」


「え……?」


「実はさ、僕はパンナがいう異世界? あっちの方では何もしていなかったんだ。やりたいこともなく、自立もせず親のすねをかじりながら、ただただ生きていただけだったんだ。正直、こっちにきたときは驚いたけど、もしかしたら自分を変えられるんじゃないかって思ったんだ」


 私は、ケイスケ様の言葉に耳を傾ける。


「でも結局、僕は助けられたばかりだった。きっと、僕じゃなくもっと強くい勇者を引けたら良かったんじゃないかって――」


「僕は、結局――」


 私は指で勇者様の口を塞ぐ。


「私の理想の勇者様って分かります?」


 私の問いに、ケイスケ様は首を振った。


「確かに力が強い、技がすごい、魔力が高い、そういう方が勇者であったほうが良いというのはあります。でも、私の理想の勇者は――」


「うん……」


 私は、勇者様に微笑みかける。


「諦めない……、勇者様です!」


「あの時、私は……いえ、おそらくアイスもザッハも諦めたと思います。全滅するんじゃないかって。でもケイスケ様は、諦めなかったじゃないですか」


 私は立ち上がり、少し歩くと振り返りこう告げた。


「あなたは勇者様! 間違いなく、私たちの勇者様です!」


 少しだけの静寂――。

 ケイスケ様は頬を少しだけ赤くしながら少し照れくさそうに


「ありがとう!」


 そう私にいってくれた。その顔は、もう曇った表情ではなく、希望に満ちた表情に変わっていた。

 それから私たちは、少しだけ夜空の星を一緒に見上げ続けた。



*****



 夜が深くなっていく……。私たちは勇者様を召喚した、あの草原に集まっていた。私たちは余裕があれば、労いの意味も込めて、異世界に戻る勇者様を見送ることにしていたのだ。

 早朝とは違い、草原全体に少しだけ冷たい風が吹き、草葉が微かに音を立てている。星明かりで、ある程度周りは見渡せていた。


「それではケイスケ様、一日勇者様ありがとうございました」


 私は手を差し出すと、ケイスケ様は迷いもなく手を差し出して握手をして下さった。


「みなさん、ありがとうございます。たった一日だったけど、みなさんと冒険して、少しだけ自身がついた気がします。……だから元の世界でも、もう少し頑張ってみるよ!」


 笑いながら話す、ケイスケ様。


「そうだな、ケイスケ様は立派に勇者を努めたと思うぞ。大丈夫だった」


「……勇者さま……がんばれ……」


 アイスもザッハも笑いながら、ケイスケ様に言葉を伝える。


「うん、そろそろ時間ね……」

 

 時間がきたのか、ケイスケ様の全身が徐々に光に包まれていく。


「……ケイスケ様!」


 私は少し踏みこむと、勇者様の手を引き顔を引き寄せる。

 目と目があう、私とケイスケ様。


「これは、私からのご褒美です――」


 私は、勇者様の頬に口づけをする。

 その瞬間、勇者様の姿はこの世界から消えさった――。


「じゃあ、宿に戻るか?」


「……ええ、そうね」


「……ねむい……」


 ザッハは、今にも眠そうな雰囲気だった。


「おぶってっていてやろうか」


「……大丈夫……一人で歩ける……」


 私たちは、星の光差す草原の夜道を歩き始めた。


「次はどうする? パンナ?」


「そうね魔王の四天王はやっぱり気になるわ。一度王都にいって魔王についての情報を聞いておきたいわね」


「王都か……久しいな」


 少し難しい顔をするアイス。


「でも大丈夫よ。私たちには勇者様がいるんだから! 魔王を軽くぶっ倒すくらいの勇者様を今度は引き当てるんだからね!」


 そう私は引き続ける――。

 SSRな勇者様を引いて、魔王を倒すその日まで――。


これにて第一部はおしまいです。

読んでいただきありがとうございました。


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