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第六話 勇者は諦めない!

 シャコタン討伐を達成した私たちの前に、突如立ちはだかる謎の男――。

 その男は、自ら魔王の四天王【ミチバ】と名乗るのだった――。



*****



 洞窟の中は、静寂に包まれている。とても息苦しい空間になっていた。私たちは、その男、ミチバの覇気の前に、身動きを取ることができなかった。


 ミチバは水面の上を、こちらにゆっくりと向かってくる。何らかの魔法で、水面に浮いているようだった。ミチバが歩くと水面には、波紋が広がっていた。そして地底湖の浅せまでミチバが近づいたところで、この静寂は破られる。静寂を破ったのは、アイスだった。


「フォースラピッド!!」


 アイスは脚力強化の魔法を素早く詠唱し、ミチバとの距離を一気に詰める。強敵の前に、アイスは手加減なしに、ミチバに槍の先を向ける。


「フォースバースト!!」


 アイスは更に両腕の筋力強化魔法を唱える。アイスが本気を出した時の必殺のコンビネーションだ! 恐るべき速さで右手に握りしめた槍を、ミチバの心臓めがけて突き刺さそうとする。この必殺技は例え王国の騎士といえども、防ぐのは難しいだろう。


 しかし、その必殺の攻撃をミチバは、両手で受け止めてしまう。


「なっ!?」


 両手で槍の先をつかむと、そのままアイスをザッハとケイスケ様のいる方向へ軽々と放り投げた。


「キャ………!」

「うわああああっ!」


 間一髪、飛ばされたアイスを避ける二人。飛ばされたアイスも、直ぐに体制を立て直す。どうやらアイスも無事のようだ。

 しかし、状況が深刻なのは変わらない。 


「なかなかの攻撃だったぞ。褒美をやろう。」


 ミチバは、先程の落石で落ちてきた人の数倍程度はある岩を軽々と両手で持ち上げると、アイスたちにめがけて投げつけた。

 アイスはともかく、ザッハとケイスケ様に当たれば、怪我ではすまない!


「み、みんな――!」


 私が叫んだ瞬間、ザッハが岩めがけて魔法を詠唱する。


「……ダークフリーズ!」


 直撃かと思われた岩は、三人の少し前で重力を無視して突然停止してしまう。アイスはチャンスとばかりに、ザッハとケイスケ様をを抱え、その場所から退避する。

  アイスが移動したすぐ後に岩は再び動き出し、三人がいた場所を恐ろしいまでの速度で通り過ぎ入り口を塞いでいた巨大な岩に衝突する。衝突の威力は凄まじく、入り口の巨大な岩もろとも粉々に砕け散ってしまう。

 間一髪だ……!


「い……いま岩が止まったような……?」


 ザッハの魔法に驚くケイスケ様。


「……時間停止魔法……。生き物でなければ少しの間止められる……。でも魔力をかなり消費するのでオススメしない……」

 アイスとザッハは、ケイスケ様を庇うように前に立ち、再び戦闘体制をとった。流石は、私のパーティーメンバーだ。体制の立て直しが早い。

 でも、これの状況はとてつもなく不味い。アイスの必殺のコンビネーションが破られたてしまっては、私たちがミチバを倒すのはかなり難しい。私は、何か良い方法がないか、次の効果的な一手を考える……が、ここまでの強敵を私は相手をしたことがない。


【――全滅】


 そんな言葉が、私の頭の中を過る。

 いや、そんなことは、絶対にさせない!


 私は、胸に隠していた短剣を取り出し、魔法力を注ぎ始めた。


「お願い……、早く……溜まって……」


 それは、私の一撃必殺魔法。

 ただし、瞬間に発動できるものではなく、魔法の発動まで恐ろしいまでの時間が掛かってしまう。もし、ミチバに今攻撃されたら、私は死ぬだろう。


 ……どうか、こっちを向きませんように!


「……ひぃ!」


 私の祈りも虚しく、ミチバはこちらを振り向いた――!しかし、ミチバから発せられた言葉は想定していなかった意外なものだった。


「ほう、面白そうな攻撃をしようとしているな。良かろう私に放ってみると良い」


 ……頭にきた! 私は、戦いでおちょくられるのが、とても嫌いだったのだ。

 にらみ合いの時間が続く中、ついに、短剣に私の魔法力がすべて注ぎ込まれる。私は深呼吸をするとミチバに狙いを定める。これが失敗したらもう後がない。


「じゃあ受けてもらいましょうか、四天王さん!」


 私は短剣をミチバに向かって投げる。すると、短剣は途中で粉々に砕け散ちる。しかし、砕け散った破片は、流星の如く光となり、数銭の星屑となってミチバに襲い掛かる。


 私の唯一の一撃必殺魔法【スターダスト】

 星々の力と私の魔力をありったけ詰め込んだ、私のとっておきだ!


「いっけ――――――!」


 私は、最後の力で精一杯叫んだ!

 そして、ミチバにすべての星屑が襲い掛かる!


 すべての星屑はミチバに直撃する。ミチバが身に着けていた漆黒の鎧が木っ端みじんに吹き飛んでいく。そして光が、全方位に飛び散っていく。それはまるで、夜空に流れる流星群のような光景だった。


「……ううっ……!」


 私は力尽き、その場でうつ伏せで倒れてしまう。なんとか頭をゆっくりと動かし、直撃した場所をみる。

 ……私が見た先には絶望があった。


 ミチバは鎧を吹き飛ばされながらも、身体には致命傷となるような傷が一つも無かったからだ。


「素晴らしい攻撃だったぞ、女。まさか、あの鎧を吹き飛ばすとはな。私も、貴様にお礼をしないとな」


 ミチバはそういうと、再び地底湖の方に戻って行く。そして、地底湖の中心で立ち止まると、両腕を掲げる。その手の上には、巨大な何かの姿は現れようとしていた。

 何かの魔法なのか、召喚なのか分からない。でも、そんなことはどうでもいい。もう私には、避ける力は残っていなかったのだから。

 できることなら、他の三人には逃げて欲しかったが、おそらくミチバから逃げ切ることは難しいだろう。


 全滅だ――。

 しかたがない――。

 パンナのパーティーは魔王の四天王と勇敢に戦ったのだ――。

 ここで全滅してしまっても、しょうがなかったのだ――。


 私はケイスケ様に、心の中で謝罪をする。

 私が召喚しなければ、勇者様は異世界で幸せに暮らしていたのだから。

 ごめんなさい……。


 そんなことをぼんやりと考えていると、誰かが雄叫びが私の耳に響き渡る。


「ケイスケ……様……!?」


 勇者様は諦めていなかった――。


 ケイスケ様が手をかざして、両手の先から【あの箱】を召喚していた。そして、それをミチバ目掛けて蹴りつけたのだ。

 こちらの世界に召喚された勇者様はある程度戦えるように適切にコンバートされていると魔導書に書いてあった。そのため、【あの箱】は、かなりの勢いでミチバに向かっていった。


「ザッハさん! あの箱を一時的に止めて!」


 ケイスケ様の声にに応えるように、ザッハは時間停止魔法を詠唱する。


「……ダークフリーズ……!」


 すると、勢いよく飛んでいた【あの箱】はミチバの前で急停止する。


「おお? なんだこの箱は……? 見たこともない模様だが……?」


 その面妖な箱にミチバは興味を示す。気を取られたのかミチバに初めて隙ができた。

 アイスとザッハは、それを見逃さなかった。


「フォースラピッド!」


 再度脚力を強化し、一瞬のうちにアイスは私との距離を詰める。そして動けない私を肩に抱き抱えると、そのままケイスケ様とザッハのいた場所に向かう。


「……最大威力……、ブラック……ウィンド!」


 アイスの行動を予期していたザッハは、渾身の力を込めた魔法を打ち放つ。


 しかし、それはミチバに対してではなかった。黒き疾風は、地底湖のの浅せに打ち付けられる。その瞬間、大量の水しぶきと白砂が空中に舞い散った。

 地底湖の天井、ミチバが開けたと思われる穴からの日の光が差し込んでいる。その光が、空中の水しぶきと白砂に反射し、空洞内全体を光が包み込むのだった!


「ぐおおおおおおおお! 眩しいぞ!!」


 流石に、ミチバは、このような事態は予想していなかったようだった。輝く光の反射から目を守るように腕で目を隠したのだ。


「フォースバースト!!」


 アイスは腕力をさらに上げ、先ほどの魔法で力尽きたザッハとケイスケ様、そして私含めた三人を抱き抱えると、洞窟の出口に向かって走っていく。


「うおおおおおおお!」


 両肩に私とケイスケ様、左腕にザッハを抱えたアイスは、右手で槍を構えながら走り続ける。人一人くらいしか入れなさそうな狭い出口を、渾身の槍の突きで吹き飛ばすと、そのまま孤島の外へと走り抜く。

 吊り橋のところまでくると、そのままの勢いで吊り橋を勢いで渡る。しかし不幸にも、途中で吊り橋がその衝撃で耐えられなくなり、私たちが渡りきる前にバラバラに崩壊してしまう。


 私たちも、崩壊した橋同様、そのまま湖に投げ出されてしまった――。



*****



「ふむ……、逃げ足だけは早いようだな。まぁ、なかなか面白い人間どもだった。あの剣も含め、楽しみは後で取っておくか……」


 その刹那、ミチバの前に停止していた箱が動きだした。


 そして――!



*****



「んんっ……」


 ここは、天界……なのだろうか。


 私は体を動かそうとしたが、激痛が走るばかりで体を動かす事ができなかった。それに、なぜか全身ずぶ濡れ状態……。一体何が起きたのだろう。


「良かった! 気がついたんだね、パンナ!」


 薄っすらと開けた目の前に見えるのは、私を心配そうに見つめるケイスケ様だった。

 謝らないと――。


「起きたか……?」


 アイスの声が聞こえた途端、私は、死んでいないことを認識する。


「あれ……? もしかして、生きているの?」


「ああ、なんとかな」


 アイスが答えた。目でアイスの姿を確認すると、いままでの冒険では見たことが無いほどボロボロの姿になっていた。


「ザッハは……?」


「ああ、ここにいる」


 目線を下げると、アイスの膝を枕代わりにして眠っていた。ザッハも同様にボロボロの姿だった。何があったかわからないけど、どうやら、私は、みんなに助けられたらしい。


 まずは、みんな……、そしてケイスケ様が無事で良かった。安心した途端、私の意識はまた眠りについてしまうのだった。

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