第五十七話 突然のプロポーズ!
私は、ラミンさんに事の経緯を一通り話すことにした。
人間と魔族が共存する世界を目指すのであれば、三王国の一つ、シフォン国のグラニュー王子の協力は必須になるだろう。ラミンさんは、オードブルの王都ではかなりお世話になっているし、ザッハとの面識もある。人柄を考えれば、いきなり魔族討伐とか言い出したりはしないだろう。
「……という訳です……ラミンさん」
ラミンさんは、私が話し終わるまで、黙って耳を傾けてくれた。
正直どんな反応が返ってくるのか、怖いところもある。結論として、魔王の血を引いているザッハを拘束する……なんてこともあるのだから。
「なるほど、分かりました。……ふむ、これで納得がいくな」
「納得……? ですか?」
「ああ、私が君たちを訪ねたのは、実はマカロンを調査していた私宛に密告があってね。その際、カガという首謀者を君たちが討伐したという情報があったのだよ」
「そ、そうなんですか!?」
しかし、一体誰が? 私たち以外だとカガ倒した事を知っているのはコウメちゃんと勇者様だけだった気がする。勇者様は元の世界に戻ったし、コウメちゃんが密告する……というのはいささか考えにくい。
すると、ザッハが胸に手を当て、安堵の表情を浮かべる。
「……恐らくですが、多分、私の師匠だと思います」
「あっ! そういえば、確かに、あの人なら……!」
私はもう一人、私たちの事を知っている人物を思い出した。
「ザッハちゃんの師匠……。あの研究所の筋肉爺さんか……。なるほど、確かに彼ならマカロン国の内情に詳しいし、私の事も把握していたと思う」
「……あの、ラミン様! もし師匠に会ったら、顔を見せて欲しいとザッハが言っていたことを伝えて頂けないでしょうか?」
「……分かった。伝えましょう」
ザッハは師匠が無事だった事を知って、嬉しそうな表情をしていた。一方、ラミンさんは、再び、何か考えている様子だった。
私たちは、ラミンさんが考えをまとめるのを待つことにした。しばらくの間、部屋は静寂に包まれ、視線はラミンさんに集中する。
「それで、ザッハさんの処遇ですが……」
ラミンさんは、席を立ちザッハの隣に立つと、ザッハの手を握る。私たちは、ラミンさんがどんな結論を出したのか息をのんで見守った。
「ザッハさん、私と結婚しましょう」
「え……?」
「……!?」
「なっ……!?」
何通りかの結論は予想していたのだが、流石にいきなりプロポーズとかいう事態は想定していなかった。
「ちょっ、何言ってるのラミン様!? い、いきなり結婚とか!?」
アンゼリカはザッハを後ろから抱きしめると、ラミンさんに抗議する。
「まぁ、待ちなさい。アンゼリカ。人間と魔族、共に仲良くするのであれば、まずはそれが可能かどうかを世間に知らしめなければならない。私とザッハっさんが結婚すれば、それは事例として今後有効になるのではないのかな?」
「そ、それはそうだけど……、いやいやいや、本人の気持ちはどうなのよ!?」
「私は、一目ぼれだ。問題ない。最近、グラニュー王子が私にお見合い話を持ってきてうんざりしていたところなんだよ」
ラミンさんは、苦笑する。
「ざ、ザッハちゃんは、どうなの?」
全員の視線が、今度はザッハに向く。ザッハは少し考えると口を開いた。
「……それが必要なら、愛はありませんが結婚をしても良いと思っています……。ラミン様は尊敬しておりますので」
キツイ。キツイよザッハ。その言い方は。案の定、その言葉を聞いて、ラミンさんはガックリと肩を落とす。
「おお……、そこまでハッキリと言われると、私も大人しく引くしかありませんね。しかし、ザッハさんの覚悟は伝わりました。とりあえず、アンゼリカやパンナ殿が一緒にいれば問題ないでしょう。グラニュー王子には、私から後日伝えておきます」
「あ、ありがとう! ラミンさん!」
「いえいえ、私は平和主義でしてね。できれば、どんな相手とでも戦争は回避したいとは考えているのですよ」
「……それで、ザッハさん、もう一つだけ、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「……はい? なんでしょうか?」
「貴方に、今、好きな方はいらっしゃいますか?」
ラミンさんの問いに、ザッハは、ラミンさんに抗議しようと自分を抱きしめているアンゼリカの腕に触れると、躊躇なく答える。
「はい……、います……。でも誰かは秘密です……」
「そうですか、それであれば、良かったです」
……意外だった、ザッハに好きな人がいるなんて……。
一体誰だろう……、もしかしてコウメ……ちゃん? かな? でも、今はあんまり検索はしないでもいいだろう。その時が来ればザッハは教えてくれるだろう。
その時に、笑って送り出してあげればいい。アイスの時のように。
*****
「おお、それでここからが本題なのです」
ザッハの話が一段落した後、私たちは再度テーブルを囲んで席に着くと、ラミンさんの話が続いた。
「実は、パンナ殿たちに、プティング王国の調査をお願いしたいのです」
「プティング王国の? 私たちが?」
「はい、チンの一件以降、悪意を持った魔族が他の国に紛れ込んでいる可能性が高い。そう思ったグラニュー王子は、他の国の調査を内密に行うことにしたのです。リゼは、シフォン王国へ、私はマカロン王国へ、流石に側近全てを他国の調査に向かわせる訳にはいかず、ダージリンはオードブル国に残っています」
「つまり、プティング王国への調査がまだってことね」
「はい、本来ならば私とリゼが調査完了後に、プティングに赴く予定だったのですが、そのカガという魔族が、かなりマカロン王国の内情に関わっていたようで、マカロン王国は少し不味い状況なのです。私は、マカロン王国の内情が元に戻るまで、お手伝いしようと考えておりまして・・…」
「なるほど……、それで私たちに……」
「はい、しかし、まさか、マカロン王国を陰から救っていたとは、流石はパンナ殿のパーティーです。是非、お願いしたいのです」
多分、答えは決まっていると思うけど、一応二人に聞いてみる。
「どうする? ザッハ、アンゼリカ?」
「もちろん、私は大丈夫だよ」
「はい、私も大丈夫です」
二人は、同時に口を開くと私は、やっぱりと苦笑する。
「――だ、そうです。ラミンさん。私たち、出来る限り協力します」
「助かりました、ありがとう、パンナ殿、ザッハさん、アンゼリカ。リゼも恐らく問題なければ、プティングに向かう頃だと思いますので、その際にはお話下さい」
「ええ、分かったわ」
その後は、アイスとチョコレイト姫についての雑談で、私たちはお茶を楽しんだ。
*****
ラミンさんが、宿屋から出た後、私たちは旅の準備を始めることにした。
「さて、それじゃあ、始めましょうか」
そういった矢先、再び部屋の扉を叩く音がする。
また、誰か訪ねて来たのだろうか? それともラミンさんが伝え忘れたことがあって戻って来たのだろうか。そんなことを思いながら、扉を開けようとする私に、ザッハが警告をする。
「パンナ! 気を付けて! その扉の向こうにいるの……魔族かもしれない!」
「……!?」
「ま、魔族!?」
ザッハの言葉を聞き、私は隠し持っていた短剣を確認する。後ろにいたアンゼリカも、槍を持って攻撃に対応できるように構える。
私は、ゆっくりと目の前の扉を開く。
扉の外には、先ほどと同じ、宿屋の主人、そしてもう一人は……この場にそぐわない支給服を着た、黒髪の女性が立っていたのだった。




