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第五話 シャコタン死す!

 突如、私達の前に現れた狂獣シャコタン!

 私たち勇者様一行は、この凶悪な狂獣を倒すことができるのだろうか!



*****



 目の前にシャコタンは、今までに戦ってきて狂獣に比べて驚くほど興奮していた。

 大きな建物一家分あるかと思う巨体を、左右に激しく揺さぶらしている。地底湖の水面は、シャコタンの動きに合わせ激しい波しぶきを上げていた。


「……なんで、あの狂獣……、あんなに怒っているの……?」


「いや、ザッハが子供食べたかからじゃない?」


「……あ……!」


 申し訳なさそうな顔をするザッハ。

 シャコからみたら、自分の子供を自分の間近で食べられてしまったのだから、只事ではないだろう。私は少しばかりシャコタンに同情してしまった。


「ザッハ、これも運命なのよ。弱肉強食の世界。弱いものは食べられる運命なのよ。だからあなたは悪くない!」


 一応、気休めかもしれないがフォローはしておく。


「じゃあ……、私たちが負けたら……ショコタンに……食べられちゃう……? パンナはまずそう……」


「ちょっと! 嫌なフラグ立てないでよ!」


 こんな本当にくだらない言い争いをしながらも、私とザッハは事前の作戦通り、左右に展開し遠距離の魔法でショコタンを攻撃する準備を行っていた。

 横目で勇者様を確認すると、言いつけを守ってくれているようで、アイスの後ろでじっと身構えている。


「よし!」


勇者様の安全を確認した私は、意識を手に集中しする。


「喰らいなさい! スターライト!」


 私の両手から眩い星屑のような光が放たれ、弧を描くようにシャコタンの側面に命中する。流石に甲羅はびくともしていなかったが、私は連続で魔法を詠唱する。狙いは甲羅と甲羅の間の隙間だ。それなりに狙いは定めつつも、数打てば当たる戦法でスターライトを放し続ける。


 一方、ザッハも同様に、遠距離の魔法を放ち続ける


「ブラック……ウィンド……。ブラック……ウィンド……」


 ザッハの得意魔法、黒き風で攻撃する黒魔法だ。あのやる気のない詠唱と対象的に、魔法の威力はそれなりにある。悔しいが、私の白魔法よりもザッハの黒魔法の方が威力がいくぶん高い。


 シャコタンの動きを確認しつつ、ひたすら魔法を打ち続ける。ある程度狙って放っているので甲羅の隙間に入り込む攻撃も少なくはなかった。シャコタンは私たちの魔法弾幕に対応できず、無造作に体を左右に暴れている。


「ザッハ! アレをするわよ!」


 ザッハに合図をする。それに頷くザッハ。私たちは、シャコタンから少し離れた場所で合流する。

 私たちが合流したことに気がついたシャコタンは、水しぶきを上げ私たちに突進してきたのだ。巨大な体をそらせ、襲い掛かろうとするシャコタン。しかし、私たちは、体を逸らせて襲い掛かる瞬間のシャコタンの腹部に狙いを集中させる。


「その腹部、丸見えよ!」


 構えた私の右手が、まばゆく光輝く。

 構えたザッハの右手が、黒い炎で燃え上がる。


「スターフォース!!」

「……ブラックフォース……!!」


 二人の手から放たれる白と黒の輝きは螺旋状に交わり、一つの矛を形成させ唸りを上げてシャコタンの腹部へと放たれる。怒りで本能のままに突進してきたシャコタンは、この攻撃を避ける事はできなかった。

 洞窟内に、爆音とシャコタンの断末魔が鳴り響いた。魔法の矛は、シャコタンの腹部に巨大な穴を開けていた。


「――――!――――!――――!――――!」


 悲鳴とも思われる鳴き声を上げ、弱弱しく体を震わせるシャコタン。頭部が下がってきた所を見計らって、待ってましたと言わんばかりに、アイスが槍と盾をもって突進する。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 アイスは、シャコタンの側頭めがけて槍の側面で強烈な一撃を叩き込んだ!表面の甲羅が細かく砕け飛び散り、シャコタンの頭が激しく揺れる。 確かにシャコタンの甲羅は硬い。しかし、この衝撃に脳は耐えられるだろうか?

 シャコタンは、そのまま地底湖の浅瀬に勢いよく倒れ落ちた。しばらく様子を見たが、動く気配がない。微かに腕? は動いているので、生きてはいる。気を失っているだけだろう。


「さぁ、秘密兵器の出番です! 勇者様!」


 私は、満面の笑みでケイスケ様の名前を叫んだ。ケイスケ様は、戦闘に見入っていたのか呆然とした表情で立ちながら私の方に目を向ける。


「えっと……、ここを切ればいいの?」


「はい! もう聖剣で、ズバッと切って下さい!」


 気絶しているシャコタンの頭部に、聖剣の先を置くケイスケ様。ケイスケ様は、少し苦笑いをする。


「なんか、かわいそうだ」


 ケイスケ様はそうつぶやく。


「そうですね、かわいそうかもしれません。ですが、放っておくわけには行きません。私達が放っておいた結果、誰かが犠牲になるかもしれません。ケイスケ様……これは人が生きるために必要なことなのです」


 そう、これは人間が生きていく上で避けては通れないことなのだ。


「……わかった。じゃあ、いくよ」


 そういうとケイスケ様は、シャコタンの頭に聖剣を振り下ろした。シャコタンの頭は、それは綺麗に二つに割れた。



*****



「ふぅ……。よし、これでいいか?」


 アイスは、討伐の証【シャコタンの髭】を回収していた。

 私は、理想的な戦闘結果に満足していたが、ケイスケ様の表情は少し曇っていた。


「まぁ、しょうがないか……」


 私たちの世界とは違い、異世界の人間はこういった戦闘に慣れてはいないらしい。負ければ死ぬかもしれない戦闘に。戦闘で死んでいった者たちの姿に。


 こればかりは、勇者様のの気持ちの問題だ。


 私はもう少しだけ、勇者様をそっとしておくことにした。時には自分で考え、解決することも必要だろう。

 そんな事を考えていると、再度、洞窟が揺れ始めた。いや、洞窟だけじゃない、この孤島全体が揺れ始めたのだ。


「な……なに? この揺れ!?」


 シャコタンが登場した時とは比較にならない程の、大きな揺れが私たちを襲う。


「みんな、気を付けて、私のところに集まって!」


 状況が分からないので、それまでは集まっていた方がいいだろう。そんなことを考えていた時だった。

 洞窟の天井の地層が、耳が痛くなるほどの轟音とともに爆散していった。たちまち洞窟内は土煙で充満し、少し先の状況が分からないほど視界は悪くなった。


「おい大丈夫か! 下手に動くなよ!? とりあえず、土煙が落ち着いて周りが見えるようになるまでじっとしてろ」


 アイスが、大声で私たちに指示をする。私たちはアイスの指示通り、警戒しつつその場でじっとしていることにした。

 どのくらい時間が経っただろう……ようやく土煙も落ち着き目が慣れてきた。天井を見ると、地層があった場所には巨大な穴が空いており、そこから日の光が差し込んでいた。


 私たちが入っていた入り口を確認すると、巨大な岩が落石しており埋まってしまっていた。もし、あの時、急いで逃げようと入り口に向かっていたら、あの巨大な岩で潰されてしまっていたかもしれない。


 そんなことを考えていた私に、ザッハが声を掛ける。


「……パンナ、気をつけて。とても強い魔力を感じる……」


 ザッハの声で、私の全身に悪寒が走る。それもそうだ、肌で感じるくらい強くねっとりとした嫌な魔力を感じてしまったからだ。


「……! あれは……?」


 地底湖の中央に、一人の男が立っていた。

 ……いや、正確には湖の中央で水の上に浮かんでいる……というのが正解だろう。容姿を見る限り中年の人間の男性に見えた。ただ、その男から感じる魔力は、どう考えても人間が持てる魔力を越えている。


「ほぉ、こんなところで人間に会うとはな」


 私たちに目を向ける男。あまりの威圧感で、まったく動けない。ザッハは今にも倒れそうなほど、顔面蒼白した表情で男を見ている。


「お、お前は……誰だ……!」


 地底湖の上に立つ男に、声を掛けるケイスケ様。

 勇者様の予想外の行動に、私たちはあっけにとられてしまう。聖剣の加護でもあるのだろうか、あの男が発する覇気に、ケイスケ様だけは飲み込まれていないようだった。


「ふむ、そのお持ちになっている剣、貴方は只者ではありませんね?」


 ケイスケ様と聖剣に、男は興味を示す。

 勇者様と少しの間睨み合いが続くと、男は私たちに語りだした。


「突然の訪問で失礼したようだ。私は魔王様にお仕えする四天王の一人、ミチバだ――」

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