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日替わり?!レアガチャ勇者様!  作者: 窓際ななみ
ザッハ・トルテの章
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第四十七話 空中を自由に飛びたいな!

「うわ、なにこれ勇者様、すごい!!!」

 アンゼリカは、先ほどの勇者様が召喚した謎の巨大物体を見て興奮している。


 ここは、マカロン王国の都市から少し南に位置する、見通しの良い平地だった。周りには少しばかりの草木が疎らに生えている。大地に吹きつける風の音が少し寂しい感じがした。

 街で得た情報によると、この場所は手強い狂獣が出現するという噂があった。予想通り、私たち以外に人影は見当たらなかった。

 ここに到着するまでに、噂通り強い狂獣もいたが、私とアンゼリカの二人で十分に対応可能だった。


 なぜ、こんな場所に来たかというと、勇者様が、異世界の何かを召喚するという話だったので、出来る限り人目を避けたかったのだ。


 勇者様が手を天にかざし、しばらくすると、突如辺りが真っ白の光に包まれる。

 しばらくして視界が徐々に元に戻っていく。薄目を開けて目の前を確認した私の前にソレがあった。


 勇者様のスキルで呼び出された異世界のソレは、私が想像していたような鳥や竜といった大きな翼を持つ生き物なのではなかったのだ。


 巨大な頭、硬そうな尻尾、そして上部には貧弱な細長い羽のようなものが何本も付いている。見た目はどちらかというと魚に近い……ような気がする。正直、私にはこれが空を飛ぶ姿を想像できなかった。

 私は、謎の物体の頭部の中で、何やら準備をしている勇者様に話しかける。


「あの……勇者様、これ……本当に飛ぶんですか……?」


 別に勇者様の事を疑っている訳ではない。念には念を入れて確認しているだけなのだ。


「ほっほっほっ、大丈夫じゃよ。これでも若い頃は何度も空の散歩を満喫したものじゃ……。コレクティブ ・レバー、サイクリック ・スティック、ラダー ・ペダル、それぞれ共に問題いなし……と……」


 勇者様は、私の不安を他所に、どうやらこれの確認をしているようだった。


「うわっ!なにこれ!?この素材って私の槍と同じものなのかな!? 竜のような鱗じゃないし……!」


 外にいるアンゼリカは、余程これが気に入ったのだろうか。触ったり叩いたりしながら興奮気味の様子だった。


「うむ、問題ないようじゃ! それでは、ひとっ飛びするから、二人共乗ってくれぃ!」


 勇者様がそういうと、巨大な頭の側面が物々しい音を立てながら勢い良く開いていく。私は恐る恐る中を覗くと、狭い中には、座り心地の悪そうな椅子が何席かあるのを確認できた。

 ……多分、ここに座るのだろう。


「ねぇねぇパンナちゃん、早く乗ろうよ! ほらほらつ!!」


「ちょっ!?アンゼリカ、こういうのはちゃんとに安全を確かめてからって……!」


 躊躇する私に構わず、アンゼリカは勢い良く私のお尻を持ち上げる。私は勢いのまま、頭の奥の方へ転がるように押し込まれてしまう。


「い、痛たた……、ちょっとアンゼリカ!? 少し強引じゃない!?」


「いやぁ、なんかパンナちゃんが躊躇していたようだから……? もしかして怖いの、パンナちゃん?」


 アンゼリカが私に不敵な笑みを見せる。


「べ、別に怖いなんていってないでしょ!? こういうのは慎重さが大事なんだから!」

 正直、これが飛ぶことを想像できず非常に怖いのだが、怖いとアンゼリカにいったら負けのような気がしてならなかったので、震える手を隠しつつ私は強がった。


「それじゃあ、扉を締めてくれるかのぉ」


「はーい、これでいい? 勇者様?」


 勇者様の指示で、アンゼリカが扉を閉める。扉が轟音ともに勢いよく閉まる。私は体をビクッと震わせる。正直、心臓に宜しくない。


「ねぇねぇ、勇者様。これ何ていう道具なの?」


「ほっほっほっ、これはヘリコプターじゃよ」


「うぉぉぉぉぉ!へりこぷたーーー!! なんか格好いい響き!」

 

 アンゼリカのテンションは更に上がっているようだった。どこから、その元気が生まれてくるのだろう。


「勇者様? これ、どうやって飛ぶの? この上についていた、あの細長い羽で羽ばたくの?」

アンゼリカはこの狭い部屋の天井に指をさして、勇者様に尋ねる。


「いやいや……羽ばたくのではなくて、高速で回るのじゃよ。回転翼というのじゃが、それを回すことで、上向きの揚力が発生し機体の重さを支え、空を飛ぶのじゃよ。ヘリコプターはのう、この揚力の他に、この惑星の重力、推力、抵抗、この4つの力のバランスで様々な動きが可能なのじゃ、どうじゃわかったかのお?」


「すごい! 勇者様! 全然意味分かんない!!」


「わっはっはっ、そうかそうか、まぁそんな細かい事はどうでもよいかのぉ!」


 呆然としている私を他所に、二人は謎の大盛り上がりで大声で笑う。


 正直、勇者様の説明を聞いても、これが今だに飛ぶということが信じられなかった。説明の意味は、私も全く分からなかったけど。


「それでは、発信するぞい!」


「おーーーー!!」

 アンゼリカの掛け声と共に、ヘリコプターは轟音と共に全身を震わせ始める。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 地面が小刻みに揺れ始める。私はこの振動に我慢出来ず、アンゼリカの腕にしがみついてしまう。

 アンゼリカは驚きつつも、そのままじっとしている。


「ゆ、勇者様、私、今猛烈に勇者様に感謝しているよ!」


「ほっほっほっ!! そうか、そうか、それでは発進するぞよ! 案内は任せたぞ」


「任せてよ、勇者様!」

 

「あ……アンゼリカ、宜しく頼むわ……私ちょっと案内は無理ぃ……」


 小さな小動物のような小声で私は呟く。

 より一層轟音が鳴り響くと、魔法で飛翔しているような浮遊感が私たちを襲い始める。

 そして、その浮遊感は一気に加速する――。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! すごいぃぃぃぃぃぃ!!」


 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!(ど、どうか、無事にザッハの元に到着しますように!!)」


 ヘリコプターは、マカロン王国の空に舞い上がると北の孤島を目指し、今まで体感したことのない浮遊感と速度でこの世界の空を飛翔するのだった。



*****



 気がつくと、私は薄暗い部屋に案内されていた。

 その部屋は、全体が紫色で覆われている不気味な大部屋だった、中央には大きなお城にあるような薄いレースが掛けられた豪華な装飾で飾られたベッドが設置されたいた。


「…………」


 私は、ベッドに腰掛ける。

 パンナたちと泊まった宿屋のベッドとは、比べ物にならない程の弾力が私のお尻を押し返す。でも、私にとっては、パンナ達と共に過ごした宿舎の硬いベッドの方が、居心地が良かった。


 部屋に唯一ある扉から、扉を叩く音が聞こえると、鈍い音を鳴らしながら扉がゆっくりと開いていく。

そして、一体の支給服を身に着けた魔物が入ってきた。

 魔物とはいっても、見た目はほぼ人間の女性に近い形状をしていた。人間の世界に紛れ込んでいても大抵の人間は、アレが魔物とは気が付かないだろう。


「カガ様より命を預かりました。まずはこれに着替えて下さい」


 魔物が差し出した籠の中には、吸い込まれそうな漆黒のドレスが綺麗に折りたたんで入っていた。

 私は、無言で小さくと頷くと、その場で着ていた冒険服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。


「…………」


 私は、自らが脱いだ使い古された冒険服を見つめる。

 この服にはお世話になった。それと同時に、パンナ、アイス、アンゼリカとの冒険の日々が頭の中に想い出されていく。

 ……でも、そんな冒険の日々はもう訪れないのだ。

 私は、未練を断ち切るかのように、差し出された漆黒のドレスに袖を通すのだった。

 


*****



「ほぉ、なかなかお美しいではありませんか、魔王様」


 漆黒のドレスを着た私は魔物に案内され、カガがいる部屋に案内された。

 部屋……というにはあまりにも広い場所だった。幾つもの石柱が整列されたように立てられており、まるでどこかの王族の宮殿のような作りだった。

 そして部屋の奥に見える漆黒と黄金が混ざり合った不気味な玉座の横に、カガが満足そうな様子で私を見ながら立っていた。

 

「…………」


 じっと玉座を見つめる私に、カガが近づいてくる。そして、私の顎を掴むと力任せに頭を上げさせる。


「うぅ……」


「ふむ、よく見ると、まだ完全ではないようですね、結構、結構」


私は、カガの視線から目を背ける。



「なぜだ……! なぜ、お前が、ここにいる!」


 突然、後ろから、年老いた男の大声が聞こえてくる。振り向くと、そこには、魔物に抑えられた師匠がこちらを驚くように見つめている。 

 私は、驚きの表情で師匠を見る。


(……ど、どうして師匠がここに……!?)

 

「ふむ、驚く事はありません、貴方が魔王様を預かった時からずっと我々が監視をしていましたからね」


 カガは一歩前にでると、師匠に不敵な笑みを向ける。


「な、なんじゃと……!」


「しかし、魔王様がマカロン王国を出て旅に出た時には、少し焦りましたよ。手練の魔物を監視役に付けていたのですが、人間の騎士に敗れ去ってから行方が分かりませんでしたからね。この件については、四天王を動かす訳にもいきませんでしたから」


 カガは私の胸元へ手をいれると、まるで玩具を弄ぶかのように私の体を触りだす。


「……ひぐぅ……」


 私は、ただ目をつぶり、じっとこの陵辱に耐える。


「……とはいえ、心優しい魔王様のことですから、きっと貴方の元に帰ってくると踏んでいたのですよ。本来の計画も準備に時間が掛かってましたからね。しかし、その準備も終わり、それに引き寄せられるように魔王様も無事現れた。正に命運というのはこのことなのでしょう!」


「……うう……師匠……」


涙目で、私は小さな声で呟いた。


「さて……、それでは貴方には魔王様を勝手に逃した罪を死を持って償って頂きましょうか」


 すると、カガの左手から漆黒の宝玉が現れる。宝玉から発せられる瘴気が、師匠に向かって広まって行く。


「……ま、待って下さい! 師匠を、どうか師匠を殺さないで下さい……!」


 私は、声を振り絞って、懇願する。すると、私の呼びかけに応えるように、瘴気の流れはピタリと止まる。


「ふむ……この人間を助けたいのですか……。しかし、魔王様、お願いをするにはそれなりの態度というものを示して頂かないと、私も信用はできませんね」


 カガのその言葉を聞いた私は、その場に両膝をつくと、頭を地面にこすり合わせる。


「……どうか……師匠だけは、お助け下さい……私の事は自由にして構いません……お願いします……」


「ヴェンダバー!! おお、魔王様! その健気な態度、確かに私の心に響きました。それでは、あの人間の命だけは助けることにしましょう。魔王様が私の命令に服従する内は……約束しましょう」


「……あ、ありがとうございます……カガ様……私は、貴方に永遠の服従を誓います……」

 


*****



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! こんなにたかくおそらをとんでるぅぅぅぅぅ!!」


 ヘリコプターの窓から見た外の背景に私は悶絶し絶叫し、アンゼリカの右手に力いっぱい抱きついていた。流石の私でも、この高さから地面に叩きつけられたた生きてはいないだろう。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! パンナちゃんのおっぱいの感触が!! 勇者様すごすぎ!!」


アンゼリカは別の触感に感動し、絶叫していた。

 

「ほっほっほっ! 若いものは羨ましいのう!」


勇者様も呑気に高笑いをする。本来なら、会話につっこむべきところなのだが、今の私にそんな余裕は無かった。


「んん……!? もしかしてあの島じゃないかのぉ……?」


勇者様の声にアンゼリカが反応する。


「えっと……、あ、そうそう、さっきマカロン王国の北の港町を通り過ぎたから、間違いないよ、勇者様!」


「うむ、分かったぞい!」


 勇者様が、何か棒のようなものを押し倒すと、ヘリコプターは急速に地面に向かってスピードを上げる。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お、落ちるーーーーーー!」


 私はアンゼリカの右手に、さらにこれでもかというくらい力いっぱい身を任せる。


「うぉぉぉぉぉ! パンナちゃん、もっとギュッと! ギュッと抱きついてもいいのよ!!」


 そんな私たちの絶えない絶叫が響く中、ヘリコプターは孤島に向かってぐんぐん距離を縮めていく。

 孤島がハッキリと目の前に近づいてくると、ヘリコプターは孤島の上空で、ぐるりぐるりと周り始める。


「どこか、降りられそうな場所はないかのぉ?」


「うーんと……、あ、勇者様、あそこの平地はどうかな?」


アンゼリカが指差した先には、このヘリコプターを置くには十分な大きさの平地があった。

しかし、その平地には、人よりも大きな狂獣が何体か蠢いているのが見えた。


「うーむ、このまま降りると、アレに邪魔されそうだのぉ……」


 勇者様は首を傾げている。


「ゆ、勇者様、ももも、もう少し地面に近づく事は出来ますか?」


 私はアンゼリカに抱きつきながらも、勇者様に確認する。


「ん? おお、大丈夫じゃぞ」


 勇者様が、再度棒のようなものを操作をすると、ヘリコプターはゆっくりと地面に近づいていく。

 ヘリコプターの騒音に気がついたのか、狂獣達がヘリコプターの真下に集まってきてしまう。このままでは狂獣が邪魔でヘリコプターは降りる事ができないだろう。


「あ、ありがとう!勇者様、この位の高さなら、多分、もう大丈夫!」

 

「パ、パンナちゃん!? あああ!」


 私は、自分の右にあった扉の取手を掴むと、力いっぱい扉を開ける。開いた扉からは、今まで感じたことのないものすごい音と風が吹きこんでくる。

 そんな状況でも、私は躊躇なく外へ飛び降りる。上空を飛ぶヘリコプターの中に比べたら、下に見える狂獣の群れの方がまだマシだ。


「ちょ!? パンナちゃん待ってよ! ゆ、勇者様、私たちが狂獣を一掃するので、ちょっと待ってて下さい!」


そういうと、アンゼリカも私に続いて、ヘリコプターから飛び降りる。

 

「ほっほっほっ、最近の若いものはせっかちだのぉ。だが、羨ましいのぉ」


勇者様は飛び降りた私たちを見ながら、そう呟くのだった。

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