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日替わり?!レアガチャ勇者様!  作者: 窓際ななみ
ザッハ・トルテの章
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第四十四話 私の秘密!

「……ごめんなさい……」


「……ごめんなさい……」


「……ごめんなさい……」


 部屋の椅子に座った私は、壊れたようにその言葉を繰り返していた。


 ここは、マカロン国の首都にある少し小さな宿屋だった。

 朦朧としている記憶だったが、あの後、立つこともできなくなっていた私は、パンナに抱かれここまで戻ってきたようだった。

 それからは、パンナとアンゼリカの励ましの言葉も聞き入れず、ただひたすら謝罪の言葉を口ずさんでいる。


「あの……さ、私ちょっと街の様子とか見てくるよ……。色々調べたいこともあるし……」


「ええ、分かったわ……、宜しくね」


 アンゼリカは、バツの悪い顔をしながら部屋から静かに出ていった。パンナも暗い表情を浮かべ、どうしたらいいのか分からない様子だった。


「ザッハ……? えっと、何か飲む?お茶なら入れようか?」


 パンナは、優しく私に話しかけてくれる。でも、今はそれもとてつもなく辛く感じてしまう。


「……ごめんなさい……少し……一人にしておいてほしい……」


 私は小さな声で呟いた。


「あ、うん……分かった。じゃあ、私も少し街の様子を見てくるね」


 そしてパンナもまた、部屋から静かに出ていってしまうのだった。


 私は、一人になる。目から流れる涙は止まらなかった。

 もう、子供の頃の私じゃない。一人前の大人になった私なんだ……!

 そう思っていた。でも、それは違っていた。心は、これほど他愛もなく壊れてしまうほど子供だったのだ。

 ふと部屋の周りを見渡すと、私はパンナの荷物に気がついた。私は、引き寄せられるように、その荷物に手を伸ばす。そして荷物の中から、目的の物を探しだしていた。


 短剣――。


 パンナが戦いの時に利用する武器だ。よく手入れがされており、その鋭利さは、その辺りの店で売っているような物とは比べ物にならない。私は、荷物の奥にあった短剣を見つけると、その鞘を抜いた。

 そして、刃に映る自分の姿を眺める。そこには、黒髪の子供が顔をくしゃくしゃにして涙を流している姿が映っていた。そう、これが、現実だ。私は、結局大人になれなかったのだ。

 短剣を逆に持ち、刃を自分の喉に突きつける。もう少し……もう少し、力を入れれば、この苦しみから逃れることができる。パンナやアンゼリカ、それに師匠に迷惑をかけることもない。そんな劣情で、私の頭の中は一杯になってしまっていた。


「……はぁ……はぁ……」


 心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。


「……っ!」


 私は、決意をして手に力を入れる――。



「……」


「…………」


「………………」


 しかし、気がついた時には、短剣は床に落ちていた。床に落ちる前に、私の足に当たったのだろうか。太もも辺りに切り傷ができており、そこからジワリと血が流れ始めていた。


「おや? ザッハちゃん……? だったかな? 大丈夫かい?」


 しわしわの顔でニコニコとした表情で、勇者様がこちらに近づいてくる。私は、ただ呆然と勇者様の姿を眺めていた。


「おやおや、これはいけないね、ちょっと足を伸ばしてもらえんかのう」


 私は、勇者様に言われるまま、足を伸ばし差し出した。勇者様は宿屋の備品にあった包帯を持ってくると、私の足に巻きつけて治療を始める。ゆっくり……そしてやさしく……。手際の良い手当に、私は、ただ勇者様の仕草をじっと見つめていた。

 治療が終わると勇者様は、短剣の刃についた汚れを布で拭き、鞘に戻してパンナの荷物に戻すと、こちらを向いて、ゆっくりと微笑んだ。


「二人共、出かけているようじゃし、ワシたちも少し外に出んかのう?」

 

 少しだけ、部屋に静寂が訪れる。私は、コクリと頷いた。



***** 



 私と勇者様は、宿屋をでるとそのまま外壁の方へ歩き始めた。少し歩くと、家の数も少なくなってきて木々が多くなってくる。


 そして、目の前には樹木が密集している、小さな場所があった。私たちは、その森林の中に入っていき、少し歩くた先にあったひらけた場所につくと、腰を落ち着けた。


「ほほう……ちょっとした、森林浴じゃな……」


勇者様は、気持ちよさそうに空を見上げていた。私も同じように空を見上げる。

 緩やかな風が、木々を優しく揺らし、森中に響くその音がとても心地よかった。少しだけ、真っ暗な闇に光が差したようなきがした。


「どうやら、ワシは今日一日だけ、こちらの世界にいられるそうなんじゃ」


「……うん……知っている……」


「長年連れ添った仲間は頼れるが、時には近すぎて話せないこともあるのじゃろうな? どうせ、一日で消える身じゃ、どうじゃ? ワシに悩みを話してみないかのう?ワシは、結構長生きしたのでな、何かお主の力になってやれるかもしれんぞ?」


「…………」


 私は、勇者様の突然の申し出に戸惑っていた。

 

「ふむ……、ほうれんそうって知っておるか?」


「……? ……ホウレンソウ?」


 初めて聞く言葉だった。


「報告、連絡、相談という大人のビジネスマナーじゃのう。最近の大人は相談すらもせず、自分で解決しようとするものも多く、それでトラブルをよく起こす。困ったものじゃ」

 勇者様は、やれやれといった表情を浮かべている。


「……自分で問題を解決するのは、大人じゃないの?」


「ふむ……それはどうかのう? ワシは解決する最良の方法を考え、実行するのが大人じゃと思っている。お主はどうじゃ?」


「……」

 私は、その言葉に俯いてしまった。でも、これに関しては、どんなに考えても自分では最良の答えを見つけられない気はずっとしていた。

 本当の大人なら、こんなときは相談するのだろうか――。

 

「……勇者様、魔王について……知っていますか?」


「んん? おお、パンナという娘から、少し事情は聞いておるぞ。なんでも、世界を滅ぼそうとする悪いヤツという話しじゃったかのう……」


「……はい……」


 私は、立ち上がると勇者様の前まで歩いて行く。


「勇者様――」


 私は、意を決して話すことにした。


「――私は、その魔王と人間から生まれた娘らしいのです――」 

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