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日替わり?!レアガチャ勇者様!  作者: 窓際ななみ
ザッハ・トルテの章
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第四十三話 私の師匠!

「……よいしょっと……これでいいかな?」


 目の前には、私たち(主にアンゼリカだけど)にボコボコにされた、盗賊たちが倒れていた。アンゼリカは、器用に倒れている盗賊を縛り上げていく。なかなかお目にかかれない匠な縄捌きは、私とパンナをを魅了していた。


「へぇ……アンゼリカ、縛るの上手だね」


 パンナは感心した様子だった。


「えへへ、王宮騎士時代は、野盗共を何百人と捕まえてたからね。まさかパンナちゃんに褒めてもらえるとは思ってなかったよ!」


 しかし、この周辺は予想以上に治安が悪いようだ。小さな村を出た後、マカロンへ行くため森の中に入ったのだが、その途中、盗賊に三度も襲われてしまう。女性だけのパーティーということもあり、襲いやすいと思われてしまったのだろうか。

 二回までは、撃退して追い返すだけだったが、三回目でアンゼリカがキレてしまった。逃げられないほどボコボコにした後、縄できつく縛って動けないように拘束している最中だ。


「……これ、……どうするの?」


 私は、アンゼリカに尋ねる。


「うん、とりあえず縛って放置かな。後で、マカロンの騎士団にでも回収して貰う予定だよ。ここは、マカロン国の領地だしね」


「そう」


 私は、頷いて納得した。


「しかし、こう毎回襲われるのも骨が折れるわね。以前はアイスがいたから、余り襲われるってことは無かったけど……」


 パンナは、首を傾げて悩んでいた。確かにアイスは結構見た目が強そう(実際強いのだけど)なので、パーティーにいるだけで、こういった盗賊からは標的にされ難かったのだろう。


「……ねぇ、パンナ……勇者様……!」


「ああ!そうね、勇者様って手があったね! 節約の為に、依頼の時にしか召喚していなかったけど、護衛に呼んでみるのもありよね!じゃあ、アンゼリカのお仕事が一通り終わったら勇者様を召喚しましょう!」


 アンゼリカは頷くと、黙々と盗賊を縛り上げるのだった。



*****



「……!」

 

「むぐ…………!」


「………………!」


「むぐぅぅぅぅ……!」

 

 森のなかに男たちの悲痛の呻き声が流れている。


「じゃあ、盗賊の皆さん! 騎士団のお迎えが来るまで、おとなしく待っててね! あんまり騒ぐと狂獣に食べられちゃうよ?」

 

 一瞬にして男たちの呻き声が止まる。 森の木々を揺らす風の音だけが、辺りを包みこんでいく。

こうして私たちは、盗賊たちを後にして森を進むことにした。 


「アンゼリカ、本当に放置しちゃって大丈夫なの?」


「うん、一応狂獣よけの結界は張っておいたからね。おとなしく待っていれば大丈夫だよ、たぶん!」

 

「アンゼリカって、結構そういうところ厳しいわよね。苛めるのが好きなタイプ?」

 

「えええ、そんな事無いよ!パンナちゃんにだったら全然苛めてもらっていいし!」


「わ、私はそんな趣味は無いわよ! そんなことより、勇者様を召喚しちゃいましょう」


 そういうと、パンナは森の道から少し外れた先のちょっとだけ開けた場所に歩いて行く。そして、そこにいつもの魔法陣を描いていく。

 準備が整うと、いつもの台詞を言い放つ。


「えー、本日の私たちの勇者様をお呼び下さい―――!」


 その瞬間、地面に描いた魔法陣は一瞬更に光り輝き、その光が地面に定着する。定着した魔法陣の模様は、鈍い不気味な青白い光を発していた。 

 手際よくアンゼリカが銅貨を三枚魔法陣の中に投げ入れる。地面に銅貨が落ちると、魔法陣は少しぼんやりとした光を放ち、銅貨が消失する。

 そして、魔法陣の上空に現れる【TOUCH!】という異世界の文字。

 パンナの右手が、文字に触れると魔法陣から眩い光が溢れ出してくる。


「……え!?」


 その眩い光は、いつも以上に溢れかえっていた。 


「パ、パンナちゃん、これ、以前話してくれた確定演出ってやつじゃない!?」


「え、ええ……そう……みたい……」


 確定演出とは、より強いレアな勇者様が出現する時に現れる魔法演出効果である。いままでも、この確定演出で出てきた勇者様に、私たちは何度も窮地を助けられてきた。しかし、確定演出が出たにも関わらず、パンナは浮かない顔をしている。


 「……パンナ……嬉しくないの……?」


 「いや、どうせ出るなら、もうちょっとピンチの時にでて欲しかったかな……なんて……」


 「……あ……」


 確かに、用心棒であれば、その辺の体格のよい冒険者を雇うくらいでも問題ないはずだった。無駄に運を使ってしまった感が、パンナ的には強いのだろう。

 そんな話していると、魔法陣の上には金色の扉が現れ、その扉がゆっくりと開かれていく。私たち三人は、息を呑みながら扉を凝視する。


 そして、その扉から出てきた者は―――!



*****

  


「あの……大丈夫ですか?」


 後ろを歩いていたパンナは、心配そうに前を歩いている人物を様子見ていた。


「なぁに……大丈夫じゃよ……どうやらこちらの世界に来たら、足腰がちゃんとに動くようになったようじゃ……嬉しいのう……」


 その人物は、かなり高齢のようで髪は真っ白、顔もしわくちゃだが、愛嬌の良い表情の御老体だった。ヨロヨロと歩く様は、見ているものを不安にさせ、手を差し伸べたくなってしまう。

 まさか、今にでもぽっくり逝ってしまいそうな御老体が勇者様としてでてくるとは、私たちは誰も思ってもみなかった。確かに今までに出たことのない、レアな勇者様ではあったけれど。


「あ、あの、おじいちゃん? 森の道は危ないから、私と手を繋いで行きましょうか?」


「おお、よいのかお嬢さん? こんな老いぼれの為に手を繋いでくれるとは、嬉しいのう……」


 おじいちゃんはニコニコしながら、手を合わせパンナを拝んでいた。


「…………」


 このやり取りをみていると、私は昔の幸せだった時の事を思い出し、少しほっこりする。


「アンゼリカ、おじいちゃんが危なくないように、前方警護お願いね!」


 アンゼリカは、ため息をつきながらも、警戒しながら先頭に立って歩いて行く。私たちも、続いて森の道を歩いていくのだった。



*****



 しばらくすると、森を抜けマカロン国の首都【マカロン】が見えてくる。ここも王都同様、街の全体が城壁で囲まれている大きな国だった。城壁は赤い煉瓦で作られており、その情景は気持ちが高ぶるものがあった。


「流石は国の首都。やっぱり大きいわね」


 パンナは城壁を見上げて感心していた。勇者様は城壁に手を合わせ、やっぱり拝んでいた。


「パンナちゃん、みんな! 手続き終わったよ!」


 マカロン国への入国手続きをしていたアンゼリカが、私たちのところに戻ってくる。


「以外に早かったのね」


「まぁ、任務で何回かマカロンには来たことがあったからね。じゃあ、中に入ってまずはいい宿を探そうよ!」


 アンゼリカが、嬉しそうに話していて申し訳ない気がしたが、私は話に割り込むことにした。


「……あの…‥私、宿に行く前に、少し行きたいところがあるの……」


「あ、そうだよね。ザッハはこの街に大切な用事があるんだよね?」


 私は、コクリと私は頷く。

 そう……ここは私が小さい頃に育った場所。もうかなりの年数がたっていて、城壁の中の街並みは私が知っているものとは、違っている箇所が多かった。それでも、見覚えのある場所がチラホラ私の目に入ってくる。


「……ここには、私を育ててくれた師匠がいるの……」


「へぇ、ザッハの師匠ってことは、かなりの黒魔法の使い手なんでしょうね?興味あるわね……。ねぇ、ザッハ?よかったら私たちも一緒に行っていいかな?挨拶もしておきたいし」


 私は少し悩んだが、一緒についてきてもらうことにした。師匠には、今では仲間と一緒に冒険者として生活しているところを見せて安心してもらいたかったし、何より一人で会うのは心細かったこともあったので、パンナとアンゼリカがいると安心できる気がした。


「……うん……いいよ、じゃあ、こっち……」


 私は、さっそくみんなを師匠がいる場所に案内することにした。



*****



 街の奥へ進んでいくと、少し外れると大きな建物が見えてきた。ここが師匠の家だ。そして黒魔法を学ぶ術者の養成所でもあった。街の雰囲気は私が思っている以上にかなり変わっていたが、この養成所は殆ど変わっていない様子だった。

 私は、養成所の周りを見渡す。風景のあちこちが、昔の記憶と一致する。


 そして、養成所の入り口の前にたどり着く。養成所の周りには人の気配がしなかったが、部屋の中からは微かに人の気配を感じた。

 私は、深呼吸を数回したのち、意を決して扉を数回叩いた。

 

 「…………」


 心臓の鼓動が大きくなる。いろいろ考えて、頭の中が真っ白になってしまうような感覚だった。


 扉の向こうから、誰かが近づいてくる音が聞こえる。

そして扉がゆっくりと開かれていく。

 現れたのは、たくましい体つきをした長い白ひげをした貫禄を感じるちょっと背の低い筋肉質老人。先程の勇者様とは、まったく正反対な感じだった。


「……し、師匠――! あの……私です……ザッハ……トル――」

 

 話したいことが沢山あった――。

 謝らなければならないことが沢山あった――。


 ……でも、私の視界は真っ白になっていく。最初、何があったのか分からなかった。私の近くで、アンゼリカが、怒りの声をあげていた。


「ちょっと! あなた、いきなりザッハちゃんを蹴り上げるって、どういうことよ!」


 アンゼリカは、今にも師匠に殴りかかりそうな勢いだ。


「ザッハ!? 大丈夫?」


 パンナが、私の顔に布を充てて、止血をしつつ治癒の魔法を施している。口の中を切ったのだろうか、私の口の中は血の味で充満していた。


「いいから、その疫病神を連れて、さっさとマカロンから出て行け! 二度とここに来るな!」


 それは、忘れもしない師匠の声。そして怒りに満ちた拒絶の声。ちゃんとに話せばまた、昔のような関係に戻れると思っていた――。でも、それは、私の都合のいい妄想だったのだ――。

 やっぱり、私が、――の娘だからだろうか。


「何よそれ! とりあえず、ザッハちゃんに誤りなさいよ!」


 師匠の酷い言い草にキレたのか、アンゼリカが師匠に殴りかかろうとしていた!


「――待って! アンゼリカ! お願い! 止めて――!」


 私は、パンナの介抱を振りほどき、地面に頭をつけアンゼリカに懇願した。


「アンゼリカ……パンナ……お願いします……どうか師匠を許して下さい……」


 その様子をみた師匠は、何も言わず家の中に入っていってしまう。 私はただ、みんなに頭を下げ誤り続けたのだった。

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