第四十二話 マカロン王国へ!
私は、闇が好きだ。
深い深い漆黒の闇。
その闇で嫌いな部分を隠せば、誰にも悟られることはない。
大好きな、みんなと幸せにずっと一緒に過ごすことができる。
だから私は、隠し続ける。
大好きなみんなと一緒にいるために。
「……」
「…………」
「…………眩しい……」
窓から差し込む日の光が、私の顔をジンジンと照らし続けている。その暖かくも眩しい光に私は、闇の眠りから目を覚ます。
「ん……ちょっと寒い……」
起き上がろうとしたが、まだ早朝はひんやりと肌寒く感じられた。私は、体にかけられていた厚手の布を体に巻きつけると、虫のように丸まりもう少し寝ようとする。
「……眠れ……ない……」
一度おきてしまったためだろう。二度寝しようと試みるも、すっかり目が覚めてしまっていた。結局、私は、体に布を巻きつけたまま、服が置いてある場所まで移動する。そして、服を手に取ると、もぞもぞと着替えることにした。
――ここは、マカロン王国の西の果てにある小さな街「サバラン」の小さな街の宿屋だった。
私たちは、この近くにある「魔物の迷宮」の攻略を数日行っていた。昨日はいろいろあったが、迷宮に住む狂獣をなんとか倒し報酬を手に入れることが出来たため、今日はついに、マカロン国の首都へ向かうことにしているのだった。
マカロンへは、私が行きたいという要望をしたからだ。みんなと冒険をし、私も冒険者として一人前になったと思う。だから、きっと、師匠も私を許してくれる、認めてくれると思う。
もう、私は力を自身で制御できる。
……そう思ったから――。
着替えが終わると、私は寝室を出て、中央部屋へ行くことにした。時間はまだ早かったので、まだ誰も起きていないと思っていたのだが、既に先客がいたのだった。
彼女は、部屋に備え付けられている鏡を見ながら、自分の唇に指を何度もあてて、気持ち悪いほど緩い顔で薄笑いを浮かべていた。
「……えへへ……パンナちゃん……」
「……」
「……こう、ちゅ……って……ウェヒヒヒ!!」
「……」
いつものことだったが、今日は更に輪をかけて気持ち悪かった。昨日、何か余程良いことがあったのだろうか。しばらく、その気持ち悪い顔を観察していると、パンナが部屋に入ってきた。
「ふぁぁ……あれ? ザッハ、おはよう。今日は早起きなのね」
まだ寝足りないのか、おぼつかない足取りで、パンナの体はふらふらと揺れていた。昨日、かなり落ち込んでいたように見えたが、どうやら今日はいつものパンナに戻っているようだった。
「……うん、今日は早起き……。……それよりも、アレが気持ち悪い……」
私は、アンゼリカを指さすと、パンナは呆れたように深い溜息をつく。
「はぁ……。あれは私の唯一の黒歴史だわ……。まぁ、あんまり気にしないで……お願い……ザッハ……」
パンナは深いため息をつく。
もう少し詳細を聞きたい気もしたが、パンナのあまりにもゲンナリとした顔を見てしまうと、あまり聞かれたくない話かと思い、私は黙って頷くことにした。
「ウェヒヒヒ……!!」
その後しばらくの間、アンゼリカの不気味な笑い声が、部屋に響くのだった。
*****
「さて、じゃあ今日はいよいよマカロンへ出発ね!」
旅の準備を済ませ、宿屋の食堂で軽めの食事をとった私たちは、宿屋の前に集まっていた。
「ザッハの要望だしね、ザッハも問題無いよね?」
「……うん……大丈夫……」
私は、パンナに向かって頷いた。
「えっと、地図によると、ここから少し北に小さな村があって、そこをずっと東へ向かうとマカロンへの近道っぽいね」
「そう、分かったわ、ありがとうアンゼリカ」
「……了解……」
私とパンナは、相槌を打つ。
「あ、そうそう、コウメちゃんに報酬渡さないといけないから、ギルドへ一度確認していきたいわ」
「そうだね、じゃあギルドへ向かおう!」
アンゼリカの声と共に、私たちは、早速この街のギルドへ向かう事にした。
*****
ギルドへ向かった私たちは、とりあえず辺りを見渡してみる。しかし、コウメらしき人物は見当たらなかった。ギルドの案内人に聞いてみたのだが、まだ時間が早かったのか、今日は見かけていないとのことだった。
「うーん、どうしよう?」
パンナは少し考え込んでいた。
「まぁ、コウメちゃんも冒険者だっていうから、ギルドに通っていれば会えるんじゃない?」
「……そう……かも……」
「うん、ちょっともやっとするけど、そうしましょうか。一応、ギルドの掲示板へ連絡しておきましょう」
そういうと、パンナはギルドに設置されている掲示板に連絡を書き始めた。
【コウメちゃんへ 私たちはマカロンに行きます。報酬渡せなかったので今度会ったら渡します】
ささっと書き終えるパンナ。とりあえず、要件を済ませた私たちは、首都マカロンへ出発することにした。
*****
サバランの街を出て少し歩くと、アンゼリカの話の通り、少し小さな村があった。ただ、どうも様子がおかしい。村の人だろうか? 村の大きさからすると、殆どの村人と思われる人が、村の外れにある小さな家に詰め寄っていたのだ。
「何かあったのかしら?」
パンナは、どうやら気になってしまったようだった。
「ちょっと確認してきてもいい?」
「……私も行く……」
私たちは人が詰め寄っている家に近づくと、パンナが一人の村の女性に話かけた。
「あの、何かあったのでしょうか?」
急に声を掛けられて驚いたようだったが、私たちが冒険者だと分かると、その女性は安心したようで、事の経緯をそっと話してくれた。
「……ええ、実はこの外れの家に、盗賊が押し入ったみたいで……今、その後片付けをみんなでしていた所だったの……。ほんと、サンデ……可哀想に……」
「盗賊ですか……? この辺には多いんでしょうか?」
「はい、少し前はそうでもなかったんですけど、最近見かけるようなったんですよ。裕福な村ではなかったので、村人を襲うようなことは、いままでなかったんですけど……」
私は小さい体で人混みをかき分けて、家の様子をみることした。人混みの一番前に辿り着くき、家の様子を伺う。
ドアは開かれており、中の様子がある程度見ることができた。ドアた床の所々に、被害者と思われる人の、血の痕が大量に付いていた。部屋の奥を確認したが、部屋もかなり荒らされていたようだった。
天井からは荷物を吊るす鉤がぶら下がっていたが、そこには荷物ではなく切り落とされた小さな女性の手が無残に、ぶら下がっていた。
想像するに、恐らく、手をかなり酷い拷問のような行為がされていたのだろう。私は少し気分が悪くなってしまう。部屋の片付けをしていた村人達も、かなり深刻な表情をしていた。
一通り中の確認をしパンナたちの所に戻ると、私は中の様子をパンナたちに話した。
「どうだった?」
「……うん……かなり酷いことを、この家の人はされたみたい……」
私は、拷問のような行為がされた事を伝えると、アンゼリカは急に声を上げた。
「そんな! マカロンの騎士団は、何やっているの!?」
アンゼリカの表情は、怒りに満ちていた。
「昔は、こんな小さな村でも騎士団の方が来てくれたんだけどね、最近は殆ど見かけなくなってしまったわ」
私たちの話が聞こえたのか、傍にいた村の女性は肩を落としながら、私たちに近況を教えてくれた。
「冒険者の方も、お気をつけて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
状況を把握した私たちは、少し離れた場所から静かに祈りを捧げ、マカロンへの道を急ぐのだった。