第三十二話 最後の四天王!
ここは、魔族が住む世界と人間が住む世界のちょうど中間辺りにある。小さな街数個分しかない、小さな世界――。しかし、この場所こそが、もっとも強い魔族【魔王様】が復活する、混沌とした深い闇の場所なのだ。
そして、その世界には、魔王様の魂を守るために建てられた特別なお城が存在する――。
【魔王城】
そこは、かつて人間だったものの魂が眠る場所。
魔族の世界と人間の世界を繋げた王が眠る場所。
欲深き魔族達は、魔王様を復活させ、その力で人間の世界を手に入れようと目論んでいるのだった。
そんな魔王城の一室に一際異彩を放つ部屋があった。部屋はピンクの色彩で統一されており、至る所に色彩豊かな花々が飾られていた。擬似的に見立てた太陽だろうか、それが部屋の天井に浮かんでおり、部屋全体を暖かく照らしている。魔王城の部屋の殆どが、闇を好む魔族に作られていたため、外から灯りが見えることは殆どないのだが、この部屋の窓だけは、一昼夜ずっと灯りがついたままだった。
お手洗い、お風呂場、台所も完備しているので、食料などの物資の補給さえあれば、外に出る必要はまったくない。
そう、この部屋こそ、僕にとっての、小さな楽園なのだ!
僕は、お城のお姫様が眠るようなピンクのカーテンで覆われた天井付きのベッドの上で横たわりながら、読書を楽しんでいた。
僕の名前は【コウメイ】。
女子とも思わせる姿だが、僕はれっきとした♂だ。この部屋では、フリルの付いたふわふわのワンピースを着ているけどね。
本の内容は、人間の世界のお菓子の作り方を記したもののようで、僕は目をキラキラ輝かせながら、それを読んでいた。
「はぁ……おいしそう…。僕もこんなお菓子作ってみたいな」
魔族の世界には、人間界のようなお菓子の材料は余り存在しない。食事なども魔獣の肉や生き物を豪快に使用した、それはもう♂の料理というものばかりが主だった。
まぁ、味はそれほど悪くはないけど、やはり僕としては人間の世界の料理、特にお菓子のあの甘い味が性に合っていた。
もし、魔王様が復活して人間界を征服したのなら、好きなだけお菓子の材料を手に入れることが出来るのだろうか……? そう思うと、他の四天王には是非とも頑張ってほしいと、僕は思うのだった。
そんな事を考えながら本を読んでいると、部屋の扉が静かに叩かれる。
「はい、どうぞ」
僕がそう応えると、一人の♀の魔族が部屋に入ってきた。
「コウメイ様、お食事をお持ち致しました。」
可愛らしいフリルとリボンの飾り付けの黒いドレスを身に纏った女性が、美味しそうな食事を載せたサービスワゴンと共に部屋に入ってくる。そしてベッドの横に置かれている丸型のテーブルの上に食事を準備し始めた。
彼女の名は【メイコ】。
僕の専属の使用人だ。人間的な年齢でいくと30歳くらいになるだろうか。
彼女の着ているドレスは、僕のお気に入りだ。最初は着るのを嫌がっていたのだが、四天王の職権乱用という感じで無理やり着せている。ただ、最近は気に入ってきたようで、当初の恥じらいは消えつつあった。
「ねぇねぇ、今日の料理はなに?」
「はい、魔界の海で取れた、地獄秋刀魚でございます。あと、私のスカートをまくって下着をチェックするのは止めて頂けないでしょうか」
「うん……」
本当に、最初の頃の初々しさはまったく無くなってしまった。
食事の準備が出来たところで、僕はメイコと食事を食べることにする。主従関係的にいえば、使用人と一緒に食事等はもっての外なのだが、僕は(可愛い服を着ている)メイコと食べる食事は嫌いでは無かったので、特別に許可している。もっとも、食事中の会話は、ほぼないのだけれど。
地獄秋刀魚は、流石に今の寒くなる少し前の季節は旬の様で、脂が乗っていて美味しかった。ただ内臓の辺りの苦味は苦手だった。メイコは、綺麗に内蔵部分も食していた。これも大人の力なのだろうか。
食事が終わり、メイコが僕に食後のお茶を出してくれた。
「ありがとう」
僕は、星型の装飾が施された可愛らしいカップに口をつけ、お茶を楽しんだ。すると、メイコが僕に話しかけてくる。
「コウメイ様、先程、カガ様より言付けがございまして、食事の後、魔王様の祭壇へお越し下さいとのことです」
その言葉を聞くと、僕は一気に鬱になる。正直、あのカガという♂は話のリアクションが大きすぎて、とても疲れるからだ。できれば、関わりたくない人物の一人だ。
「また、人間界の攻略の話かな……。僕はこの部屋の警備で忙しいのに! そういうのは、名誉欲の強いサカイとかチンに任せればいいのに……。はぁ……」
僕は深い溜め息をつく。
「しかし、コウメイ様も四天王のお一人、たまには魔王様に従事することも大事だと思われます」
お茶を飲みながら、メイコは優しく僕に微笑みかける。メイコにそんな顔をされてしまったら、無下にすることもできなかった。
「分かったよ。正装に着替えて行ってくるよ」
僕がそういうと、メイコは嬉しそうな顔をする。
「それでしたら、早速お着替えの準備をいたしますね!」
メイコは嬉しそうに、クローゼットを開けると、奥の更に奥を探し始めた。男性用の衣装は、クローゼットの奥の隠し棚に置いたのだが、メイコにはバレてしまっていたようだった。
しばらくするとメイコは、漆黒の正装とマントを出してくると、それをハンガーに掛け整えてくれている。僕は、お茶を全て飲み干すと、嫌々ながらも着替えることにした。
流石に、この服で部屋の外に出るのは四天王として示しが付かないのは、僕でも分かっているのだ。
「……」
「……」(メイコはじっとこちらを見つめている)
「…………」
「…………」(メイコはじっとこちらを見つめている)
「……ねぇ、メイコ? いつまでここにいるの。着替えるから、部屋から出ていって大丈夫だよ?」
「いえいえ、コウメイ様! 私がしっかりお着替えさせて頂きますね」
彼女の顔は先程の優しい笑顔とは代わり、淫魔な表情になっていた。
「え…‥ちょっと……メ、メイコ……!」
これも大人のテクニックというのだろうか。多少抵抗はしたものの、僕はメイコに生まれたままの姿にあっという間にされてしまう。
「コウメイ様……、可愛い……」
僕の下半身をみて、メイコは呟いた。高揚した表情のメイコは、そのままテキパキと僕に服を着せていった。
僕は、無言のままこの羞恥を我慢するのだった。
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