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日替わり?!レアガチャ勇者様!  作者: 窓際ななみ
おうとのたたかいの章
32/63

第三十一話 英雄の旅立ち!

 私たちは王城へ入ると、前庭へ向かう。

 開放されていたため、王城の周りには見学をしている街人たちで賑わっていた。


 私たちは、英雄祭の会場となる場所に到着する。そこには赤い絨毯の城まで敷かれており、舞台には、左右と中央にそれぞれ2席づつ、計6席の玉座が置かれている。


 そして席の後ろには大きなモニュメントが置かれており、それぞれの国の印が刻まれていた。

 マカロン国、シフォン国、プティング国の印だ。


 アイスは、辺りを観察している。


「あの時の戦いの痕は、もう無いようだな……」


「そうなの?」


 私は、その戦いに参加しなかったので分からないが、ミチバやサカイとの一戦を思い出すと、それは壮絶なものだったのだろう。


「ああ、結構派手にやったんだが、すっかり元通りになっている」


 アイスは、少し苦笑しながら、私に話してくれる。


「さぁさぁ! 皆さんの席はこちらですよ」


 アンゼリカは手を招いて、私たちを席へ案内する。

 そこはプティング国の玉座側に、もっとも近い席だった。玉座……までは行かないが、かなり豪華な造りの椅子だった。


「……本当に特等席ね」


「そりゃぁもう、今回の主や……」


 アンゼリカは、突然口を塞ぐ。


「……? どうしたの、アンゼリカ?」


 先程から、少しばかり挙動がおかしい。私は、何かあったのか訪ねてみる。


「ウウン、ナンデモナイヨ!」


 何故か、ぎこちない返事をアンゼリカは返してくる。


「おお、良くきてくれた! パンナ、アイス、ザッハよ!」


 舞台に到着したグラニュー王子は、私たちを見つけると早々にこちらにやってくる。


「この度は、お招きいただきありがとうございます」


 私とザッハは、スカートの裾を摘むと、グラニュー王子に礼をする。ザッハもまた、深々と礼をした。グラニュー王子の後ろには、ちょび髭を生やした少し年のいった夫婦と思われる男女が、穏やかにこちらを見ていた。


「ほう、その者たちが、グラニュー王子が話していた者たちか?」


「はい、マカロン王よ」


 なんと、マカロンの王様と王女様だった。確か、マカロン国の代表は、シフォン国やプティング国と違い、王の責務を努めた元国王と王妃が代表になっているとのことだった。

 確かに、グラニュー王子と比べると威厳を感じなくはないが、どちらかというと親しみやすい街のおっちゃんのように感じられた。

 私たちは緊張しつつも、グラニュー王子同様、マカロンの王と王女に挨拶をする。

 すると、マカロン王は、私たちを品定めするようにじっと観察し始めた。流石に王の前では失礼な態度を取れないので、私たちはマカロン王が満足するまで、しばらく耐え続けた。

 特にアイスは、何故か念入りに品定めされている感じがしていた。


「ふむ……お主、なかなか良い面構えしているな」


「は……、ありがとうございます」


 アイスは、マカロン王に再度礼をする。


「……女房の尻に敷かれそうだがな、はっはっはっ!」


 その台詞を聞いて、私とザッハは笑いを堪えるのに必死だった。


「それでは、マカロンの王と王妃、こちらへどうぞ。ご案内致します」


 奥から正装をしたダージリンが現れ、マカロンの王と王妃を席に案内する。


「まぁ、アイスが女の尻に敷かれそうなのはあるわね」


「……うん……」


 アイスは、私たちの感想を聞いて、がっくりとうなだれていた。


「あ……!」


 近づいてくる女性に気づき、私たちは道を開ける。うなだれたアイスの元に、一人の女性が向かっていったのだ。


「アイス……」


 その声に反応し、アイスは顔を上げる。


「チョコレイト姫……ご機嫌うるわしゅうございます」


 アイスは、チョコレイト姫に礼をする。二人は、そのまま見つめ合うも、何一つ会話をしない。

 私たちは気を利かせて、その場を二人きりにして上げた。そして様子を、少し離れた場所で伺っていた。


「相変わらず、煮え切らない男よね……アイスって」


 アンゼリカは、やれやれと、ため息をついていた。

 二人が見つめ合って、しばらくする、機会を伺っていたダージリンが、チョコレイト姫に挨拶をし、席に案内する。

 チョコレイト姫の右の台座は、誰も座っていなかった。そして、しばらくすると、全ての国の代表が揃い、前庭には多くの街人が集まっていた。代表は、それぞれ手を振って来場した人々に挨拶をしている。


「なんか、こんなに人が大勢いると、すごく緊張するね!」


「お前が英雄になる訳じゃ無いんだぞ?パンナ」


「分かってるわよ! 気分よ気分!」


「……お腹空いた……。早く美味しいもの……食べたい……」


 私たちも、少し雑談や周りの様子を見学しつつ、式典が開始されるのを待っていた。

 全ての準備が整ったのか、ダージリンが舞台の中央に現れた。そして、代表者に礼をする。


「お忙しい中、各国の代表に集まって頂き大変感謝致します」


 そして、集まった群衆に向かって挨拶を開始した。


「そして王都の民も、我が王都の英雄を、祝う為に集まって頂き感謝する。それでは、まずはシフォン国代表、グラニュー王子より挨拶を頂きたいと思います。」


 ダージリンが舞台を降り、代わりにグラニュー王子が舞台に立つ。


「王都の民よ、英雄祭に集まって頂いて、感謝する。私は、長い話が苦手でな、早速今回の英雄祭の主役を紹介したいと思う」

 

「うん……?」


 グラニュー王子の挨拶に、会場がざわついていた。

 

「ねえ、アイス? 今日の英雄祭ってグラニュー王子が主役よね?」

 

「あ、ああ、そのはずだが……」

  

 私たちが困惑している中、グラニュー王子は舞台の中央で、盛大に声を上げる。


「王都の民よ、今日は君たちに紹介したい人物がいる。先日、王都全体に通達したが、プティングの大臣であったチンが、この王都の国家転覆を計画したため、処罰された。これを未然に防ぐことができ、被害を最小限に出来たのは、この王都を守るため、命をかけて戦った者がいたからだ!」


 私は、この話を聞いている途中から、とても嫌な予感がしていた。


「それでは、この王都を救った英雄たちを、紹介したいと思う」


 グラニュー王子の手が、こちらを指し示すと、群衆の視線が一気に私たちの方に集まってきた。

 やられた!


「……は……図ったわね……アンゼリカ……!」


 どうやら私たちは、アンゼリカ含む関係者にはめられてしまったようだった。

 私は、かなり困惑していた。


「ど、どうしよう? アイス……逃げる?」

 

「ば、バカをいうな! 各国の代表がいる場所で、そんな無礼こと出来るわけがないだろう!?」 


 私たちは、もう逃げることもできず、ダージリンの案内で舞台に上がらされてしまう。


「パンナちゃん! 素敵! 可愛い!」


 舞台の脇で声援を送っているアンゼリカを、私は恨めしそうに睨んだ。


「それでは、英雄より、それぞれお言葉を頂きたいと思います」


 ダージリンは、私たちの心情を察することもなく、淡々と進行を行っている。横のアイスを見ると、どうやら腹をくくったのか、群衆に向かって話しだした。


「私の名は、アイス=モナカ。昔はここの騎士団にいたこともあったが、今では冒険者をやっている。先程、グラニュー王子より紹介いただいたが、私たちは出来ることをやったまでだ。それに、私たちだけの力では勝つことはできなかっただろう。グラニュー王子や多くの仲間の強力があったからこそ、チンの野望を打ち砕き、勝利を得ることができたのだと思う。英雄として褒め称えられるには、実力も経験もまだまだだと思うが、その気持ちは受け取りたいと思う」


 アイスが話し終えると、群衆から壮大な拍手が起こる。流石アイス、こんな状況でも卒なくこなすその交流力。私も見習いたい。


 そして、次は私の番だ。……しかし、こういった事が不慣れな為、頭の中が真っ白になってしまう。それに、私、最後の方はずっと倒れて寝ていたのよね……。


「パ、パンナ=コッタです……。ご、ごめんなさい、私……当然、英雄とかいわれても、私は怪我でずっと倒れて寝てたんで…‥あんまり役に立ってなかったかも……なんて……」


 自信なさげに私は語ると、突然グラニュー王子が怒鳴り声を上げる。


「何をいっている!パンナ!お前がいなければ、誰も心も動かなかったのだぞ! お前があの時、私との一騎打ちに命をかけて勝負をして勝ったからこそ、皆がお前の意思にについていったのだ! お前は、私と戦い私に勝った戦友だ。お前を英雄といわず、誰を英雄と呼ぶというのだ!」


 グラニュー王子の力説に、会場が一瞬静寂に包まれる。しかしその静寂は、盛大な拍手喝采で破られ、私に送られていた。どうやら、グラニュー王子に勝ったというところが、すごかったらしい。

 溢れんばかりの声援が、私に送られる。


「あ、ありがとうございます!」


 私は、深々と群衆の皆様にお辞儀をしてお礼をする。くぅ……とっても恥ずかしすぎる……。


「殿下が、全部美味しいところ持っていきましたね」


 舞台脇にいたリゼは、クスクスと笑いながらラミンに話す。

  

「まぁ、殿下らしいね。」


 ラミンも釣られて笑っていた。

 そして、ザッハの番になった。


「……ザッハ=トルテ……と申します。お腹が空いたので、この後美味しい料理を食べさせて下さい……」

 

 会場内からは、大きな笑い声と拍手がザッハに送られた。 挨拶が終わった私たちは、やっと開放され先程の席まで戻ってきた。


「くぅぅ……とってもとっても恥ずかしすぎる……。あとで絶対アンゼリカにお仕置きしないと……」


「程々にしてやれよ」


 アイスは、私を見て苦笑していた。

 

「それでは、次にプティングの代表より、王都の民にお話があるそうです。」 


 ダージリンが、チョコレイト姫を舞台の中央へ案内する。

 式舞台の上には、プティング国の姫チョコレイト姫が、群衆の前に現れる。

 風になびく濃紫色の長い髪、青い瞳と小さく整った顔立ち、人形のような美しい武井、そして気品ある身の振る舞い。

 着用している白紫色のドレスが、一層、姫様を引き立てる。 改めて見ても、まるで絵に描いたような、理想の国のお姫様像に見えた。


 チョコレイト姫が、舞台の中央に立つと、群衆は静まりかえる。


「プティング代表、チョコレイト・プティングです。ここにいる王都の民の時間を、少しばかり私に頂けますでしょうか。」


「まずは、王都の民に謝らなければなりません。王都の代表でありながら、2年もの間、プティング国の代表が私一人の状態になっていました。それが、結果としてチンという悪漢に付け入る隙きを与え、今回のような不祥事を出してしまいました。もし、英雄の方々、そしてグラニュー王子たちシフォンの方々の活躍がなければ、プティングという国の存続事態が危ぶまれていたと思います」


「シフォンの代表、グラニュー王子、そして英雄、パンナ、アイス、ザッハ……。改めて感謝とお礼を、ここで致します」

 

 チョコレイト姫は、グラニュー王子と私たちに、深々と頭を下げる。一国の代表が、頭を下げる――。群衆は、改めて今回の事件が王都にとって脅威だったことを改めて認識することとなる。


「……私はこれから、みなさまにブリットルの最後の言葉を伝えたいと思います。」


 群衆がざわつくも、直ぐに静かになる。皆、チョコレイト姫の声に耳を傾けている。


「最後の言葉……」


 アイスは手を握りしめ、チョコレイト姫の言葉を待った。

 チョコレイト姫は、懐から手紙を出すと、それを読み上げる。



 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>   



 チョコレイトよ、王都の民よ

 何も出来ないまま、力尽きてしまうであろう王を許してほしい


 だが、どうか、最後に私の願いに耳を傾けてほしい 


 私とチョコレイトには、もう一人幼馴染がいた

 彼は、あまり目立つ事はしなかったが、努力家で、心優しい者だった

 チョコレイトは、いつも彼と一緒に過ごし笑っていた


 私たちが大人になると、私は家柄もあり、王子としてプティングに迎えられ、そして王子になった

 彼は、私とチョコレイトを祝福してくれた


 恐らく、プティングの国の為を思い、退いてくれたのだろう

 私と一緒になったチョコレイトは決して、私には悟られないようにしていたが、私には分かっていた

 チョコレイトが最も愛するものが、彼だということを


 都合の良いこととは分かっているが、許されるのであれば、チョコレイトには本当に愛する者と幸せになってほしい


 そして、彼もまた、チョコレイトを愛しているのであれば、チョコレイトとそして国の民を導いてほしい


 彼は自分では気づいていないかもしれないが、王としての資質そして優しさを持っている

 長年一緒だった私が、保証しよう


 私、ブリットル・プティングは、ここに宣言しよう

 私の後継者として、アイス・モナカを選ぶことを


 これは私の我儘だ

 だが、どうしても本心を伝えておきたかったのだ


 チョコレイト

 王都の民よ


 ありがとう。

 私は、幸せな王子だった


 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>   



 耳を傾かせ静まっていた群衆が、徐々にざわつき始める。生前のブリットル王子が、後継者を名指しで宣言しており、それが先程の英雄の一人だったのだ。むしろ、なぜ直ぐに新しい王にならなかったのか?そんな疑問が、群衆の会話から伺えた。

 すると、グラニュー王子が再び立ち上がり、チョコレイト姫のところまでいくと、アイスに向かって声をかける。


「実績はもう十分だろう。後はお前の気持ち次第だ、英雄アイスよ」

 

 アイスは、動かなかった。いろいろな想いが、彼の頭に駆け巡っているのだろう。

 私とザッハは、そんなアイスの背中を優しく押す。


「パンナ……ザッハ……」


「答えはもう出てるんでしょう? 私たちが、最後のひと押しをしてあげる」

「……アイス、頑張れ……!」


「…‥ああ、二人共、ありがとう」


 アイスは、立ち上がると堂々した振る舞いで、チョコレイト姫のところまで歩いて行く。

 私たちは、そんなアイスを眺めている。


「初めて、アイスが格好いいと思っちゃった」 


「……うん……」


 私も、ザッハも泣いていた。もう5年もの付き合いだ。私たちも色々なことを思い出していた。でも、苦楽を共にした家族の巣立ちなのだ。今は、笑って送り出そう。


 アイスは再び、舞台へ上がる。今度は英雄ではない、愛する者を迎える騎士として――。


「チョコレイト姫――。いやチョコレイト、随分と待たせてしまったようだ」


「ふふ、そうですね。アイスと出会った子供の頃から、ずっと待ち続けておりました」


 二人は民衆の前にも関わらず、お互いを抱き合い口づけをする。


 その光景をみた群衆からは、今日一番の拍手喝采と祝福の声援が送られる。


「王都の民よ、安心するが良い、このアイスは、私がみっちりと王子としての何かを教えることにするのでな!」

 グラニュー王子は、群衆に向かって声を上げる。群衆からは、盛大な声援が巻き起こっていた。

 それを聞いていた、ダージリンとラミン。


「……まずは、殿下に王子としての何かを教えないといけませんね」


「まったくですね」


 二人は苦笑するも、拍手を舞台の二人に送っていた。

 そして、この光景を一番近くで見ていた、マカロンの王が笑いながら呟く。


「これほど素晴らしい英雄祭が見れるとは、まったく、長生きはするものだな……」 

 

 こうして、今回の英雄祭は、王都の新たな旅立ちとして、語り継がれる事になるのだった。



*****



 王都での何度目かの朝がやってくる。早朝から、私たちは荷物整理で忙しく体を動かしていた。


「ザッハ、準備できた?」


「……うん、大丈夫……」

 

 私は、少し大きめの荷物袋を背負う。私の右手も、もう殆ど元通りに動いてくれている。体の傷は消すことはできなかったが、これも冒険者の勲章のようなものだろう。

 そして、この部屋にも、随分お世話になった。もし、また王都に来ることになったら、またこの部屋を利用しよう。

 そう思うと、私たちはこの思い出の部屋を出る。

 宿屋の主人に、支払いをしようとすると、英雄様から貰えないと断られてしまった。

 交渉の末、なんとか半分だけ受け取ってもらい、今度来た時にまた使わせて貰うとつたえると、宿屋の主人は大層喜んでくれた。

 宿屋から出ると、どこから聞きつけたのだろうか、思いがけない人物が集まっていた。湿っぽくなるので、こっそり旅立つつもりだったが、やはりアイスには私の考えがバレていたようだ。


「いいの? 王子様二人が、朝早くからこんなところにいて?」


「そろそろ、お前たちが旅立つ頃だと思ってな、ダージリンさんに頼んで見張ってもらっていたんだよ」


「英雄様の旅立ちを見送るのも、私たち王都の代表者としての仕事だ」


 グラニュー王子は、私の頭をぽんぽんとたたく。


「ザッハちゃん! もし辛くなったら、いつでも私を頼ってね。一番弟子の場所を用意しておくわ!」

 ザッハを勧誘していたリゼに、私は話しかける 

 

「リゼ、ありがとう。あなたのおかげで、右手元通りよ」


「私が付きっきりで対応したから当然よ。元々は私のところの王子が原因だったしね。まぁ、気をつけてね」

 リゼは、ちらりとグラニュー王子をみる。グラニュー王子は、バツの悪そうな顔をする。


「ダージリンさん、ラミンさん、色々ありがとうございました」


「ああ、君たちも元気でな」


「また、王都にも遊びにきてくださいね」


 ダージリンは相変わらず無表情で、ラミンさんは微笑みながら私たちに挨拶してくれた。


「……アイス。いや、アイス王子? ……かな?……プッ!」


【アイス王子】という言葉の違和感に、私とザッハは思わず吹き出してしまう。


「お前ら……こんな時まで勘弁してくれ……」


 横にいる、チョコレイト姫もクスクスと笑っている。


「姫様、アイスは結構優柔不断なんで、ちゃんとに押してあげないと駄目ですよ!」


「ええ、分かっています。昔からそういうところありましたからね。パンナさん、ザッハさん、アイスの事は私に任せてください。ありがとうございました」


 チョコレイト姫の言葉は、とても頼もしい言葉だった。


「パンナ、ザッハ――」 


 アイスの表情が真剣になる。


「魔王の事は、こちらでも引き続き調査している。だから、無茶はするなよ。お前たちには私たちがいるからな」


「そうね、私だって、好きで修羅場に首を突っ込んでいるわけじゃないんだから!」


「ハハッ、そうだな。今度、パンナとザッハが来たときには、一回り大きな私と王都を見せられるように、努力しよう」


「ええ、頑張って!次に来るのを楽しみにしているわよ」

「……楽しみ……」


 私は右手に、ザッハは左手に、アイスと握手をする。三人の旅立ちの握手だ。


「じゃあ、行くね! みなさん、お元気で!」


 私は、早朝の宿屋の前で別れを告げる。そして、見えなくなるまで、お互いに手を振っていた。

 王都の門をでると、振り返り、そのそびえ立つ城壁を眺めた。


「また……来るね……! じゃあ、行きましょうか、ザッハ」


「……うん……」


 こうして、私たちの王都オードブルでの冒険は、一旦終わりを告げる。そして、これから、また新しい冒険の第一歩を踏み出すのだ! 



*****



 私たちは、少し離れた貿易街まで歩いて行くことにした。最初来たときは馬車だったが、今日は少しだけ王都の近郊を歩いて見たかったのだ。

 早朝のためか、王都へ向かう馬車は殆どなかった。整備された道を、私たち二人は景色を楽しみながら、歩き続けた。そして、木々が多くなり道も細くなっていく。


 目の前にある山林に入り山を超えると、目的の貿易街だ。


「……パンナ……あれ……」


「……ん? ……誰かいる?」


 見ると山林の入り口辺りで、大荷物を持った人影が見えた。その人影は、私たちを見つけると、こちらに駆け寄ってきた。


「ねぇねぇ、そこの魔道士のお二人さん! 魔道士だけじゃ冒険の旅は辛いよね? 絶対大変だよ! 実はここに、無職の元騎士が居るんだけど、仲間にしない? 実力は保証付きだよ!」


「…………」


 ザッハが指を指す。 


「駄目よザッハ! 見ちゃいけません!」


 私は、その人影を華麗にスルーして、再び歩き始めた。


「ひ、酷いよパンナちゃん! 無視するなんて!」


 その人影は、泣きながら私たちの後を追いかけてくるのだった。



 おうとのたたかいの章 =完=

これで冒険のお話も一段落になります。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


ご意見ご感想あれば、ぜひよろしくお願いいたします。

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