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第三話 勇者様チェック!

 まずは、勇者様には、やる気を出してもらわないと!


 今まで何人もの勇者様を召喚してきたが、勇者様によっては多くの説明を要求してきて会話内容がループしたり、この世界の様子をみたいといって観光して一日終わってしまう場合も少なくなかったりした。

 正直、そういった希望を叶えてあげたい気持ちもあるのだけれど、如何せん一日という時間は短いのです。

 時間を有効に利用し、パーティーの戦果を上げるには、できるだけ効率良く物事を進める必要がある。


 まずは勇者様のご機嫌を取り煽てて、やる気を出してもらうことこそが、円滑なパーティー運用になるのです!


 不安な表情を浮かべる勇者様の、フォローも忘れてはならない。


「ご安心下さいケイスケ様。勇者様はこの世界に召喚された再、神々より強力な力を授かっております。死ぬことなどはございませんので、ご安心下さい!」


 ……実際には死ぬ可能性もあるのだが、この辺は円滑な運用のため黙っておくことにしている。

 そして、ここからが本題だ。


「それではケイスケ様、どうかこの凡人の私共の為に、一度その力をお見せいただけませんでしょうか?」


 私はケイスケ様に頭を下げつつ、後ろの二人に目で合図を送る。


「お……おう! 俺もケイスケ様のお力見たいとぞんじまずぞよ!」


 微妙に言葉がおかしいながらも、深々とお辞儀をして誤魔化すアイス。


「ワタシモミタイ」


 少しだけ首を縦に動かすザッハ。

 アイスはともかく、ザッハの感情のこもっていない喋り方はどうにかならないのかあ。

 しかも、棒読みじゃない!


 さんざんザッハに演技指導はしてみたものの、未だに効果なし。顔は可愛いのだから、もう少し愛想良くしてもらえると、男の勇者様なら喜ぶと思うのだけれども。

 ちらりとケイスケ様の様子を見ると、私たちの言葉にまんざらでもないようで、少し困惑した顔をしながらもやる気の様子だった。


「えっと……、どうすればいいのかな?」


 やる気を出してもらったようで何よりです!(ニッコリ)

 私たちは勇者様の力量を見るため、別の場所へ移動することにした。


 草原を抜けて移動したそこは、岩と砂のみが存在する場所だった。一面は砂の海、そして人間の二倍、三倍程度の大きさの岩が、いくつも並んでいた。岩の表面には光沢があり、ここでも日の光が反射して岩の表面は夜空の星々のように輝いていた。


 周りに木々や緑等はまったくなく、全体的に生命の存在が感じられない無機質な風景が広がっている。ここなら、多少派手にやらかしても問題ないだろう。


「それでは勇者様、お手をお出し下さい。そして剣を構えるような格好をして頂けますか?」


「……こう?」


 ケイスケ様が一般的な剣士の構えをしてもらったところで、私はケイスケ様に向けて手をかざす。


【聖剣召喚の儀式】だ。

 魔導書【攻略うぃき】によれば、勇者を召喚すると聖剣も一緒に召喚できるということだった。聖剣には強大な魔力が秘められており、勇者の力を何倍にもしてくれる……らしい。


 聖剣は、私たちには扱えない。以前、別の勇者様が召喚した聖剣を触らせて貰ったのだが、あまりにも重すぎて、まともに扱えなかった。アイスも試してみたが、アイスのような体格でもまともに振ることすらできなかった。

 そんな聖剣を、召喚された勇者様は軽々と持ち上げることができた。つまり勇者様専用武器なのだ。


「むむむ……、いでよ! 異世界の聖なる剣よ、勇者様に聖なる力を与えたまえ!」


 私が手に力を込めると、ケイスケ様の体が突然虹色に輝き始め、そして光に包まれる。

 眩しい光に一瞬目がくらむ。そして、徐々に光は収束していった。


 勇者様が再び私達の目の前に現れると、そこには、いままで普通に持っていたかのように聖剣を持ったケイスケ様の姿があった。

 ケイスケ様自身も、持っている聖剣に驚いている様子だった。


「ケイスケ様、それではこれらの岩を敵だと思って倒して頂けないでしょうか。ケイスケ様の戦いやすい状態でやって頂けると助かります」


「わ……、分かりました!」


 聖剣を構えると、ぎこちない動きで剣を岩に振るう。聖剣が岩に当たると刃先はのめり込むように岩の中に入っていった。相変わらずの切れ味だ。それが面白かったのか、ケイスケ様は何度も何度も岩に聖剣を振って切りつけ始めた。


 私たちは、その様子をじっくりと観察する。私はアイスに訪ねる。


「どう?」


「ああ…酷い。その辺の村人の方が、まだマシに剣を振るうぞ」


「……そっか……」


 つまり今回の勇者様は剣を使えない……前衛は無理っぽいということだ。私は、勇者様を呼び出した当初の目的を思い出す。


「……そういえば。今回討伐依頼の狂獣って物理攻撃するタイプだったっけ。アイス大丈夫?」


 私とザッハは基本魔道士なので、遠距離支援とサポートがメインになる。本来なら、勇者様とアイスが前衛となり、私たちがフォローしつつ敵を弱らせ、勇者様が聖剣で止めを刺すというのが定番の戦法になっていた。

 しかし、今回はこの戦法は利用できないということだ。


「少し厳しいが、何とかなるだろう」


 そういいつつも、少しだけため息をつくアイス。


「悪いけど、前衛はよろしくね」


 アイスはそれなりの修羅場をくぐってきた強者だ。長い付き合いで、戦い方を見てその強さは分かっているので頼りにはしている。


「勇者様、華麗な剣さばきありがとうございました」(ニコニコ)

「それでは、今度は魔法を見せて頂けますでしょうか?」(ニコニコ)


 しかし、笑顔は絶やさない。 

 ここで勇者様の機嫌を損ねるようなら、召喚の際に利用した銅貨三枚が無駄になってしまうからだ。


「魔法! 魔法って使えるんですか?」


「もちろんです。どんな魔法かは勇者様によって違うようですけど。それでは、まずは右手をかざして手の先に意識を集中して頂けますでしょうか」


 ケイスケ様は聖剣を地面に置くと、手を前にかざして目を瞑った。すると手の先が青白く球体のように輝き始める。

 私は、その光をよく観察する。

 どうやら攻撃魔法的のものではないらしい、補助魔法系の類いなのか? 私は勇者様の周りをぐるぐるしながら、ありとあらゆる角度で調査をする。ちょうど真正面にきたときに、異変が起きた。


 突如目の前に巨大な箱が現れた。正方形の緑色をした箱。

 箱には【?】のマークがすべての面に刻み込まれていた。


 どうやら勇者様の魔法は、これを召喚するための魔法のようだ。


「ケイスケ様、どうやら魔法は召喚魔法のようでした。こちらが召喚されたものですが、少しお待ち頂けますでしょうか」


 今回のような謎の箱を召喚する魔法は、見るのが初めてだった。

 私は、魔導書【攻略うぃき】で、同じような魔法がないか確認することにした。


「しかし……なんだこれは? 不思議な箱だな?」


 箱を持ち上げ、コンコンと手で小突くアイス。


「なんか……かわいい……」


 指で触りながら、そんなことをつぶやくザッハ。ザッハの感性は、未だ私には理解しがたいところがあった。


「あ、これかな?」


 私は、同じような謎の箱の絵が記載されている頁を発見した。


 【超破壊爆弾】

 隠れレア勇者が召喚可能な、特殊トラップ兵器。

 召喚して強い衝撃を与えると、少し時間をおいたあと超爆発する。

 その威力は、村一つを木っ端微塵に吹き飛ばす。

 ばくはつりょくはきょうりょくだ――。


 その内容を読んだ私は硬直――。驚愕しつつもすぐさま、あの箱を行方を目で追い始める。


「ちょっと、切ってみてもいいかな?」


 ケイスケ様は聖剣の先で、例の箱を小突いている。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」


 その光景を見た私は、叫んだ――。

 辺り一面に響き渡る、女性の絶叫。


 箱で遊んでいた三人は驚き、何事かと私の方を一斉に振り返った。


「ど、どうしたパンナ!」


 何事かと尋ねるアイス。しかし、そんな余裕はない。

 私は勢い良く走り出し、渾身の力を右手に込める。そして、握りしめた拳をケイスケ様の顔面に向けて振り下ろした。


「そげぶっ!?」


 振り下ろされた右拳は、ケイスケ様の右頬に綺麗にぶち当たる。

 ケイスケ様はそのまま、鼻血と鼻水と涎を周りに撒き散らしながら吹っ飛び、砂の地面に倒れてしまった。体はプルプルと細かく痙攣しており、白目を向いて沈黙してしまっている。


「……はっ! 申し訳ありません、ケイスケ様!」


 我に返った私は、既に意識を失って聞こえないと分かっていても、地面にひれ伏し、頭を地面にこすりつけてながら勇者様に謝った。


「いきなりどうしたんだ!?」


 何があったのか理由を求めるて駆け寄ってくる二人に、事情を説明することにした。説明を聞いた、アイスとザッハはドン引きする。顔は青ざめていた。


 私たちはケイスケ様を岩の木陰に移動して、回復を待つことにした。それから、少し時間が経過すると、やっとケイスケ様が目を覚ました。


「ん……僕は一体……?」


「ああ! 気が付きましたかケイスケ様!」


 私は大げさに喜びを体で表現し、ケイスケ様の両腕をぎゅっと握りしめた。驚くように頬を赤くするケイスケ様。


「はい、邪悪なる意識体によって私の魂が闇に飲まれてしまったのですが、ケイスケ様のお力で助かることができました! 何とお礼をいったらよいのでしょうか!」


「え……そうなの?」


「はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ただひたすら拝み倒す私。反論の予知は与えないのがコツだ。


「そ、そっか、僕でも役に立つことができたんだ。良かった……」


 ニッコリと微笑むケイスケ様。腫れた頬のアザが痛々しい。私は、そんな姿を直視できず、目を逸したのだった。

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