第二十五話 信頼の代償!
「ラミン、リゼ、お前たちはどう思った?」
王城の廊下を歩きながら、グラニュー王子は側近の二人に問いかけた。
「魔法自体は失敗していましたが、彼女が嘘をいっているようには思いませんでした」
「私もラミン同様の意見です。それにあの太ももに刻まれた魔法陣……。たしかに、今まで見たこともないものでした」
「……そうか」
「それに召喚できる勇者は一人、人間以外も召喚できるといった言動、ある程度合点がいくところもある」
ダージリンが意見する・
「何にせよ、証拠が不十分である以上、強硬手段を取らねばならぬかもしれぬ。チンがプティングの王位を継ぐことだけは、なんとしても阻止しなければならない。もし王位に就けば、私とて迂闊に手が出せなくなるからな。」
「はい、全力を持って引き続き調査致します」
「頼んだぞ、ラミン、リゼ」
*****
気がつくと私は、元いた謁見室に戻っていた。どうやって戻ってきたのか、ほとんど覚えていない。
「……ごめんなさい……」
私は、目の前の二人に謝る。アイスとザッハにはとても申し訳ないことをしてしまった。もしかしたら、虚偽により厳罰を受けてしまう可能性もあるからだ。
「……大丈夫……」
「パンナ、心配するな」
二人が優しい声をかけてくれる。でも、いまはそれが痛い。
「それでは、私はここで失礼する――」
私たちの監視のためについてきたダージリンが、部屋を出ようとする。
「殿下はまだ、君たちに失望はしていない――」
そう言い残し、立ち去るのだった。
これから、どうしよう。精も根も尽き果てた頭で考えようとするが、意識が朦朧とし始める。
「パンナ、お前は少し休め……」
「……一緒に寝る?」
「……ううん、ありがとう二人共。ごめんね、少しだけ休ませて」
私はそういうと、部屋の隅で横になる。色々な事があり精神的に疲れていたのか、私は目を瞑ると深い闇に身を任せた。
*****
「…………」
ここは、夢の中なのだろうか。
私は誰かに連れられて王城の下に向かっていた。前を歩く男性には、見覚えがなかった。ただ、着ている衣装から、かなり高位の貴族と思われた。
そのまま王城の階段を下がっていき、地下一階まで到着した。王城の地下一階は、ひんやりと少し肌寒い感じがしており、所々にある魔法鉱物で作られたランプが、鈍い光を発している。
その男は、地下一階の奥に入っていく。ただ、私は気になっていた。
ところどころにだが、魔法による監視トラップがあったが、前を歩く男はトラップを気にせず歩いていたのだった。恐らく、この男がトラップを仕掛けた主なのだろう。そして、この奥には余程重要な何かがあるのだろう。
地下の一階の奥までくると、そこは厳重に封印されている扉が現れた。男は、幾つかの手順を踏んで魔法陣を展開させている。私は、その手順をじっと見つめていた。そして、男が全ての手順を終えると、その扉は重々しい音と共に開いていった。
部屋に入ると、更に温度が低くなるのを感じた。鳥肌が立つほどの寒さだった。部屋の中には窓はなく、奥に大きな棚がある以外は何もない部屋だった。
男は部屋の奥にいくと、棚にあった大きな瓶を手に取り、私に声をかける。私は、その男の側に警戒しつつも歩いていった。
そして、私はその男から瓶を渡される。その瞬間、悍ましい魔力をその瓶から感じたのだった。この瓶の中にあるものは……人体から魔力を絞り出したものだ……。人間の体の中には、想像以上に大きな魔力が眠っている。
人間はその全てを利用することはない。体に負荷がかからないように、それを制御しているからだ。でも、この中に入っているものは、その人間の魔力だけを絞り出した感じのものだった。いわば、人間を生きたまま、まるごと極限までに圧縮して作られた、魔力の保存庫だ。
突然、私は目の前の男に吹き飛ばされる。痛みはなかったが、とても苦しい感じはした。
一度体制を整えようとしつつも、男の猛突進に対応できず、私は頭を掴まれてそのまま体ごと宙吊りにされてしまう。
そして、そのまま地面に頭を叩きつけられる。
何度も何度も、顔の形が変わるまで、男は叩きつけるのを止めなかった。
私が動かなくなると、男は私をうつ伏せにして、背中から衣類を破り捨てた。そして、私の背中に魔法陣を描くと、それを一気に展開する。
痛みはないが、とてつもなく不快な感じが私を襲っている。それは、心臓が焼け焦げるような拷問にも等しいものだった。私は苦しさのあまり体を動かそうとするが、既に体は私のいうことを聞いてくれなかった。
そう、死ぬこともできず、ただその拷問のような行為が終わるのを、絶望の中待っていたのだった――。
そして、全てが終わると、男は私に向かって話しかける。
「さぁ、アンゼリカ、私の人形よ。君に私の事を教えた者たちを殺してくるのだ――」
*****
私は、そこで目が覚めた。痛みはなかった。間違いなく夢だった。でも、妙にその場にいた感覚はあった。
「……アンゼリカ……」
もしかすると、アンゼリカが私に、このことを伝えたくて見せたのかもしれない。
ただの夢だ、確証もない。それでも、私は見てしまった。アンゼリカの悲痛の出来事を。伝えなければならない、その想いを。
「パンナ、目が冷めたのか?」
アイスが優しく私に話しかけてきてくれる。
「うん……、もう大丈夫。それで、分かったことがあるの」
私はそういうと、部屋の外にいる見張り兵に、ダージリンに話したいことがあることを伝えた。しばらくすると、謁見室の扉が開かれ、ダージリンが現れた。驚いた事に、グラニュー王子も一緒にいたのだった。しかし、これは話す手間が省けるというもの。
今の私で、どこまで信用してもらえるか分からない。今度こそ、虚偽とされ厳罰に処されるかもしれない。
それでも、私は伝えねばならないと思った。
「グラニュー王子、ダージリン様、先程は申し訳ございませんでした。是非、聞いて頂きたい事がございまして、お呼び伊達致しました。」
私は、覚悟を決めて、二人に夢の話しを伝えるのだった。
*****
「――以上が、私が夢で見た内容でございます。夢の話といわれればそれまでですが、それでもあの現実感のある内容を夢のままで終らせてはいけないと私は思い、ご報告させて頂きました」
グラニュー王子と、ダージリンは、途中で話の腰を折ることもなく最後まで私の話を聞いてくれた。
「なるほど、中々興味深い話しではあった。……しかし、それをそのまま信頼するほど、私は愚かではないぞ、パンナ」
グラニュー王子がこちらを見て、威圧する。しかし、もう引くことは出来ない。
「はい、分かっております。私の命を賭けて、信頼を得たいと思っております。」
「パンナ!」
「……パンナ……!」
私の言葉に、二人は驚いていた。ごめんねアイス、ザッハ。でも信頼を得るにはもうこれしか方法がないの。
「パンナ、貴様はその言葉の意味が分かっているのだな?」
「はい」
「良かろう――。では、この私自ら、貴様の覚悟、見届けてやろう」
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