第二十話 逆襲の騎士!
薄暗い部屋の中、私たちはアンゼリカにここ二年の王都の様子について、聞き取り調査を行っていた。
「ほら、アンゼリカ、本当はもっと知っていることあるんでしょ? 話せば楽になるよ?」
優しくアンゼリカに問いかける。そして、この部屋を薄っすら照らすランプを、アンゼリカの顔に近づける。ランプの熱が、アンゼリカの頬をチリチリと焼き付ける。
「もうさ、全部話しちゃお?」(ニッコリ)
「びぇぇ…ほんどうにじらないでず……わだすぃのじってることはぜんぶはなじまじだぁ……びぇぇ……」
アンゼリカは、死んだ狂獣の目をしながら壊れた人形のようになっていた。既に言動も呂律が回っていない。
痛々しいアンゼリカを見て、流石に心が痛くなってきた。ごめんねアンゼリカ……この件が終わったら美味しい食べ物を奢るから!
一通り聞き取りを終えた私たちは、アンゼリカを開放する。アンゼリカは机に顔をうつ伏せにして、動かなくなった。
……すると、例の生物がアンゼリカの顔の側までいくと、頬をペロペロ舐め始めた。
「ああ、ありがとうユウシャちゃん……。アンゼリカ頑張ったよね……ガクッ」
あの生物の名前は、私の知らない間に、どうやら【ユウシャ】になったらしい。まぁ、一日しかこちらにいないので、ユウシャのままで良いだろう。
私たちの尋問に疲れたのか、アンゼリカは、そのまま眠ってしまっていた。
いまは、そっとしておこう。
そんなアンゼリカを残して、私たちは聞いた話をまとめることにした。
王城の内情については、実はほとんど問題が起きていないとのことだった。どうやら、チンという元騎士だった男がプティングの大臣役についたことで、他の国の代表者は新しい王子の就任を急かすのを止めたらしい。恐らく、チン大臣が次の王になると予想してのことだろうとのこと。
チン大臣については、王都の元騎士だった。三年程前に、王都の騎士に志願したらしい。その頃から中々の手練だったのだが、ブリットル王子が亡くなった数ヶ月後のある事件を堺に、彼の評価は上がりまくり、今の大臣の地位に就任したらしい。
……ある事件というのは、ここ二年で一度だけこの王都周辺に、大量の狂獣の群れが現れたらしい。それを、チン大臣が筆頭とする騎士団で、追い払ったとのことだった。アレだけの数を小規模の騎士団で捌き切った為、その後、名将と謳われているとのこと。
ただ、姫様はこのチンの様子を快く思っていないらしい。アンゼリカの話では、侍女たちがチン大臣が姫に暴力を振るっているところを何度かみているとのことだった。なぜ、姫様がチン大臣を快く思っていないか、その詳細は不明だ。
あと、魔王についての話題は、これっぽっちも上がっていなかったとのことだ。幾つか怪しい情報の提供はあったらしいのだが、最終的には問題なしと代表者たちは判断したとのことだった。
実際に、村や街が滅んだという事実も今のところ無いため、事実確認も出来ない状況のようだった。
……とりあえず、アンゼリカから確認できたのはこんなところだ。
「まぁ、怪しいといえばやっぱり、この大臣よね?」
「そうだな……確かにチョコレイト姫は、彼が姿を表したとき怯えている様子だった」
「顔とか怖かったの?」
「いや、姿とかでは無いと思う。何というか、体から発せられる覇気みたいなものに押されていたというか、そんな感じだった……と思う」
「ふぅん、覇気ねぇ…‥。あの四天王の奴ら位の覇気だったら、私でも確かにヤバイかも……」
私は、ふとあの時の戦いを思い出して呟いた。
「……! そうか……あの感じ、何処かで似たような感じはしていたのだが……!」
アイスが突然、声を上げる。
「アイス?」
「あのチンという大臣、ミチバの覇気に近い感じがしたんだ、威力自体はかなり抑えているとは思うんだが……。サカイも同じような覇気をもっていた気がする……」
「ちょっ! 待ってよ! それだと既に魔王の四天王が、王都に潜入しているってこと?」
「確証があるわけじゃない。あくまで推測だがな」
「でも、それだと色々辻褄が合うわね……」
「気になるのは、魔王がこういった政治的策略をするかってところね。昔話だとどっちかというと力で押して来た訳じゃない?」
「サカイを倒した場所からは、何かしらの研究をしてた道具が幾つか確認できていた……。奴らが力押しで、こちらを攻めてくるという固定概念は捨てたほうが良いかもしれない」
「なるほど、そうね」
「……これから……どうする……?」
私の横で話だけ聞いてうんうんと頷くだけだったザッハが、私に聞いてくる。
「とりあえず、そのチン大臣が魔王の四天王だという確証が欲しいわね……」
何か良い方法が無いか考えてみたが、今のところ良い方法は思いつかなかった。
「もう少し、様子を見る……しか無いわね」
「そうだな……」
アイスはがっくりとしながらも、私の言葉に頷いた。
「じゃあ、もう少し街で情報を集めてくるとしよう。夕飯までには宿屋に戻る」
「……私も一緒に……いく……」
「あれ? ザッハ、あのもふもふ生物と遊ぶんじゃないの?」
「……あれ、あのアンゼリカって人につきっきりだから……」
少し寂しそうな表情をするザッハ。そうして、アイスとザッハは、この部屋を後にした。
「はぁ……」
私はため息をついて、アンゼリカを王城まで連れて帰ろうとする。しかし、先程まで机で伏せていたアンゼリカが、そこにはいなかった。
「きゃぁ!」
突然、私は腕を後ろに回され押し倒されてしまう。かなり手慣れた人間の技だった、私は体を起こそうとするも、ピクリとも動く事ができなかった。
「……アンゼリカ……、あなた……!」
アンゼリカは、ニコニコと笑いながら私を見下ろしている。
「うふふ、パンナちゃん、形勢逆転だね! 二人も出て行ったし、助けは当分来ないよ?」
「い……いつから……正気に……」
「この子のおかげだね! ペロペロしてもらっていたら、意識がハッキリしたんだよ」
アンゼリカの目線の先には、ユウシャが毛糸玉のように座ってこちらを見ている。
……どうやら、あんな姿でも勇者様らしい……。何かの回復魔法なのかもしれない。
「い! いたたたたたたたた!?」
アンゼリカは、私の腕を更に締めつける。
「ア、アンゼリカ…‥! 痛い! 痛いよぉ!」
私は涙目で訴えるも、アンゼリカはウットリとした表情で、私に囁く。
「パンナちゃん……その表情……とっても最高……」
「うっ……うっ……」
「まぁ、私も色々聞きたいことがあるんだよね、魔王とか四天王とか物騒なこといってたし。私、尋問するの結構得意だから、覚悟してね!」
こうして、私は彼女に陵辱と尋問のフルコースを受けてしまうことになるのだった。
まさに、騎士の逆襲だった――。
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