第二話 日替わり勇者様!
えーと、こほん……。
私の名前は【パンナ=コッタ】
長く煌びやかな金髪と、銀色の眼鏡がお気に入りの女冒険者だ。
この世界の名前は【オッカシー】、決して「可笑しい」とか言っている訳ではない。
退屈な田舎の暮らしから抜け出し、一人の駆け出し冒険者だった私も、今では信頼できる二人の仲間とパーティーを組んで冒険に励んでいる。
最近は日々の努力の賜物か、ある程度名前が知れ渡り中堅どころのパーティーといったところだ。
パーティーメンバーは、私を入れて三人。
冒険者として理想の体格をした銀髪の騎士【アイス=モナカ】 通称、アイス。
子供用に小さいが、実は大人らしい黒髪の黒魔道士【ザッハ=トルテ】 通称、ザッハ。
そして私、金髪の白魔道士、通称、パンナ。
白魔導士とはいっているが、前衛もこなせる万能タイプだ。
少し前に私たちは、ある遺跡の荒ら……じゃなかった調査を行っていた。
その遺跡は、人の街からかなり離れた山脈の、さらに奥に存在していた。険しく鋭い岩盤が剥き出しになっている山々を越えていき、日の光が大地に届かないほど大量の樹に埋め尽くされた樹海の中を何日も歩き続け、やっとたどり着くことができる危険な場所だった。
昔は、多くの冒険者がその遺跡の調査をしていたのだが、お宝になるようなものは誰も発掘することができず、今では誰も近づかない場所に成り果てしまっていた。
冒険談が長くなるので省くけど、私たちはそこで偶然、【神の遺産】を手に入れてしまったのだ!
それが、神魔法【勇者様ガチャ】!
その魔法に関する魔導書も、その遺跡で手に入れることができた。この魔導書には、勇者様ガチャについて事細かく書かれており、私的には非常に助かっている。
魔導書の名前は【攻略うぃき】。
この魔導書を何とか解読していくと、どうやらこれは異世界から勇者と呼ばれる存在を召喚できる魔法というものらしい。
【勇者】――。
はるか昔、この世界を滅ぼしかけた【魔王】を封印した英雄――。
そんな勇者様を召喚できるということだ――!
なにこれ、すごい!
もし、勇者様の力で、世界中の狂獣の討伐の依頼を達成したら一攫千金なのではないか――!
狂獣とは、この世界で生息する、凶暴な生物の総称だ。殆どが残虐非道、たまに大人しい狂獣もいるがかなり稀だ。人間が大好物らしく、狂獣に襲われ滅亡する村や街も少なくない。
私達冒険者も、狂獣討伐に協力することも多い。とはいえ討伐するのは、かなりの熟練した冒険者でないと厳しいのが実状だ。
そんな訳で、私達のパーティーに勇者様が加わることになれば、戦力は大幅アップ! 魔王を倒した程の実力の持っているなら狂獣など、雑魚にすぎないだろう。
私たちは、期待を込めて【勇者様ガチャ】の魔法で、毎日必要な時に、勇者様を召喚することにしたのだった!
*****
――経緯はそんな感じ。
ただこの【勇者様ガチャ】の魔法には幾つか制限があった。
その制限とは――。
・勇者様を呼べるのは一日一回一人のみである。異世界から無作為に抽出される。
・召喚時には、銅貨三枚が必要である。
・勇者様にはそれぞれ【レア】というランクがある。上位のレアであればあるほど強い。
・勇者様の能力は召喚元の世界の能力に合わせ、召喚先の世界の能力に適切に変換される。
・勇者様はその日終わると、元の世界に戻られる。
・もし召喚した勇者様が召喚先の世界で亡くなった場合、この魔法は消滅する。
……なるほど!
つまりレアランクの高い勇者様を召喚できれば、それだけパーティーの力を上げることができるというわけだ。
実際に、何回か召喚して確認してみた。
結論はこんな感じ。
・召喚した勇者様はそこそこ強い。ある程度の強さの狂獣の討伐なら役に立つ。
・一日しか時間がないので、何もしないで勇者様がお帰りになる場合も多い。
・深夜に消えるので、それまでになんとかする必要がある。
また、柔軟に、この世界に対応できない頭の硬い勇者様もいる。その場合は、死なないように宿屋に軟禁して元の世界に戻ってもらった方が、私達的には都合がいい場合もある。銅貨三枚が無駄になるけどね。
……とはいえ、それなりに協力してくれる勇者様も多かった。さて……今回召喚した勇者様はどうだろう?
「あの……ここはどこですが?」
「はい! ここはオッカシーという世界です。あなたは、この世界の勇者様として異世界から召喚されたのです!」
いつもの定型文を伝える私。
「……あの、僕は何をすれば良いのでしょうか?」
勇者様は、こう答えてくれた。どうやら、今回は話の分かる勇者様のようだ。
銅貨三枚が無駄に成らなくて良かったと、私はほっと胸を撫で下ろして、再び話し出す。
「はい、それでは、まずは自己紹介から致しましょう」
「私の名前はパンナ、白魔法が得意の魔道士です」
「そしてこちらの大柄の者がアイス、私達のパーティーのメイン盾です」
「そして最後にこのちっちゃいのがザッハ、黒魔術を得意とする魔道士です」
「私達のことは、パンナ、アイス、ザッハとお呼び下さいませ。それで勇者様のお名前はなんというのでしょうか?」
定型文を淡々と私は話し続ける。
「やっぱり、メイン盾なのか……」
「ちっちゃい……けど……」
この定型文の一部が気に入らないのか、アイスとザッハに毎回に睨まれているが、以前召喚した勇者様が分かりやすいと解説だったと好評だったので、そのまま利用し続けている。
名前を聞かれた勇者様は、緊張した声で、話しかけてきた。
「僕は……山田……圭佑、だけど……」
「ケイスケ様ですね。それでは、今日一日宜しくお願い致します!」
私は、ケイスケ様に満面の笑みを向ける。すると、緊張が少し和らいだのか、ぎこちなくもケイスケ様は微笑み返してくれた。
こうしてケイスケ勇者様との、今日一日だけの冒険が始まるのだった。