第十七話 姫の決意!
空を見上げると、そこには永遠とも想える透きとおった青一色の世界が広がっていた。雲は、その世界に穏やかさを添えるようにゆっくりと流れていた。
そして、辺り一面を草花が埋め尽くす草原には、少し温かく優しい風が吹き流れている。
草原の中に、二人の影が見える。
「ねぇ、アイス? どうしたの空を見上げちゃって?」
少女が、空を呆然と見上げていていた少年に声をかける。
「最近はずっと雨だったからね、この青い空に少し感動していたんだよ、チョコ」
少年は、目の前の少女に、優しく微笑みかけ応える。
「おーい、二人共!やっぱりここにいたんだ。」
草原の入り口に立ち二人を呼ぶのは、二人よりも少しだけ大人を感じさせる少年だった。
「ブリットル、あなたもこちらにおいでなさいよ。とても気持ちが良いわよ。」
「そうしたいのは山々だけど、そろそろ食事の時間だからね!」
そういわれると、少女の顔が真っ赤に染まる。
「あら、私ったら花の王冠を作るのに夢中で……アイス行きましょう。」
少女は立ち上がり、少年の手を握ると、草原を駆け出した。
「アイスは、私と一緒で退屈じゃなかった?」
少し前に駆け出した少女は、後ろの少年に振り向く。
「そうだな、退屈だったかもな。 ただ僕はチョコといる、そんな退屈な時間が一番好きだ――」
そういわれた少女は、また顔を赤く染めるのだった。
*****
――ブリットルの死。
それがアイスに、少しばかり昔の良き思い出を残酷にも思い出させていた。
「ブリットルが……死んだ……そんな……」
アイスは下を向き、そのまま黙ってしまう。彼にとって、親友の死という事実はあまりにも重く、受け入れることがすぐにはできなかったのだ。
チョコレイト姫は、悲しい表情をしたまま、黙って待っていた。謁見の間に、少しばかりの沈黙が訪れる。
しばらくすると、アイスは再び顔を上げチョコレイト姫に問いかける。
「本当に……病死なのでしょうか?」
「……はい、二年前にこの王都に流行り病が発生いたしました。通常はすぐ回復するものがほとんどだったのですが、何人かに重い症状が発症し、死に至ってしまいました。手厚い看護をしたのですが、残念ながらブリットル王子も、その亡くなった一人になってしまったのです……」
チョコレイト姫は、アイスに淡々と応える。
「それでは、今の王子は……?」
本来、王都では、世界三大国「マカロン」、「シフォン」、「プティング」から、それぞれの代表がここ王都を治めていることになっている。
チョコレイト姫の祖国、「プティング」では、王の世代交代の時期までは、王子と姫がそれぞれ代表として、王都を治めることになっていた。
つまり、今は、ブリットルの他の王子がいるということだ。
しかし、チョコレイト姫は、首を弱々しく振った。
「
……いえ、王子はいません。特例として、現在は私一人が代表として治めています」
「ブリットルの死後、他の国の代表には、二年の猶予を頂くことになりました。ブリットルに代わる王の選別を……」
「……しかし、その二年が経った今も、私はまだ、夫を選択することができていません……」
「……なるほど、そういうことでしたか」
アイスは、やっと現在の状況を把握することが出来た。親友の死は悲しい出来事であったが、代表者の一人が欠けている現状は、王都にとってあまり良くない状況の筈だ。
「分かりました。チョコレイト姫。このアイスに出来ることがあれば、お力をお貸し致します」
アイスは顔を上げ、チョコレイト姫に騎士としての忠義を見せる。
チョコレイト姫は何かを考えていたが、覚悟を決めたかのような表情でアイスに話しかける。
「アイス、あなたにお願いがあります。私とともに、この王都を治めて欲しいのです――」
*****
身体調査が終わり、私はやっと服を着させてもらえた。しかし、まだ窮地に立たされている状況は変わらなかった。
「ねぇねぇ、その古代魔法っての見せて貰える? 念のため確認しておきたいの? みせてみせてみせて!」
アンゼリカは好奇心一杯の眼差しで私を見つめる。
……お願いだから、そんな純粋な目で私を見ないで欲しい。
勇者様を召喚してしまったら、何かと面倒なことになる確率が高い。
例えば、彼女が私の魔法を何かの人体錬成と思ってしまったりする可能性。
少なくとも、この世界で人間の創造や触媒とした魔法は道徳的に禁じ手とされているので、勘違いされると色々厄介になる。
また、勇者様がちょっと融通の聞かない方だったりすると、アンゼリカと衝突しかねない可能性もある。
「パンナちゃんどうしたの? ここなら多少派手な魔法でも、魔法壁で守られているから平気だよ?」
私の後ろで私の胸を揉みくだしながら、アンゼリカは私の耳元で優しく囁いてくる。……この前のにくだんごといい、なぜ私の胸を私の了解もなく揉んでくるのだろう。
「……分かりました……。じゃあ、今からお見せします」(ピキピキ)
もう、私は考えることを止め、面倒なので流れに任せることにした。
アイスの知り合いなら、最悪アイスに説得してもらおう。私は一緒に持ってきた魔道士用の杖を手に持ち、準備を開始する。
「それでは、本日の私たちの勇者様をお呼び下さい――!」
杖の先端が七色の光を発しながら、魔法陣を描き展開する。
「おお!パンナちゃん、勇者様召喚ってなになに!?」
見たこともない魔法陣と勇者という言葉に反応して、アンゼリカは興奮しているようだった。そんな彼女を無視し、私は準備を進める。
魔法陣が地面に定着し、青白い光を発し続けている。
私は、触媒となる銅貨三枚を出そうとする。
「……あああ!」
しまった、お金は今は、アイスが全て管理しているのだった。まさか、こんな状況になるとは思っていなかったので、お金を持っていない。今の私は一文無しだった。
「……アンゼリカさん、お金!」
「え!?」
「お金が必要なんです!!」
私はキレ気味で、アンゼリカにお金を要求する。
アンゼリカは驚きつつも
「パンナちゃんって、結構そういうところがめつい性格だったのね……」
少し残念そうな顔をしつつ、懐から袋を出した。
「いえ、私にじゃなくて、魔法陣に銅貨三枚を投げ入れて下さい!」
「……え!?」
アンゼリカは更に驚きつつも頷いて、袋から硬貨を三枚魔法陣に向かって投げ入れた。
「ちょ!? それ銀貨じゃないですか!?」
「え!? ああ、せっかくなので奮発してみたよ!」
……余計なお世話である。
銀貨三枚は、そのまま魔法陣に溶けるように消えてしまった。……もう後戻りは出来ない。銀貨なんて、使ったことがないので、どんな勇者が出てくるのかもう予測不可能だ。
「ええい! ままよ!」
私は、浮かび上がった【TOUCH】の文字を押して、そのまま魔法を続ける。眩い光が魔法陣から溢れ出る。私たちがいつも見ている演出と変わらなかった。
……ということは、どうやらSSRやSRというようなレアでは無いようだ。
「うわ、これすごいね。ヤバイね? これから何が起こるの? ねぇねぇ?」
アンゼリカは、私の肩を掴んで激しく揺さぶってくる。当然無視して、私は魔法陣に集中する。
演出が終わると、魔法陣の上に扉が現れる。鈍い音とともに、扉が開かれていく。
目を輝かせ、開く扉に見とれているアンゼリカ。
私は、ただただまともな勇者様が召喚される事を祈り手を合わせる。
「……」
「…………」
「………………」
「………………にゃーん」
「にゃー!?!?!?!?」
私たちが、扉からでてきたそのものを凝視する。両手で持てる位の大きさだろうか?
柔らかい毛で全身を覆われていて、長い尾を持ち、尖った耳と凛とした目、口元の髭が愛らしいく感じる。
「にゃー」と鳴く、そんな生き物が現れたのだ――!
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