第十六話 とっても恥ずかしい!
「うわぁ……すごい!」
初めて王都に入った私は、驚きの声を上げた!
王都の入り口には、小さな村がまるごと入ってしまうような大きな広場があった。広場の通路、ベンチや噴水の設備、緑溢れる木々や草花の花壇など、綺麗かつしっかりと整備されていた。見回すと、ベンチに座っておしゃべりを楽しむ者、公園の周りを散歩しているもの、噴水で遊んでいる子供など、多くの人々で賑わっていた。
広場の奥には、四角く大きな建物がいくつも並んでおり、それらが巨大な街を形成していた。
建物一つとっても、他ではほとんど見られない10階以上ある大きなものだった。また建物と建物の間の大きな通路では、いくつもの露店が並んでおり、商売人とお客で大変賑わっていた。
そして何より目立つのが、中央にそびえ立つ王城だった。三本の巨大の塔で形成されている王城は、通常の城とは違い、突き匙のような独特な形をしていた。もともと、この王都は三つの国の王が代表を出し合い誕生した国なので、王城もそれを表した形になっているのだろう。塔の最上部には、それぞれの国のシンボルである絵柄の旗が、風を受け優雅に靡いていた。
私たちは広場を抜け、冒険者のための宿泊施設が集う地域につくと、お手頃価格で少しばかり豪華な宿屋を見つける。全会一致で、当面この宿屋にお世話になることにした。しかし、節約の為、三人一緒の少し広い相部屋にして、少しばかり費用は節約している。
「ふぅ……やっと落ち着いたわね」
私はベッドに腰掛けると、一息つく。
「……このベッド……ふかふか……!」
ザッハは相変わらず、ベッドのふかふか感を確認するためかベッドの上で寝転がって遊んでいる。アイスは、部屋に備えられていた椅子に座って、荷物の整理をし始めた。
「しかし、パッと見た限り、魔王復活とかそんな噂は微塵も感じなかったわよね」
街の中も特に警備が厳しいというほどでもなく、平和な日常という感じだった。少なくとも、街人は魔王が復活したなどとは、これっぽっちも思っていないだろう。
「そうだな……。まぁ折を見て情報収集するか」
そう、呟くアイス。なんとなく、アイスは王都に来てから落ち着きがない様子だった。久しぶりに、旧友にあった為だろうか。私は、アイスが以前王都の騎士だったということ以外、何も知らない。別に過去を詮索するつもりはないのだが、過去の何かがまだ心残りかもしれない。
……すると、入り口から扉を叩く音が聞こえた。誰かがこの部屋に訪ねてきたようだ。荷物の整理を止め対応しようとしたアイスを私は手で静止すると、私は扉を開け訪問者を確認した。
「あ……」
そこには、先程門のところで出会った、アンゼリカが経っていた。アンゼリカは先程の鎧姿と違い、街人と同じような衣装を身にまとっていた。
「はぁい、こんにちは!」
「よく、私たちがこの宿に宿泊しているって、分かりましたね?」
「まぁね。王都騎士の情報収集能力を甘く見てはいけないわよ!」
ウインクしながら、私に話しかける。
「……おう」
ぶっきらぼうな挨拶をするアイス。
アンゼリカは苦笑している。
「ほんと、相変わらずねアイスは」
「えっと、それで、なんの御用でしょうか?」
流石に王都騎士様が、わざわざ私たちを訪ねてきたのだ。特別な用事があるのだろう。
「あら? 貴方は、先程の身体調査の続きよ。私と一緒に王城まで来てもらうわよ!」
「……あ……!」
しまった! つい先程のことなのに、王都の情景に見入っていたため、すっかり忘れてしまっていた。どうやって勇者様ガチャの魔法のことを誤魔化そう……。
私が悩んでいるとアンゼリカは少し口調を変え、真剣な表情でアイスの方を向き話しかける。
「アイス、貴方、今の王城のこと知っている?」
「……ん?私がここを出てから随分立っているからな……二人は元気か?」
アイスがそう話すと、アンゼリカは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「……アイス、貴方には姫様から任意だけど招集がかけられてるの。詳細は姫様から聞くといいわ」
「招集か……。分かった」
「じゃあ、二人共、私が案内しますので、一緒に来てください。宿屋の入り口で待っています」
そういうと、アンゼリカは部屋から退出した。私とアイスは、取り急ぎ失礼にならない衣装を身にまとい、王城に向かうことにする。
「ザッハ、お留守番宜しくね」
ベッドの上で枕を抱いたまま、ゴロゴロしているザッハに声をかける。
「……大丈夫……お土産……よろしく……ね」
私たちは、宿の前で待っていたアンゼリカと合流すると、目の前にそびえたつ王城へ向かうのだった。
*****
「じゃあ、まずは服を脱いでください」
「……はい?」
本来なら王城内をじっくりと見学したかったのだが、魔法をどうやって誤魔化すか考えていたため、そんな余裕はまったくなかったのだ。途中でアイスと別れ、私は少し大きな部屋に通された。
部屋の中は、戸棚が幾つかある以外何もない、密閉された部屋だった。扉も私たちが入ってきた箇所以外はなく、窓なども存在しない。……これは、おそらく対象者が逃げられないようにするための部屋なのだろう。
私は喉を鳴らし、冷や汗をかく。
「……服を脱ぐんですか……?」
「ええ、別に女同士だし、恥ずかしくないでしょ? まぁ悪意のある魔法陣とか、そういうのが刻まれて無いかの確認を含めての身体調査だから」
結局、名案が浮かばなかった私は、もう流れに身を任せることにした。私は、勢い良く自分の服を脱いでいく。恥ずかしさよりも、早く終わってほしいという気持ちのほうが強かったからだ。
こうして、私は生まれたままの姿を、アンゼリカの前にさらけ出すことになった。
「ふんふん……、うわぁ、お肌綺麗ね」
「……あ、あの……あんまり……」
「ちょっと動かないで、ちゃんとに調査できないでしょ?」
アンゼリカは、私の羞恥心などお構いなく、私の体の上から順に至るところを触りながら調査していく。流石に女同士とはいえ、かなり恥ずかしい。この年にもなって、これほどの辱めを受けるとは思っても見なかった。
「ねぇ、ちょっと股開いて貰える?」
「ひ!?」
私は、ビクっと体を震わせる。勇者様ガチャを会得したとき、あまり目立たないが、太ももの内側に謎の魔法陣が刻まれていたのを知っていたからだ。魔法の契約の証なのだとは思う。
しかし、もうどうすることもできない。私はもうやけになり、股を広げる。アンゼリカは私が足を閉じないように、足首を手で抑え私の股に頭を近づけて確認していく。
「ふーん……うん? ねぇ……この魔法陣……?これって何かな?」
私は観念して、ある程度詳細を濁して、当たり障りのない説明をする。
「え……と、古代の遺跡を調査していたときに、偶然、古代魔法の契約ができてしまい、その時についたものです……たぶん」
「ふーん、なるほど、それが身体調査で引っかかってしまった訳ね。うーん、見たこともない模様だわ……。私が知らない魔法陣があるのは驚きね。まぁ、でも魔の気配というか、そういうのは感じない。むしろ神聖なものの類のような気配を感じるわ……」
ぺたぺたぺた。
ちょ! 私の太もも触りすぎ!アンゼリカは興味津々で、太ももの魔法陣を両手で弄ってくる。私はもう諦め彼女が飽きるまで、この羞恥に耐えるのだった。
*****
王城の三つの謁見の間の一つに通されたアイスは、そこで一人の姫と謁見していた。
「アイス、私の招集に応えて下さり、ありがとうございます」
「チョコレイト姫様も、ご機嫌うるわしゅうございます」
ひざまずいていたアイスは、顔を上げ姫に挨拶をする。
チョコレイト姫――。この王都を守護する三王の一人の姫君。アイスが王都から旅たった後、当時許嫁だったブリットル王子と結婚し、現在も王都の君主位に就いている。
「相変わらずアイスは真面目ですね……。昔のように話して下さってもよいのですよ」
姫は少し寂しげな表情をしつつも、アイスに優しく語りかける。
「いえ、今の私は、ただの冒険者ですので」
しかし、アイスは、そのまま姿勢を崩さなかった。
「……姫様……失礼ですが、ブリットル王子は、何処かに行かれているのでしょうか?」
アイスは辺りの様子を確認し、姫に問いかけた。ブリットル王子とは、アイスとは親友のような存在だった人物だ。……なので、今この場に居ないのは、アイスとしては少し気になっていた。
「やはり、アイスはまだ知らなかったのですね……」
悲しい声で、応えるチョコレイト姫。
「ブリットル王子は、二年前に病気で亡くなりました――」
謁見の間には、しばし沈黙が訪れる――。
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