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第十四話 薄い本!

 サカイとの戦いが終わった後、私は、にくだんご……、もとい、えろ勇者とザッハがある程度動けるようになるまで治療を行なっていた。アイスは、戦利品となるようなものがないか、辺りの様子を見に行っていた。しばらくするとアイスが、古びた箱を抱えて持ってきた。


 箱の中身は戦利品とのことだったが、見たこともない文字が書かれた魔導書や、用途不明の器具などが多くあった。うん、ギルドへの報告の証拠としては、これで十分だろう。

 本格的な、細かい調査はギルドに任せることにした。


*****

 

「はぁ……。何とか生きて戻ってこれたわね……」


 無事で戻ってきた私たちは、早速街のギルドに報告することにした。

 魔王の四天王のことは、とりあえず凄い狂獣が出たと遠回しに伝えた。四天王に関してはできれば国に任せたかったのだが、余り関わるとこちらの冒険にも支障がでそうだし。ギルドからは、後日調査団を出して確認するとの話だった。

 最後に戦利品をギルドに渡して、報酬を受け取ることになった。

 最終的な依頼達成報酬はギルドの確認が終わってからということで、何とか交渉して、50銀貨を前金と受け取ることができた。これで、一文無し生活ともしばしのお別れとなった。


 ……そういうわけで、本日の夕飯は少し豪華な料理屋で食べることになった。宿屋の店主からお勧めの店を確認した私たちは、さっそくその料理屋向かう。少ししゃれた女性店員に案内され、豪華な席に着く。目の前のテーブルには、次々とこの土地の産地の料理が並べられていった。美味しそな匂いが、私の鼻を擽ってくる。


 今日の戦闘で魔法力がすっからかんになっていた私は、早速料理を頂くことにした。


「なにこれ! 美味しい!」


 丸型の揚げ物は、表面がカリッと仕上がっている、噛むと白身の混じった透明なジューシー汁とコリコリとする肉の食感が気持ちよかった。いままで食べたこの無い味だった!


「あの、これは何ですか!?」


私はあまりの美味しさに、給仕しているお店の人に訪ねてみた。


「アア、コレハココノ特産ノ、イワウナギノキンタ……セイショクキヨ!」


 ……ああ、聞かなければ良かった。

 私は、聞こえなかったことにして、その丸い物体を食べ続ける。原材料を知っても尚、食べたくなる美味しさだった。


 そんな食事をしつつ、えろ勇者の方を見てみる。今日の功労賞のえろ勇者だったが、まだ体に少し痺れが残っているようで、うまく料理を取れない様子だった。


「……食べられないンゴ……」


 悲しそうな顔をしながら料理をフォークで突いているが、なかなか料理が刺さらない。そんなえろ勇者の横に、ザッハが近づくと、自分の持っているフォークに料理を刺し、えろ勇者に前に出す。


「……あーん」


「んご……?」


呆然とする肉団子。


「……あーん」


「!!!!!!!!!!」


 ザッハの意図を理解したのか、えろ勇者は満面の笑みで大口を開ける。


「んアアアアアアーーーーーーーーーーーんっ!」

  

 バリバリバリ。豪快にかみ砕く音が聞こえる。


「ザッハちゃんが取ってくれた料理、とっても美味しいンゴ!」


「……うん……じゃあ、次……何が食べたい? 勇者?」


「えっとどうしようンゴ……」


 ……あんなことをする、ザッハは初めて見た。この戦いで、えろ勇者への警戒心は全くなくなったようだった。確かに、あれだけの活躍をしたのだ。ザッハが慕うのも分からなくもない。私は、いつまた胸を揉まれるかと、今だに警戒はしているけど。

 アイスは、えろ勇者とザッハのやり取りを見ながら、酒を飲んでいた。まるで、恋人を連れてきた自分の娘と彼氏を見ながら、二人ならきっと良い家庭を築くんだろうなとか思いながら、しみじみとお酒を飲んでいる父親のような表情をしていた。


 終始そんな穏やかな感じで、私達の夕食は終わった。久しぶりに、気分の良い時間を過ごすことができた気がした。


 ――そして、夜も深くなり、そろそろ今日が終わる頃になった。

 私たちは、えろ勇者を召喚した、街の外れの林に到着した。


「今日は、ありがとうございました勇者様! すばらしい活躍でした!」(ニコニコ)


 胸やキスのことはおいといても、四天王の一人を倒した成果は素晴らしいものだった。アイスも「本当にすごかったです!」「素晴らしい!」と、えろ勇者をまくし立てる。


 えろ勇者は、満面の笑みを見せて上機嫌だった。

「いやあ! ワイもザッハちゃんと仲良くなれて、こんなにダイエットできて、初めてのキスやおっぱい揉めて楽しかったンゴよ!!」


「そ……そうですか……それは……ヨカッタデスネ……」(ピキピキ)


 ……まさか……えろ勇者の初めてが私になってしまったとは……。本当にお嫁に行けない体になってしまっていそう……。私は、深い、深いため息をつく。

 そんな話をしていると、ザッハが勇者のもとへ、たどたどしく近寄っていく。


「勇者! ……あの……ありがとう……」


「ザッハちゃんと別れるのは辛いンゴね」


周りが少し、しんみりとした雰囲気になる。


「お! そうだ! ザッハちゃん! ワイ、ザッハちゃんを本にしたいんだけど、良いンゴかね?」


「ええ!?」

「お!?」

「……え!?」


 私たち三人は、えろ勇者の言葉に驚いた。


「いや、本って……あなた本なんて創れるの?」


 本を創るというのは、この世界ではなかなかの博識の者しかできないことだったので、えろ勇者が本を創るというのは、私たちにとっては想定していない、意外な事だった。


「これでも、ワイはコミマケでは壁サークルの常連なンゴよ。ポキシブでもワイの絵は、常に上位のその業界では有名人なンゴよ!」

 謎のキーワードが幾つかあったが、どうやら異世界では著名な作家らしい。見た目とは違い、やはり意外だった。


「……いいよ、絵? 私の絵本? かな、本にして……いいよ」


「やったンゴ! 本人から許可もらえたンゴ!」


「これは、戻ったら早速描きまくって、ザッハちゃん本の布教活動を始めるンゴ!」 


 なんか、すごく興奮しているえろ勇者すると、えろ勇者の体が光輝き始めた。勇者様の日帰りの時間だ。


「それじゃあ、勇者様!」

「ありがとう!勇者様!」

「……ありがとう……」


私たちは、消えつつあるえろ勇者に、一声つづ声をかける。

勇者も最後に私たちに声をかけた。 


「ザッハちゃんのエロ同人誌、絶対にコミケで捌きまくって伝説にするンゴよ!」


 ――そして、勇者様は消えた。


「……ねぇ……本って……エロとかいっていたけど……」


「あ、ああ……。まぁいいんじゃないか、もう会うこともないんだし」


 こそこそと話している私とアイスを横に、ザッハは勇者が消えた辺りをまだ見つめていた。


「……勇者の作った本、見たかったな……」 


 ザッハは、名残惜しそうにそう呟いた。

次から新しい章になります!

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