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第十話 強襲!にくだんご!

 アイスとにくだんご、戦いの火蓋は切って落とされた! お互いに長くて太い棍棒を構え、様子を伺っ……、そんな間もなく突進するにくだんご。

 よほど、ザッハに応援されたアイスが気に入らなかったのだろうか。まっすぐアイスに猛突進していった。しかし、ただの力任せでは、アイスには攻撃は当てられない。元王国騎士の肩書は伊達ではないのだ。にくだんごよりも力のありそうな狂獣や、不思議な動きをする狂獣と、多くの戦いを経験しているのだから!


「な……!?」


 アイスが驚きの声を上げる。突然、にくだんごの機動が急激に変化した。急突進してきたところに、右真横にスライド動作してきたのだ。完全に生物の動きを無視していた。流石にこの動きは予想していなかったため、アイスの動きが一瞬鈍る。


「うはうは!! ンゴ!」


 にくだんごから繰り広げられる強烈な突き。しかし、アイスはギリギリでその突きを交わし、前方に走りこみ、振り向いて体制を立て直す。恐らく、その辺の傭兵なら今ので決着がついていただろう。私でも、あの動きについていくことは難しかっただろう。。

 ザッハの様子を確認すると、苦戦するアイスを見て顔面蒼白のまま硬直していた。一瞬、アイスが負けたと思ってしまったのだろう。熟練の冒険者が見間違える。それくらい(あの体型からは想像できない)素晴らしい攻撃だった。

 にくだんごも、アイスの回避能力に少し驚いたようで


「あれを避けるなんでなかなかやるンゴね!」


 余裕ぶったにくだんごは、再びアイスに猛突進する。今度は、左真横にスライドしてアイスに襲いかかる。しかし、今度はアイスも予測できたのか、繰り広げられる突きに合わせアイスも腕を振る。両者の長くて太い棍棒が、激しい音ともに弾けた。


 その場に、鈍く甲高い音が鳴り響く。


「勇者様、攻撃が単調ではこの私は倒せませんよ」


 珍しくアイスが挑発する。


「悔しいンゴ!悔しいンゴ!悔しいンゴ!」


 にくだんごは、子供のように腕と足をバタつかせると顔を真っ赤にして怒っていた。アイスはその様子を見ると、少し低い姿勢で構えた。


「それでは、今度はこちらから行きますよ!」


 今度はアイスが、先に動く! にくだんごほどの猛突進ではないにしろ、かなりの速度でにくだんごとの距離を詰めていく。軽く小刻みに左右に動き、フェイントをかけている。

 

「む……むぅ!」


 流石に初見ではなかなか見切ることはできず、にくだんごはアイスの動きについていけなくなる。


「とおっ!」


 アイスは、間合いに入ると右足から踏み込み、一気に棍棒を振り下ろす。


 にくだんごも流石勇者様だけのことはあった。アイスの攻撃に反応して、なんとか自らの棍棒で防御しようとする。しかし、その動きを察知したアイスは、棍棒の動きを強引に変化させ、にくだんごの横腹を目掛けて打ち放った。

 その瞬間、ザッハは目を輝かせ勝利を確信していた。私もそうだった。あれは絶対交わせない。そう思うほどのアイスの素晴らしい一撃だった。


 ……しかし当たる瞬間、にくだんごの腹の贅肉が別な生き物のように動き出すと全て上半身に移動した。一瞬の出来事だったが、思い返すだけで、とても気持ち悪かった。

 結果、本来棍棒があたる場所の贅肉部分は、その場所には存在しなくなりアイスの攻撃は当たることなく空を切ってしまった。


「なん……だと……!」


 生物とは思えない避け方に、唖然とするアイス。


「隙あり! ここンゴ!」


 そして、にくだんごの棍棒が、呆然としていたアイスの右肩にぶち当たる。


「ぐ! ぐああ!」


 見ているこっちのほうが痛くなりそうなにくだんごの一撃が、綺麗に決まってしまった。その場でアイスは地面に倒れ、右肩を手で抑えて悶えてしまっている。


 私は慌てて、勝負の終了を宣言する。


「そ、そこまで! 勝利者はにくだ……じゃなかった。勇者様です!」


 私はアイスの元にすぐ駆け出して、右肩を確認する。嫉妬心の影響か、結構本気の一撃だったようだ。骨までダメージはいっていないのは、不幸中の幸いだ。


「大丈夫? すぐ治療するね」


「あ……ああ悪い、頼む……」


 かなり痛そうな素振りを見せるアイスだった。こんなアイスを、私は見たことがなかった。恐らく模擬専用の武器でなかったら、アイスは死んでいたかもしれない。


 私は、改めてSRレアの勇者様の力を思い知るのだった。

 とても強い。

 気持ち悪いけど、とても強かった。

 

「……うう……、……うっ……うぷ……。」


「ザッハちゃんの手はちっちゃいンゴね……。こうして、横にいるだけでザッハちゃんの女の子の匂いが伝わってくるンゴ」


「……うう……」


「クンカクンカ……、はぁ……勇者様、頑張っちゃうンゴよ!」


 私がアイスの治療を行っている間、にくだんごはザッハの横に座り、手をねっとりとした手つきで握りながら、ザッハの匂いを楽しんでいた。流石にザッハも観念したのか、顔面蒼白のまま我慢している。

 ザッハ、頑張れ!


 ……それからしばらくして、アイスの怪我の治療も終わった。私は改めて、にくだんごに話しかける。


「すばらしい戦いでした!流石勇者様です!」(ニコニコ)


「本当に素晴らしい戦いでした勇者様。このアイスまだまだ未熟だったようです」


 完治をアピールして、腕を振るアイス。


「はははははははははは! はっ!?」


 爽やかな笑いをするアイスを、まるで親の仇をみるような形相でギロリと睨むザッハがいた。


「……すまん、ザッハ……」


 さすがのアイスも、ここは平謝りだった。


「それじゃあ、勇者様の強さも分かったことだし、行きましょうか!」


「そうだな!」


「戦いに行くンゴ!!」


「……シニタイ……」


 一人だけ落ち込んでしまっているが、私たちは廃墟となった城の調査に向かうことにした。


 報酬銀貨300枚のクエスト。果たしてそこには、どんな強敵が待ち受けているのだろうか!


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