第九話 ワイが勇者ンゴ!
ついに私たちは、念願の高位レアな勇者様を引くことができたのだ! ただし、それは私たちが思い描いた勇者様とは、(見た目が)かなりの落差を感じてしまったのだ!
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「ふむふむ……」
私は勇者様に迫られ小動物のように震えるザッハを横目に、魔導書【攻略うぃき】を確認していた。
どうやら召喚時の確定演出の内容を見る限り、この勇者は【SRレア】とのことだった。最上級レアではないにしろ、かなりの強さを持っているらしい。もしかすると、魔王配下の四天王とも互角に戦える力があるのかもしれない。
……と私が様子をみると、まだザッハに詰め寄っていた。 そろそろザッハが限界のようだったので、私は助け舟を出すことにする。
「あの、勇者様よろしいでしょうか?」
私はいつもの営業スマイルで、優しく勇者様に声をかける。
「ちょっと、おばさんは黙っていてくれンゴ」
「……。(ピキピキ)」
ちょっとキレかけた。ほんのちょっとだけ……。
いままで何人もの勇者様をガイドしてきたガイドマスターであるこの私が、たかが……たかが、にくだんごにおばさん呼ばわりされたところで、そこまで激昂する訳がない……わよ……?
「……そんなことおっしゃらないで、私の解説を聞いて頂けないでしょうか?」
「……」
「勇者様?」
「…………」
「…………(聞こえてないのかしら……?)」
「ごめンゴ、ちょっと幻聴が聞こえたんだけど気のせいだったンゴ」
……無視された。そして、私は気がついてしまった。無視が私にとって、一番効くことを……!
(ピキピキ……ビキッ!)
頭の何かがキレた私は、勇者様チェックの為に準備していた模擬戦用の長くて太い棍棒を手に握ると、くだんごめがけて振り下ろす。もちろん手加減はしている。
「ああ、手が滑ってしまいました!」
もちろん嘘だ。
「……なっ!」
消えた! 目の前にいたにくだんごが消えた!
これには、にくだんごの目の前にいたザッハも、何が起きたのか把握できず目を瞬きしながら呆然としている。
「……好みじゃないけど、おっぱいは、やわらかいンゴねぇ……」
後ろから聞こえる勇者様の声。そして、胸に感じる、とてつもなく気持ち悪い違和感。不覚にも、にくだんごに後ろをとられつつ、更に抱きつかれながら胸を揉まれてしまっていた。
「きゃああああああああぁぁぁぁ!! こっ……! この!?」
悲鳴を上げつつも、後ろに回し蹴りを放つ。しかし、にくだんごに軽やかにかわされてしまう。
「ほぉ! すばらしい俊敏さだ! 流石は勇者様だ!」
少し遠くで見ていたアイスは、にくだんごの素早さに絶賛していた。
私がギロリと睨むと、アイスは渋々勇者様に声をかける。
「ごほん……。おお勇者様! 素敵な女性を愛でるのも結構ではありますが、あまりしつこいと嫌われてしまいますよ」
アイスは、まるで国王陛下に話すような丁重なしゃべりで勇者様をなだめる。流石にこれは、にくだんごは悪い気がしなかったようで
「そ……そうンゴね、あまりにも可愛くてちょっと紳士としてあるまじき態度をとってしまったンゴ、許してほしいンゴ」
ザッハに頭を下げる。……当然だが、私の方は見向きもせず、謝罪もない。
……この差は何なのか。
*****
しばらくすると、流石に私の怒りも収まり、ザッハも多少離れていれば大丈夫なくらいにはにくだんごに慣れることができていた。
私の代わりにアイスから状況を聞いたにくだんご。
「ワイが勇者ンゴ! かっこいいンゴ!」
……とてもご機嫌だった。
「コホン……」
私は、気持ちを切り替えることにした。
「それでは勇者様、私たちの為にその力を見せて頂けませんでしょうか」(ニコニコ)
「見せてもいいけど、条件があるンゴ!」
荒い鼻息で、勇者様は私に尋ねる。私は少し顔を引きつるも、笑顔を絶やさすにくだんごに確認する。
「……条件ですか? どんな条件でしょうか?」
にくだんごは、世にも邪悪な笑みを浮かべて答えた。
「ザッハちゃんと二人のパーティーを組みたいンゴ!」
「……! ……!?」
その返答を聞いたザッハは硬直する。そしてみるみる泣きそうな顔に……というか泣いていた。
ふるふると顔を振るザッハだったが、にくだんごはしつこかった。
「大丈夫ンゴ! ワイは勇者だからザッハちゃんをバッチリ守るンゴ!」
「……(ふるふる)!」
「ザッハちゃん震えてるの? 大丈夫ンゴよ!」
「……(ふるふる)!」
お前が震わせてるんだよ! ……と心の声で突っ込む。顔をふるザッハに合わせて、にくだんごが左右に動く様はかなり珍妙な光景だった。
しかし、しつこいにくだんごに、ザッハが何やら考えがあるのか指を突きつけた。
「……わかった……! アイスと勝負して勝ったら……パーティーを組む……!」
「おおっ!?」
突然名指しされて困惑するアイス。
「わかったンゴ! では、早速勝負するンゴ!」
にくだんごは荒い鼻息を立てて、模擬戦用の棒を掴むと、その場で素振りを何回もやりだした。
「……アイス……。手加減したら呪い……殺す……!」
「お……おう……」
アイスの側に寄り、釘を刺すザッハ。アイスは頭を抱えて私をみる。
「まぁ……いいんじゃないの?実力も見れるし、にくだ……勇者様もそれなら諦めてくれるんじゃない?」
「しょうがないな……。」
諦めたようで、ため息を突きながらアイスも模擬戦用の棒を取る。アイスはこれでも、元王国騎士だった人間だ。勇者様の力とまともに戦えば厳しいだろうが、単純な模擬戦であれば技量の差は明確で、アイスが負けることはない……と思う。
ザッハにしては、なかなかの名案だと思った。
「アイス……頑張れ……!」
勇者様チェックは、いつもはただ見ているだけのザッハだったが、流石に今はアイスの応援を一生懸命してる。
「ザッハちゃんの声援を受けれるなんて、羨ましいンゴ!絶対勝つンゴ!」
声援によほど嫉妬したのか、今すぐにでもアイスに飛びかかりそうな勢いだ。
「じゃあ、模擬戦を始めるわね。……そうね、とりあえず最初に致命的となるような一撃を与えた方の勝ちでいいかしら? 頭を狙うのは反則ね」
私は、無難なルールを説明する。
「わかったンゴ!」
「了解だ!」
頷く二人。その様子を、泣きそうな顔で見守るザッハ。
ザッハの運命をかけた、二人の男の模擬戦が今始まろうとしている――!
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