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魔術師探偵の助手(編集中)  作者: イトー
喰らう者 鬼一口
8/18

一歳千歳の素性

「ええ!? 魔術師!?」

 俺はバネ仕掛けみたいに椅子から飛び跳ね、一歳を見た。

 探偵が座り給えと手で制する。


「慣れていると言われたにしても、怪現象に遭ってから半月も普通に生活していたお嬢さんの名前が一歳なら、かの一歳家との関係を推測できるはずだ。君も違和感くらいはあったのではないかね?」


 先生は俺の報告から彼女の素性を見抜き、説明を省いていたというのか。


「俺も変わってるなとは思ってたんですけど。ああ、なるほど」


 魔術師はどこにでも、ごく身近にだって存在する。

 うちの客の9割は怪現象に悩む者で、残りは同業者の魔術師からの協力要請などだが、前者もどこかしらの魔術師からうちを勧められて来る場合がほとんどだ。


 魔術師は占い師、拝み屋、オカルト研究家、心霊系ライターなど、様々な(てい)で活動し、ネットに宣伝を打っているものもいる。


 この事務所はそんな魔術師同士を繋ぐネットワークに入っていて、多くの魔術師たちと情報共有をしているのだ。


 ──文字に起こしたらゲシュタルト崩壊しそうなほど魔術師と並べたが、つまり彼等と関わることは珍しいことではなく、むしろ日常茶飯事だ。

 しかし、まさか、こんな偶然があるなんて。


 俺はちらりと一歳を見た。

 偶発的な事故から見つけた、怪現象に晒されていたクラスメートが有名な魔術師の家系だとは。


 しかもその宗家の直系、つまり権力ある本家の血筋と来たもんだ。


 さすがにそこまで考えが至らなかった。

 だが、そう考えれば色々と腑に落ちる。


 怪現象を体験して今まで平静を保っていられたのも、俺が持ち出してきた探偵事務所の話にすぐ納得したのも、受け入れる基盤を持っていたからだ。


 普通じゃないことには慣れっこ、とは額面通りの意味だったのか。


 等身大の少女、という評価は1度保留しないといけないかもしれないな。


 あれ、だが待てよ。一旦腑には落ちたが、かえって大きな矛盾が出てくるぞ。


「たしか一歳の家筋って、オールジャンル対応ってくらい色んな魔術師がいるはず。一歳さん、どうして今までそっちに頼まなかったの? 宗家の直系なら、誰でも力を貸してくれるんじゃ」


 言わば親戚一同があらゆる術の専門家(スペシャリスト)なのだ。

 化け物退治や怪異への対処などお手の物だろうに。


「無理」

「無理?」

「だってうち、宗家から縁切られてんだもん」

 軽い食感のクッキーをかじりながら、一歳は重めなことを言った。


「え? 縁を?」

「彼女、一歳千歳さんの家は親族の方々と、少し複雑な事情を抱えておられるんだ」


「探偵さん、そんなオブラートは結構ですよ。そちらの界隈でうちが悪い意味で有名なのは散々()()()()()いますので」


「そうですか。失礼ながら、あなたのお父様が若い頃に宗家の当主と大きなトラブルを起こし、今も追放扱いであることは周知の事実と言えるでしょう」


 一歳は目を伏せて、1つため息を吐いてから、

「そう、うちはその件で本家、親戚すじと全て縁を切られています。関わると面倒だからと無関係の魔術師からも(ことごと)()けられていて」


 彼女はさらにため息を重ね、

「今まで障りとやらに悩まされて、解決できる魔術師を探してもインチキ霊能力者ばっかり。そのなかで、やっと本物を見つけて連絡をとっても、素性を知られた途端に断られて。なんでも一部では顔写真まで出回ってるとかで、変装や偽名でも駄目でした」


「今頃うちに来たということは、今回もそうなのでしょう?」


「ええ、すぐに何人かとコンタクトを試みましたがすべて門前払い。諦めかけていたところに偶然、御社のアシスタントさんから声をかけられまして」

 彼女はこちらを見る。


「ごめんなさいね。初めから全部喋ってややこしくするより、必要な情報以外は伏せて、ここで明かしたほうが良いかと思って」

「うん、いやまあ、俺もいきなり全部話されてたら戸惑っただろうし」


 とぼけられていたわけだが、事情が事情なだけによしとする。

 血筋だの縁切りだの、(いわ)くありのバックグラウンドまで語られていたら、正直絶対、対応に困っていた。


「それにこの世界はペテン師みたいな輩も多いから、正体を隠して様子を見るのは賢明だよ。魔術師の名家のお嬢様なら、なおさら」


「そんなふうに持ち上げないで。私自身は魔法なんて覚えていない、それこそ一般人も同然なんだから」

「魔法を覚えていない? 名家の出なのに?」


「さっきも言ったでしょ、縁を切られてて……魔法を教えてくれる人がいなかったの」

「え、でも、お父さんは」


「……うちは、色々と事情があるの」

 聞くんじゃねえ、って目で彼女は言った。


 事情とはなんだ?

 普通、宗家の直系なら相応の使い手のはずだし、娘に術の手解きくらいして(しか)るべきだろう。


 なにより彼女がずっと悩んでいた障りだって、(はら)えるはずだ。

 今回の件だって。


 それとも、できない理由でもあるのか?



「こんなワケありと承知で私を招いていただき、ありがとうございます」


「先ほどお伝えした通り、うちはどなたでも分け隔てなくお請けします。今回は脚に受けた呪詛とその原因を取り除く、という名目でこの件を引き受けましょう。いかがですか?」

「それで、よろしくお願いします」


「ではまず、状態を確認させて下さい。症状によって対処も変わりますので」


 納得した彼女は、分かりました、と素直に立ち上がり、問題の部位までスカートを捲り上げた。

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