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魔術師探偵の助手(編集中)  作者: イトー
喰らう者 鬼一口
3/18

一歳千歳

 (くだん)の、一歳千歳(いちとせちとせ)の周囲からの評価は、才色兼備な優等生という見解で概ね統一されている。


 まず目を引いて止まないのがその美貌。

 黒い虹彩(こうさい)に囲まれた意思の強そうな大きな瞳、それを縁取ってより際立たせる長い睫毛(まつげ)

 鼻梁(びりょう)は綺麗に通っていて、唇は月並みな表現だが(つぼみ)のように可愛らしい。


 その顔立ちは、神が自ら(のみ)(つち)を振るって完成させた精緻(せいち)な彫刻のよう。


 腰まである黒髪と整いすぎた白い肌は、染髪や肌を焼く行為が彼女には禁忌(きんき)とさえ思えてくる。

 モデルさながらのすらりとした手足、伸びやかで繊細な指先──スレンダーかつメリハリのある体躯にはこれから花開くさらなる美の内包を予感させる。


 理想像として記号化された美少女イラストがそのまま現れたかのような、非の打ち所のない外見だ。



 当然の如く男子からの人気は絶大で、彼女は美人かと10人に問えば10人とも異議を唱えないはずだ。

 いや、そんな質問は愚問であり、美醜(びしゅう)を問うこと自体が彼女への侮辱だと糾弾さえされるかもしれない。


 そのように周りが惹き付けられるのは単にルックスの良さだけでなく、立ち振舞いに品が有るからだろう。


 社会的に成功を収めた父と知らぬ者のいない有名女優の母を両親に持つ、正真正銘のお嬢様。

 家柄も良いらしく、そう言われてみれば高貴な者だけに許される雰囲気を持っている気もする。

 その他大勢の中にいても埋没せず、己の輝きをくすませない品格のようなものを。


 優等生と評されるだけあって当然、学力も申し分ない。

 テストの点など言わずもがな。

 ふいに授業中に当てられても、音もなくすっと立ち上がり、教師の望んだ答えを如才(じょさい)なくさらりと返す。


 彼女が正解を答えるのではなく、彼女の口から紡がれた言葉はすべて真実となる。

 そう錯覚するほどに回答は流暢で、答えに詰まるビジョンは想像さえできない。


 一般に、勉強できる=運動音痴というお約束のネガティブイメージがあるが、スポーツも達者で、部活には入っていないが体育で見せる運動能力は運動部のエースにだって見劣りしない。


 ここまで揃うと大抵嫌われそうなものだが、彼女は学年を問わず、多くの生徒から憧憬(どうけい)の念を抱かれていた。

 一歳はすでに、凡人からの嫉妬の対象にさえならない別格のステージに立っている。


 ではそんな彼女の友達は? と考えると、これという者が思い当たらなかった。

 普段はクールで表情の変化に乏しく、誰かと親しげに話したり連れ添っている様子は見られない。


 学校内での女性社会がどういうものか詳細は知らないが、大体皆グループを作っている。

 男にはなかなか理解し難い、トイレに行くにも一緒というあれだ。


 しかし俺が見る限り、彼女はどの集団や派閥にも属していないように見えた。


 恐らく眉をひそめたくなるような理由などはなく、近寄りがたい雰囲気からだろう。

 彼女は(はた)から見ても一種独特の空気、自分だけのテリトリーを形成している。


 その周りと隔たりを作るオーラが彼女の偶像性(ぐうぞうせい)を高めているとも言えた。

 そう、偶像(アイドル)という言葉がマッチする。

 彼女は周りから特別視され、一段高い所に(まつ)られている存在なのだ。


 そんなアイドルのプライベートまでは知りようがないから人付き合いの頻度は何とも言えない。

 だが、人との接し方は上手らしく、相手と無難な距離感を保ちつつ、状況に最適な表情は作れるようだ。


 それらは小学生までやっていたという、子役の経験から得た能力だろうか。


 こんなハイスペックな彼女だから、その気になれば友達などすぐにできるだろう。

 友達どころか、たとえ下僕であったとしたって、彼女が募集をかければこぞって希望者が列を作り、応募が殺到するはずだ。


 1人なのは何か理由でもあるのだろうか?

 世間には、友達を持つべき、という通念めいたものがあるが、選ばれた存在である彼女にとって友人の有無など瑣末事(さまつごと)、なのかもしれない。


 何1つ持てぬ者が大半の中、彼女は天から二物も三物も与えられた者の好例だ。

 俗に言われる、人生イージーモードかつ、強くてニューゲーム。

 誰もが(うらや)む薔薇色の人生。


 1年2年と同じクラスの俺も周りと同じく、彼女を輝かしい優等生として認識している。



「じゃあこの問題は……一歳に答えてもらおうかな」

 黒板の前で数学教師が彼女を指名した。

 現在は4時限目の授業中だ。


 一歳はやはり音も無く立ち上がって答える。

 ──無論、正解だった。


 着席する間際、軽く振り向いた彼女と2つ斜め後ろに座る俺の目が合った。

 向こうはすぐに逸らしたが、そこには隠し切れない警戒の色が見えた。

 間違いない、どうやら俺は優等生の秘密を知ってしまったらしい。


 あのスカートの中の異様を自分で認識した上で隠そうとしているのなら、俺は彼女から真相を聞き出さなければならない。


 それは好奇心からなどではなく、俺が担っている役目であり、何より、彼女自身を救う為にだ。

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