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第一話「飛来」

その日は何か眠れなかったんだ。幾度となく起臥を繰り返して夢と現の狭間を去来した。

もういっそ夜空を堪能しようと思い立ち自室の窓から少し身を乗り出し星を通観するに至った。

流星でも見えないかなと思ったんだ。

夜空は真っ黒のキャンバスの中に少々青さが彩色され紺碧に近い。

夜の海には炯々と煌めき自分の存在を主張するかの様に星が点在していた。

一つ一つは微小だが、自己主張の強い発光体の存在はいつにも増し際立っていた。部屋を消灯しているので光量の増長に一役買っているのかもしれない。

バックグラウンドミュージックには鈴虫の喚声。丁度良い声量の合唱は鼓膜を小さく刺激する。

10月に入り夏の暑気は終焉の一途を見せる様に蝉の声は消え秋の訪れとして随伴するのは憂いと儚さだった。

夏と冬の間に位置する秋の定義は曖昧模糊だ。春との差異は大きく虫の息吹は衰微していき別れの季節と揶揄される事もない。だから一番好きな季節である。

「あっ?」

間抜けな声が自然と漏れた。理由は夜空に違和感が見受けられたからだ。

無数に点在する星の中に一際目立ち揺らめいているモノが視界に映った。さらに身を乗り出し一つの星を目を細めながら注視する。

無軌道でゆらゆらと焦点の定まりが無くそれは目が回った後の酔眼を彷彿とさせた。しかもこちらに向かい接近しているように見える。もしかして近くに落下するんじゃないかと期待が膨らんだ。その奇観に目を奪われただ傍観。

光の物体との距離はだんだんと縮まるにつれ不安めいたものも募り始める。神々しく周囲を照らすその物体は近くで見ると綺麗な球体だった。距離にして100Mぐらいだろうか。

そしてある疑点に辿り着く。もしかしてこの部屋に衝突するかもと。

いやいや有り得ない。

すぐさまかぶりを振りその疑点を放棄する。星が家に衝突する確率など限りなく絶無に近いだろう。

しかし俺の剣呑とは裏腹に光輝く球体は部屋を目指し突進しているように見える。いや突進ではなく猛進に近いかもしれない。

50M

30M

10M

と確実に距離を縮め部屋目掛け襲来しようとしている。それに追随して焦燥感に侵され始め心臓は警鐘を鳴らすかの如く早さが増し寿命を削いでいく。

しかも足が溶解し床に張り付いて剥がれない様な錯覚に苛まれる。


そして眼前まで接近した時――


瞬発的に防衛本能が働き無駄だと分かっているのに窓を閉め施錠。その場にしゃがみ壁に背を預け頭を抱えて聴覚を遮断する。


刹那、バリンッ!という硝子が破裂音の悲鳴を上げた。反射的に開眼したのと同時、硝子片は飛散し一瞬の俄雨が部屋に降り注ぐ。

光の球体は何度か前転して停止。気息する様に明滅して部屋の中は暗黒と光明を繰り返した。

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