ラジオネーム ラブハンター
僕は、真里菜ちゃんの手にそっと触れた。
すると、真里菜ちゃんは、僕の手を握り返してきた。
おお、いい感じ!
真里菜ちゃんとの3回目のデート。
僕と真里菜ちゃんは、インターネットのSNSで知り合い、
音楽の趣味や、好きなタレントが同じで意気投合、
真里菜ちゃんのほうから、会いたいと言って来たので、僕は喜んで会いに行ったんです。
真里菜ちゃんは、16歳。女子高生。
僕は県内の大学2年生、19歳。彼女とは3つ違い。
年も程よく離れているし、僕らどこから見ても、きっとお似合いのカップルだと思う。
その日はお互いが前々から興味のあった映画を観に行きました。
映画が終わり、ファミレスで食事をして、彼女を僕の車で送って、
彼女の家の前で、僕は思い切って、彼女にキスを迫ってみました。
彼女は目を閉じた。やった!デート3回目にしてキス!
「真里菜ちゃん、今日は楽しかったよ。」
「うん、真里菜も。また、どこか遊びに行こうね!」
「うん。真里菜ちゃん、僕と付き合ってくれる?」
「え?それは、ヤダ。」
僕はそれまで順調にいっていたことを全てひっくり返されたようでびっくりしたんです。
「え?なんで?今、キスしたじゃん。なんで、目を閉じたの?」
「んー、何となく。」
彼女はしれっとそんなことを言う。
「僕のこと、嫌い?」
「ううん、嫌いじゃないよ?」
「じゃあ、どうして?」
「そういう対象じゃないから。遊びに行くのは、すごく楽しい。」
僕はわけがわからなかった。キスをする=好きだから、じゃないのかよ。
「じゃあね、また連絡するー。バイバーイ。」
彼女は車のドアをあけ、一方的に行ってしまった。
これってフラれた?
僕が傷心して家に帰ると同時に携帯が鳴った。
真里菜ちゃんからメールだ。
「今日はめっちゃ楽しかったよ!今度は、遊園地に行こうね!
じゃあ、おやすみなさーい。チュ♪」
これは、どう捉えたらいいのだろう。付き合わないけど、遊びに行こうって・・・。
僕も、彼女とこれっきりになるのはイヤだったので、何度か僕の車で
遊びに行きました。でも、キス以上のことは絶対にさせてくれなかった。
「ごめん、そういうのされると、もう遊びに行けない。」
そうやって拒否されるのです。僕も彼女と会えないのはイヤだから、我慢しています。
僕ら、付き合えるようになるんでしょうか?
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「はーい、ラジオネーム、ラブハンターさんからのお便りです。
うーん、たぶん、この子はこういう子なんじゃないかな、と思います。
キスしたから、付き合う、とかそういう概念の無い子?
もしかしたら、友達感覚なんじゃないかな。
ちょっと残酷なようだけど、進展があまり望めないかも。
まあ、まずは友達からって言うので、焦らずに行きましょう。
そんなラブハンターさんからの、リクエスト、私、SAKUのナンバー
「いつか願いが叶うなら」
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何が、「いつか願いが叶うなら」だよ。
友達感覚?進展があまり望めない?
ふざけるな。
歌では、願いはきっと叶うよって、歌ってるじゃねえか。
お前の放送は、毎回毎回聞いて、やっとリクエストのはがきが
読み上げられた。
裏切り者。
僕はそんな答えは望んでいないんだ。
僕は真里菜ちゃんと付き合いたいんだよ。
僕が真里菜ちゃんを好きになったのだって、お前に似てたからだよSAKU。
SAKUなら僕の気持ちをわかってくれると思ったんだ。
僕はSAKUの歌に自分の気持ちを重ねてたんだ。
綺麗ごとばっか、並べやがって。
裏切り者。裏切り者。
僕は、はさみで、SAKUのCDと美しく撮られたSAKUのCDジャケットを
滅多切りにしたのだ。
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「お疲れ様でしたー。」
私は、スタジオを後にし、タクシーに乗り込んだ。
どんなに辛いことがあっても、ラジオでは明るく振舞わなければ。
昨日、付き合っていた音楽プロデューサーと別れた。
まあ、彼らにとって私達アーティストは使い捨て。
きっとすぐに新しい子が出てきて、その子を食っちゃうのだ。
私は、今日読んだハガキを思い出して、思い出し笑いをした。
ラジオネーム、ラブハンター。ちっともハントしてないよね。
ぶっちゃけ、はっきり言わせてもらうと、ラブハンター君は
女子高生にいいように弄ばれている、アッシー兼お財布というところだろう。
まだ、キスさせてもらえるだけ、ありがたいと思わなきゃ。
女子高生にとっては、遊びにつれていってもらって、デートもたぶん
費用はハンター君持ちだろうから、そのお礼くらいにしか思ってないんじゃないの?
私だって、昔からこんなすれっからしのようなことは思わなかった。
女も26にもなれば、いろんな男と付き合って、いろんなことがわかってくるわ。
悪いけど、綺麗ごとは、あなたたちのような純粋な人からのメッセージや、
人の恋愛話から考えているの。
いつまでも、夢ばかり見てられないもの。
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僕は車の中で「SAKUのオールナイトリクエスト」を聞いている。
どうやら、放送は終わったようだ。エンディングテーマが流れる。
僕は放送局の前で粘り強く待った。
すると、放送局の玄関から、大きめのサングラス、ハーフコートの下には
皮のミニスカート、スラっとした細い足の華奢な女性が出てきて、タクシーに乗り込んだ。
見間違うはずがない。
この間まで僕の恋愛バイブルだった、SAKUの姿だ。
僕はタクシーのあとをつけた。
そして、SAKUのマンションをかぎつけた。SAKUがタクシーから降りる。
そして、マンションのエントランスはガラス張りで表から丸見えだ。
SAKUが、郵便物を確認するため、ポストを開けた。
あそこが、SAKUの。
僕はしっかりと、ポストの位置を目に焼き付けた。
あくる日、僕は宅配業者を装って、適当な部屋番号を言って、マンションの
エントランスに入った。
そして、SAKUが昨日開いていたポストに、メール便を投入したのだ。
差出人は、SAKUの所属事務所を偽っておいた。
開けて恐怖しろ。
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今日は、本当に疲れた。
そもそも、私は元々、そんなにおしゃべりなほうではない。
バラエティーで、人を茶化してばかりいるお笑いタレントのMCには辟易する。
自分が一番面白いとでも思っているのだろうか。
そんな気持ちをおくびにも出さずに作り笑いをして、ヘラヘラしていなければ
ならないなんて。
郵便受けを見ると、大き目の茶封筒がはみ出しているのに気付いた。
事務所からだ。なんだろう?直接渡してくれればいいのに。
エレベーターで自分の部屋の階で降りる。
部屋に入って、茶封筒の中身を確認した。
何か、緩衝材にくるまれている。プラスチックの破片?
あけてみると、私のCDが無惨に切り刻まれていた。
CDのジャケットの私の顔も、滅多切りにされていたのだ。
なにこれ・・・・。
私は恐怖で言葉を失った。
誰なの?こんなことするのは。
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僕は今頃、SAKUがあのメール便を開けているだろうと想像した。
あのSAKUの美しい顔が恐怖でゆがむ。
僕はそれを考えるだけで興奮した。
想像しながら、オナニーをした。
SAKUが僕のことを考えている。最高。
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私は所属事務所にCDの破片を持ち込んで相談した。
偶然、事務所に、私の元彼の音楽プロデューサーが来ていて、
じゃあ、心配だから僕の車で送るよ、と申し出てきた。
正直、複雑な心境だった。別れたばかりの元彼に送られる。
私はその日の夜、車の中で彼に問いかけた。
「ありがたいけど、どういうつもり?私達、別れたじゃん。」
すると、信じられないような答えが返ってきた。
「別れたっけ?それは君が一方的に決めたことだろう?」
しれっとそう言ったのだ。
「だって、もう他に彼女が居るじゃん。私はもうお払い箱でしょ?」
「それは君が決めたこと。僕は決めてない。」
私はあきれ果てて何も言えなかった。
平然と二股をかけると言っている。
「おあいにく様。私は便利な女にはなるつもりはないわ。」
ちょうどその時に、私のマンションについて、車を停めた。
すると、彼はいきなり私にキスしてきた。
「ちょ、何すんのよ!」
「僕にとっては君が一番なんだ。信じてくれ。」
そう言うと、またキスしてきた。ずるい。
私がまだ好きなのを見透かされている。
私はその夜、彼を自宅に入れてしまったのだ。
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あん、ダメ。
まだ、お風呂入ってないのに。
いいじゃないか。そんなの、関係ない。サクラのにおいがするよ。
久しぶりだ。
やだ、そんなこと言わないで。あ、あん、だめぇ。
あぁっ。
んっ・・・・あ、ああ~。
ほら、サクラ。もうこんなになってるよ。
んんっ。やだっ。お願い、もう・・・・。
もう?どうしたいの?
僕はマンション横の路上に車を停め、ヘッドホンを耳に、怒りに震えた。
このクソビッチめ。
別れたばっかのプロデューサーを連れ込んでセックスかよ。
上等だ。
僕がSAKUの部屋に盗聴器をつけることに成功していたとは知らないだろう。
あのメール便の袋が二重構造になっているのに気付かなかったのか。
まだ捨ててないんだな。意外とずさんだね、SAKU。
しかも、ご丁寧にもベッドルームに置きっぱなしか。
誰がご主人様なのか、わからせてやる。
その時、携帯にメールが入った。
「遊園地、行けなくなったってどういうこと?」
真里菜ちゃんか。
「うん、ごめんね。用事できちゃった。」
「真里菜より大事な用事なの?ぷんぷん。」
僕はおかしくて笑った。自分で付き合えないって言ったくせに
真里菜より大事な?思い上がりもいい加減にしろよ、クソガキ。
僕は携帯の電源を切った。
待ってろよ、SAKU。
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私が眠っている間に、彼は黙って私のマンションを後にしていた。
なんだ、結局セックスしたかっただけじゃん。
私は猛烈に後悔した。
好きな気持ちを見透かされて、体だけ持ってかれたのだ。
自分のバカさ加減に呆れてしまった。
無性に喉が渇いた。
歩いて5分程度のコンビニに向かう。
道すがら、空しい気分になって呆然としていた。
後ろから静かに近づく乗用車に、全く気付かなかったのだ。
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「人気アーティストSAKU、突然の失踪」
そのニュースは、お昼のワイドショーを、週刊誌のTOPを大いににぎわせた。
「生活感そのままで、突然失踪したようです。
大物音楽プロデューサーとの交際、破局の噂もあり
失踪の原因は今も不明。」
ふん、プロデューサーとの交際が関係あるって言ってるようなもんじゃないか。
僕の携帯からは、真里菜ちゃんのアドレスは消えた。
もう、どうでもいいんだよ、あんなションベンくさい女は。
僕は、ちゃんと本物を手に入れたんだから。
僕は使われてない実家の納屋に向かった。
SAKUが恐怖に怯えた目で僕を見た。
「はじめまして、SAKU。僕は、ラジオネーム ラブハンター。」
SAKUは首を横にふり、イヤイヤをした。
彼女の口には粘着テープが貼り付けてある。
「騒がないでね。ここは、僕が高校時代に、親にドラムの練習場として、
防音対策ばっちりしてもらってるから。騒いでも聞こえないよ。
母屋とも随分と離れてるから。ここの鍵は僕しか持ってないんだ。
僕はやっとラブハンターになれたんだよ。」
SAKUは絶望的な顔をしても、やはり美しかった。