愛だけでなんとかなるなんて・・・mirror world
愛があれば、それだけで生きていける。
彼さえいれば私はそれで幸せ。
例えば彼が死んでくれと願うなら、私は喜んでそれを叶えるだろう。
こんな考えが狂ってるということはよくわかってる。
けれども、私はもうここから抜け出せない。
そして・・・彼も・・・。
「死んでくれ。しおり」
虚ろな目と震える手。
彼の手にあるナイフは手の震えとともに揺れ動いた。
「あなたが望なら」
私は死ぬ恐怖より、彼に求められたことの喜びのほうが勝り自然と微笑んだ。
「ほ、本当か?」
疑り深い彼は、瞳をせわしなくさまよわせながらこちらを伺ってくる。
「嘘なんて言わない。あなたが望なら死ぬ」
震えてしまっている手に自分の手を添えて、ナイフをそっと自分の方へ引き寄せる。
冷たい光を放つナイフが怖くないかと言ったら怖いが、彼が望ならばと心を落ち着ける。
「な、な、ななな!」
突然彼が意味不明な言葉を叫び、ナイフを手放した。
一体どうしたというのだろうか?
「やめ、やめてくれ! 俺が悪かった! やめてくれ!」
しきりにそう叫んで、床に頭をこすりつけ始めた。
突然のことに少し驚いたが、ここ最近の彼にはよくあることだ。
「あなたの嫌なことはしないよ。もう何もしない。大丈夫」
落ち着くようにと背をなで、寄り添うように体を寄せれば彼の呼吸は次第に落ち着きを取り戻した。
「あぁ、しおり。俺が悪かったよ。悪かった」
小さな子供のように泣き出した彼を私は何も言わず抱きしめる。
「俺が悪かったから、どこにもいかないでくれ」
譫言のようにそう繰り返す彼は、きっと不安だったのだろう。
けれども、そんな心配は無用のものだと早く教えてあげなければいけない。
「私の全てはあなたのものよ。ずっと一緒だし、死んでも一緒。何も怖いことなんてないんだから」
ね、と言い聞かせるように再び彼を抱きしめると、彼の体から震えが消えた。
ほら、これでもう大丈夫。
私たちには愛があれば大丈夫。