六話 護衛
「お、王女ぉ!?」
驚いた声が森に響く。
だってねえ?
身分が高いとは思ってたけど、いきなり王女だなんてねえ?
驚く方が普通だと思う。
「で、でも、なんでこんなところに? 王女様なら王宮とかにいるんじゃないんですか?」
我ながら偏見に偏っていると思う。
が、俺の言葉にメアリーはため息をついて
「……アリシア様は活発な方なので時々外へ出ないとすぐに逃げ出そうとするのですよ」
「ちょっ、メアリー!?」
すぐさまアリシアが顔を赤くしてメアリーに詰め寄る。
いきなりの暴露で恥ずかしいんだろう。俺も対処に困る。
ただ、それって活発というよりお転婆って言うんじゃないだろうか?
そう思った。
「ていうかそれ、俺なんかに言っていいんですか?」
「何度も未然に防いでいるので」
「む~……」
あ、防がれてるのね。
アリシアを見ると少しだけ膨れている。
うーん。なんか俺の中のお姫様のイメージとだいぶ違うなあ。
「ですので、定期的に姫様のガスぬ……もとい要望に王様が応えて時々別荘へと私ども従者連れて足を運ぶのですが……」
「さっきの大熊に襲われたと」
「はい」
というか、ガス抜きって言おうとしてたね。まあ、実際そうなんだろうけど。
「あの魔獣はブルージャイアントと言い、元々こんな森には生息しないはずです」
「いないんですか?」
「はい。いるとしたらもっと山の方です。ここら辺では強い部類に入るので降りてくることはないのですが……」
「何故か降りてきていたと」
「はい」
何でだろうなあ。
って俺が考えてもしょうがないか。まだこの世界に来たばかりでなんも知らないんだし。
というか、あの大熊で強い部類なのか?
結構簡単に倒せたけど。
「さて、俺の荷物は回収できたんで行くなら行きましょう」
「そうですね。よろしくお願いします」
「はい」
俺は頷いてメアリーとアリシアの後を付いて行く。
だって俺、場所分かんねえし。
――メアリー――
頷いた彼を見て私とアリシア様は王宮直轄領地の別荘へと歩き出す。
(とりあえず、悪い人ではないのは分かりましたし。何よりあの剣神様のお導きとは)
彼と話していても悪意なんかは全く感じられず。嘘を言っているようには思えない。
さらに、どう見てもこの国のものではない、いや、この大陸にはない服装やスポーツバッグと言っていた道具袋がより彼の言っていることを明確にしていると思う。
いとも簡単に第五級魔獣を倒した実力もさることながら、その剣筋が全く見えなかった。
かなりの実力者であることが分かる。
それならば、あの剣神様の目に留まったことにも納得できる。
(もしよければ、王宮に留まってもらいたいですね)
彼は全く気付いていないようだが、さっきから私どもの姫様。アリシア様が何度もチラチラと彼を見ていることには気付いていた。
いつもより大人しいのもその証拠だ。
(ふむ。意外と彼はアリシア様の好みに合っているかもしれません)
見た目はそこまでいかないにしても整っており。ほとんど見かけない黒髪に黒い瞳。
さっきこの目で見た通りの実力。いや、あれでもまだ余裕に思えた。
(あんな窮地に颯爽と現れて救ってくれた。結構アリシア様の夢に近いですね)
さすがに白馬の~なことは言っていないですが、我が主があれで気にならない方がおかしいかもしれません。
現王は、自らが情熱家で周囲の反対を押し切って今の王妃と結婚いたしましたから娘にも恋愛は本人の自由にさせて、政略結婚をさせる気も無いようです。
そもそも公に実力で王子と対等か凌ぐ者以外には求婚は認めないと言っています。
王子も王子でそれを認めていますし。
(しかし、彼はアーサー様をも凌ぐかもしれません)
見事な剣捌き(見たことない剣ですが)に圧倒的なまでの速さ。その卓越した業にも驚かされました。
全く見えなかったが、あのブルージャイアントの両腕と首の外鋼骨の隙間を見事に一瞬で斬り落したりと。
内鋼骨も確か鉄より硬かったはずですが、いったいどうやって斬ったのでしょうか。
しかも彼からは魔法を使用した形跡が全くしません。
彼の住んでいた世界には魔法がないのでしょうか。
そうだとしたら生身であの力……恐ろしい限りです。
(少なくとも敵には回したくない人ですね)
戦闘には自信がありませんが、人を見る目なら自信があります。
今も彼は自然に歩いているように見えますが全く隙がなく、無駄な足音がしません。
一瞬、刺客か何かと思うようなほど見事です。
さりげなく辺りも警戒しているようで、魔獣の奇襲に備えているのでしょう。
やはり敵に回すと恐ろしそうです。
何か手を考えないと……。
――雄真――
なんだかなあ。
さっきから王女様だっていうアリシアからもチラチラ見られてるし。侍女のメアリーも何か考え事をしているようで無言だし。
はっきり言って居心地が悪い。
やっぱ信じてもらえてないのだろうか。
爺さんの名前を出したときは驚いていたみたいだけど、一応神様だから会ったこともないだろう。
俺がもしそんなことを言われたら多分信じないだろうしねえ。
信じてもらえたと思ったのは早計だったろうか。
まあ、この二人を別荘まで送ったらそのままどこかへ行くか。
幸いにも強い奴はこの辺にはいないってさっき言ってたし。
あー、そう言えば爺さんが魔法があるとか言ってたなあ。旅先で誰か教えてもらえる人を探すか。
何があるか分からないし、覚えられるなら覚えておこう。
とりあえずの予定を立てて俺は辺りを警戒しながら二人に付いて行く。