おバカな受験生二人
定期的に紙を繰る音を聞きながら、俺は黙々と問題集を片手に、シャーペンをノートの上に走らせていた。
横目に時計を見やれば、日付が変わろうとしている頃合い。
こんな時間まで勉強をやっている理由は一つ、もう大学受験が二週間前に差し掛かっているからだ。
模試の診断結果を見る限りでは、志望する大学には少しの余裕をもって合格出来るらしいのだが、それでも焦燥感に駆られて勉強をしてしまう。
使い込んだ問題集の問いを次々に正答して自分を安心させる作業。
言ってしまえばあまり意味はないのかも知れないけれど、大半の受験生の皆さんよろしく受験までの日々を遊んで過ごせるほど肝っ玉は太くないわけだ。
そして今開いているページの最後の問題にとりかかろうとした時、机の上に置いておいた俺の携帯が低音を伴って振動した。
バイブレーションを止めてメッセージを開くと、
『勉強疲れたよ……(-。-;』
メッセージに件名はなくただその一文だけ。
俺は無言のまま、イマドキ珍しくなりつつある二つ折りの携帯を閉じる。
送られてきたメッセージを無視するわけじゃない、返信をするのに携帯が必要ないから閉じたんだ。
俺はシャーペンを置いて、先ほどから紙が擦れる音を発し続けている方を向いて口を開いた。
「てめぇ、どの口で勉強疲れたとかぬかしてやがる」
メールの送り主は、俺と同じ部屋にいる女からだった。
「いやいやなにその冷たい言葉、疲れたのはホントだよッ?」
俺がリアクションを示したことがそんなに嬉しいのか、もとより緊張感のない顔をさらに緩ませて、ブンブンとオーバーに顔の前で手を振ってみせる。
……あ、誤解のないように言っておくと、こんな時間に女子と同じ部屋で二人きりだと関係を疑われるかも知れないが、俺とこいつはただの幼馴染で、家が隣だからという理由で勉強を聞きに来られているだけなのだ。
もっとも、さっきからこのダメ幼馴染は俺の部屋に置いてあったラノベを読んでいるばかりで、勉強を教えてもらいに来たというよりかは、勉強しろとうるさい親から逃げてきただけなのかも知れないが……。
「あー、その目ッ、私の言ってること信じてないね?」
「当たり前だろ、具体的にどう疲れてると思う根拠を挙げてみろよ」
「んーとねー……まず全身が気だるい感じでしょ? あと読んでるお話の内容があんまり頭に入らなくなってきた」
自分の指を折りながら、自称疲れたという幼馴染は自分の不調を訴えていき……最後に、
「そんでもって、なんと言っても瞼が重いッ!」
「それはただ眠気に襲われているだけだろうがっ」
元気一杯生活習慣の良さをアピールしてんじゃねーよ。
「あれ? あれれ? そうか、眠たくなってたんだね私、なるほどだよ!」
「ネタじゃなかったのか……」
もう何年も見てきたハズなのに、改めてこいつのおバカ具合には驚かされる……。
というかもはや、驚きを軽く超えて不安になってくるレベルである。
「なんつーか……お前そんなんで受験大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
「……その自信はどっから……」
考えの甘い言葉に内心ため息を吐きながらも俺が根拠を問うと、これまた迷うことなくこいつはキッパリと言った。
「だって、君が勉強を教えてくれるから!」
…………。
考えが甘いとか思ってたが、どうやらそれは違っていたようだ。
こいつは何も考えてない。幼稚園にも入ってない頃に初めて出会ってから今日に至るまで――、
ずっとずっとそうであったように、俺に頼めば絶対になんとかしてくれると思っているらしい。
考えも無く、ただそう信じているらしい。
――まったくもって、バカだと思う。
もちろん、そんな生まれたての雛が最初に見た大きな生物を親だと思うようなおバカな信頼に心拍数上げてしまう俺みたいな奴はもっと馬鹿だと思うが。
「……お前は一体、俺の手に引かれるままどこまで行くつもりなんだよ……」
いつまでもお隣さん幼馴染同士の関係を続けるなんて出来ないんだからと、相手にも自分にも示唆しながら俺はそう尋ねた。
すると今度もこいつは悩んだ素振りも見せずに即答した。
「――私がお嫁さんになるところまでかな?」
そしてまた、緊張感のない顔を幸せそうに綻ばせるのだった。
自分が書いたあらゆる作品の中で一番フィクションです。
フィクションに度合いもないけど、ファンタジーもバトルも消し飛ぶくらいこの小説はフィクションですッッッ!!!!!
もしこんな受験シーズンを過ごした受験生がいたら、悪いことは言わないので爆発しなさってくださいませ。
…………どうも、著者でございます。
とてーもお久しぶりでございます。 グルグル。
……どうしよう、言うべきことはもう最初の数行で全て言ったしな……(え
えーとその……良かったら感想ください。とても喜びます。
……え? 感想書けるだけの中身がない?
………………さ、さよ~なら~(逃走 ヒラヒラ