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episode6

 町を離れてゆくリレントレスの様子を、遥か上空はおろか宇宙から監視する人工衛星があった。それがアレキサンダー所有のものなのは言うまでもない。

 人工衛星を通じモニターにそれが映し出されて、キング・ブルとサッキー・マツはご満悦だ。

「ほ! ほ! ほ! 裏切り者の哀れな末路ね」

「いやいや、お楽しみはこれからだ」

 ふたりだけでいたくなって、オペレーターはさっさとマッド・ブルから出して、帰した。

 マッド・ブルは町から離れた山岳地帯に身を潜めている。

 ふたりは空のシートを背にオペレーターシートにて操縦桿を握りしめる。

「さあ、ゆこう! ふたりの栄光の未来のために!」

 輝かしい未来を思い描きながら操作すれば、マッド・ブルは躍動感溢れて飛び上がり、町へ向かった。

 それも、わざわざリレントレスの上を、見えるように低空飛行で。

 風を砕く轟音とともに町へ向かう鋼鉄のミノタウロス、マッド・ブル。

 世界征服の手はじめに、アグアギィダルシティを破壊してやるのだ。

「えっ!」

 驚いたリレントレスはGSXを停め空を見上げた。むかつくことに、マッド・ブルは両手の中指を立ててリレントレスに見せ付けている。

 キング・ブルがアグアギィダルシティを破壊する気満々なのはいやでもわかった。

 でも、私には関係ない。

 と思おうとしたが、近所の悪ガキたちに、ガイらストリートレーサー仲間たちの顔が浮かんだ。とともに、タイショーの教えである「人間たれ」も浮かんだ。

「帰る場所は、もうない……。でも、守るものがあるわ!」

 思わずそう叫ぶと意を決し、スピンターンをかまし、町へと引き返してゆく。

 アグアギィダルシティは、再び来襲したマッド・ブルのため再び阿鼻叫喚の修羅場になっている。

 急ぎ自宅へ戻りガレージに飛び込むと、身につけているジャケットを脱ぎ捨て、タイショーの用意していたジャケットにサングラスを身につけ。フリスビーに乗った。

「いくわよ!」

 と念じれば、フリスビーは浮かび上がり、リレントレスの意のままに操れるではないか。

「私に、こんな力があったなんてね!」

 スケボーの要領でフリスビーを飛ばし、風を切る。GSXやスケボーも楽しいが、こいつもけっこう楽しい、とつい思ってしまった。なにせ、空を飛ぶので避ける障害物がない。思いのままに、突っ走れるのだ。

 眼下に広がる広い景色と無限とも思える青空に、空を泳ぐ雲に、太陽。まるで鳥になったようだ。

 わずか10秒足らずの間に自由になれるゼロヨンの世界とは、またちがった快感があった。

 が、今はそれどころではない。

 サングラス越しに、町を破壊しながら練り歩くマッド・ブルの姿が見えた。

 マッド・ブルは驚いたようにこちらに振り向く。

「戻ってきたのか!」

 キング・ブルの読みは半分は当たった。きっとリレントレスは町から追い出されるだろうと読んだからこそ、手出しはしなかった。惨めな思いをさせてやりたかった。

 が、しかし。

 リレントレスは戻ってきた。

 町の人々にどう思われるのかなど、関係ない。

 町を守るために、マッド・ブルと戦うために、戻ってきた!

「タイショーのやつ、よほどよくしつけていると見えるが、まあ、いい。こうなればタイショーのもとへいかせてやる! どの道その予定だったからな!」

「ええ、うんと苦しめて、逝かせてあげましょう」

「ふふ、怖い女だ」

「そんな女を妻にするあなたは、もっと怖い男ですわ」

 サッキー・マツとキング・ブルはおしゃべりを一通り楽しむと舌なめずりし、手に唾してリレントレスと向き合った。

 マッド・ブルはファイティングポーズをとり、リレントレスを迎え撃とうとする。

 それを見る町の人々。

「あれはリレントレスか!」

「私たちを守るために、帰ってきてくれたのね!」

「あんなひどい思いをさせたのに……」

 逃げ惑いつつもリレントレスを見つめ、忸怩じくじたる思いに駆られる。まさか追い出した者に、いざというときに助けられようとするとは。

 ガイらもリレントレスが戻ってきたと知り、逃走するピックアップトラックをUターンさせた。

「リレントレス!」

 トラックから降り瓦礫を踏み、その戦いを拳を握りしめ見つめる。

 さっきのタイショーと同じ、フリスビーに乗りマッド・ブルと戦おうとする。

(私に超能力があるというなら!)

 すかさずマッド・ブルを指差せば、指先から先が直角に曲がった鉤型三方手裏剣の姿をした光る彗星のようなものが数個飛び出す。

「こしゃくな!」

 マッド・ブルは手を振るい蝿を叩き落すようにそれらを叩き落す。

「な、なんだありゃあ」

「Ninja star?(手裏剣)」

 ガイにキース、ブルースはリレントレスの指先から出たものに驚き、口々に騒いでしまう。

「Shit!」

 リレントレスは上昇しマッド・ブルの頭の上を旋回しながら、まだまだと鉤型三方手裏剣の彗星を射出する。

「うむ!」

 キング・ブルとサッキー・マツはマッド・ブルを操りバレエのように片足で旋回させ、彗星を叩き落とし。そのたびに火花が散る。

 リレントレスは叩き落されてはたまらないから、無闇に近づかず距離をとる。

 マッド・ブルの目が光る。一緒に口も光る。

「危ない!」

 危険を感じ咄嗟にマッド・ブルの視線から離れるとともに、熱線が脇を駆け抜けてゆく。とても熱い。タイショーのジャケットがなければ、大火傷、いや即焼死しかねない。

「F○ck!」

 サングラスの奥のオッドアイがきらりと光る。

 彼女は復讐に燃えていた。

 お次は、と右手が光ったと思えばそれは光の剣となってリレントレスの手に握られていた。それを見たキング・ブルにサッキー・マツは、

「なんという力だ」

 と思わず唸ってしまった。

 光の剣はさっきの鉤型手裏剣よろしく彗星のようにリレントレスの手からはなれ、マッド・ブルに向かう。

「なんの!」

 すかさず噴炎を噴き出しジャンプすれば、蹄の下を光の剣がかすり、そのまま地上に刺さり消滅した。

 よけられたと舌打ちしサングラスの奥のオッドアイ光れば、またも光の剣を握り今度は急接近。

 飛び道具ではしとめられないとわかり、自分の手で直に斬りつけるつもりだ。

 マッド・ブルは噴炎をあげ空を飛び、空中でリレントレスとにらみ合い。目と口から熱線。

 リレントレスよけず光の剣をかざし、熱線に斬りつければ。熱線はふたつにわかれて、リレントレスの両脇を走り抜けてゆく。

「Yaaaaaaaaah!」

 あらんかぎりの声を出し、マッド・ブルめがけて剣先をかざし突っ込む。キング・ブルにサッキー・マツ、受けて立ったと両の手を突き出しリレントレスに突っ込む。

(タイショー、私を守って)

 心で祈り、マッド・ブルの眉間めがけて光の剣を突き出し体当たりさながら突進。だがそうは問屋が卸さず、さっと左手が邪魔をする。しかしかまわず、光の剣をマッド・ブルの左手に突き刺す。

 ばちばち! と激しい火花散ると左手はだらりと垂れ下がった。ダメージはあったようだ。

「甘い!」

 ぶうん、と唸りを上げて右手がリレントレスを叩き落そうとする。はっとして避けようとするが、避けた先に熱線ほとばしる。

 咄嗟に足をあげフリスビーの裏側を熱線に向け盾がわりにするが、その熱線あなどれず全身を激しく焼かれるようだった。

「ああっ!」

 あまりの熱さに悲鳴を上げると、ぷつんと糸が切れたように落下する。

(いけない!)

 神経を研ぎ澄ましフリスビーを足にしっかとつけて落下をまぬがれるも、ダメージあって降下は免れない。

「ふはは! 肉を切らせて骨を絶つ!」

 リレントレスの力量を認めたキング・ブルは無駄な足掻きをせず左腕を犠牲にして、リレントレスに隙を作らせたのだ。

 力なく地上に降り、フリスビーの上でよろめき立つリレントレス。そこへ容赦のない蹄。

「踏み潰してあげる!」 

 サッキー・マツは叫びキング・ブルは会心の笑みを浮かべて操縦桿を握りモニターを睨む。

 そのときだった。

 ピックアップトラックが爆音轟かせてマッド・ブル目掛けて突っ走る。

「うおおおーー! ストリートレーサーなめんなよーーー!」

 ガイはハンドルを握りしめて叫びアクセルを全開に踏む。後部座席にはキースとブルース。同じストリートレーサー、一蓮托生というつもりか。リレントレスの奮闘を目にし、闘争心に火がついたようだ。

「あらあら、お馬鹿さんね」

 自分たちの祖父たちがして失敗した特攻というものを、このアメリカンの小僧はやろうとしているようだと、サッキー・マツは嘲笑った。キング・ブルも、

「千の風というものが日本では流行ったが、ここでは神の風が流行っているのか。よかろう、そんなに神の風になりたいなら、神のもとに行かせてやる」

 と妻に同調し蹄の向きをピックアップトラックにかえて、これをフットボールよろしく蹴ってやろうとする。

「NO!」

 悲鳴があがったとき、ピックアップトラックは蹄に蹴られ。空高く舞い上がって、激しく地面に叩きつけられバウンドしながら粉々になった。

 悲鳴を上げたリレントレスの全身が輝きだし、それはまるで地上に太陽が降り立ったようだった。

「なんだ!」

 キング・ブルとサッキー・マツはモニターがあまりにまぶしく輝くので一瞬故障かと思ったが、違う。リレントレスの身体が光り輝いているのだ。

 かと思えばコクピット各所から激しく火花が散り、モニターは赤くなり「EMERGENCY」の文字を点滅させている。

 タイショーを、仲間を手にかけられたリレントレスの怒りが力を増幅させ。手を振れずにアレキサンダーの傑作のはずのマッド・ブルを破壊しているようだ。

「ま、まさかここまでとは」

 そんな人材を求め両親を始末し誘拐してまで手に入れたというのに。まさかこんなかたちでやられようとは。

「おのれ……」

 歯が砕けるかというほど、キング・ブルとサッキー・マツは歯軋りし。断腸の思いで操縦桿を操作し、マッド・ブルを緊急避難させた。すなわち、逃げた。

 足から噴炎をあげて、空を飛び雲に隠れるマッド・ブル。

 破壊されたアグアギィダルシティの人々は「YEAH!」ともろ手をあげて歓喜したのは言うまでもない。

 そんな場面を思い浮かべ、

「覚えていろ……」

 キング・ブルはサッキー・マツとともに呪いの言葉を吐き、身体中を怒りと屈辱で震わせていた。

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