episode5
その間、マッド・ブルは何もしなかった。
「いいことを思いついたぞ」
敢えて、手出しはせず成り行きを見守っていた。
タイショーがリレントレスの腕の中で息を引き取ったのを見て、
「今日はこれで勘弁しえやるが、また来るぞ」
と告げ、足からロケットよろしく噴炎をあげながらジャンプし、そのままどこかへと飛び去っていった。
かわりに町に静寂が降り立った。
人々のリレントレスらを見る目は、覚めていた。
と思えば。
「この町から出ていってくれ!」
と口々に言い出し。静寂は破られ人々の喧騒があたりを包む。ガイらは、何を言い出すんだ、と驚き周囲を見回す。
いつの間にか人が集まり、自分たちを取り囲んでいる。
それらは口々に、
「出ていけ」
と言う。
「あの変な牛はお前が狙いのようだ。お前がいたら、町が町添えになるんだ!」
「な、なにを言やがる!」
ガイにキース、ブルースは驚きリレントレスにかわり反論しようとするが、圧倒的な数の前には、無力だった。
当のリレントレスといえば、無言。
「タイショーは教会に任せるから、さあ、さっさと仕度して出ていってくれ」
「それじゃあ、お願い」
とタイショーを静かに横たえて、手を胸の上で組み合わせ。リレントレスはそのまま自宅へと力なく歩き出す。
ガイらはその後を着いてゆこうとするが、人の心は恐ろしいもので、ガイらが引き止めるのを阻止するため、なんと三人を取り囲みリレントレスに近づけないようにした。
ガイらは歯を食いしばり、拳を握りしめる。そこまですんのか、と。
タイショーのなきがらは、いつの間にか来ていた教会関係者が丁重に運びさってゆく。このまま教会管理の墓地に埋葬だろう。
「Good bye」
ぽつりと、リレントレスはつぶやいた。
自宅に戻ったリレントレスはまずバイカースタイル着替え、ガレージにゆくと、工具らを置いている整備台の上に、タイショーが身につけてたのと同じバトルスーツがあり。目を保護するためか、サングラスもそえられて。
またフリスビーもあった。
「ふふ。フリスビー金斗雲ね」
西遊記のことはタイショーに教えてもらい知っているが。まさかさっきのタイショーのように、フリスビー金斗雲に乗って戦えというのか。
サングラスは幅広でアスリートらが愛用するオークリーのデザインと同じだった。
それらはマッド・ブルを迎え撃ちにゆくまえに用意していたようだ。
クールなデザインだが、ぱっと見は普通に市販されているバイカージャケットにレザーパンツ、ブーツのようだ。だが手で触れてみるとパッドは特殊樹脂製で、かなり頑丈につくられてちょっとした鎧のようだ。サングラスの手触りも、普通の市販のものと違う。
やはりタイショーもアレキサンダーの一員だっただけあり、こういったものを創るノウハウをもっていたようだ。
「タイショーったら。でも、着ることはないわね」
ヘルメットを被り、GSXにまたがりセルスターターを押せば。愛機は目覚めの息吹をあげた。
その愛機の声は、どことなく寂しそうだった。
これから当て所もない旅をするのだ。もしかしたら、それにより身も心も汚れることになるかもしれないが、それも、止むを得ない、かな。と、自嘲気味に微笑むと、アクセルを開けてガレージを出て、走り出す。
走りゆくリレントレスを見る人々の目は、冷たかった。仲の良かった近所の悪ガキたちでさえ、母親にすがり、怖そうな目でリレントレスを見ている。
思わず、親指と人差し指、小指を立てて「愛してる」のサインを送ったが、反応なし。
やめときゃよかったと後悔しさっさと腕を引っ込めて、リレントレスは町を出て、いつもストリートゼロヨンをしている道を駆けて町から離れていった。