episode4
5機の戦闘機は爆音を響かせ腹と翼のミサイルを町の人々に見せつけながら低空飛行で旋回している。
その爆音はマッド・ブルへのエールのようでもあった。
内部の4つのシートのあるコックピットでは、後部のキング・ブルとサッキー・マツはご満悦そうに、モニターに映し出される逃げるピックアップトラックと荷台のリレントレスを眺めていた。
前の2つのシートではオペレーターがマッド・ブルをコントロールしている。
シートだが、最初こそ3つだったが、やはりいとしの妻のために1つ増やしたのであった。
町は破壊されてゆく。
それは誰にもとめられなかった。警察もレスキュー隊も。町に駐屯する軍も。
「ふん、まだほんのガキだったのがやけに色っぽくなっているではないか」
キング・ブルが言うとサッキー・マツはジェラシーを込めて、
「それだけ我らの敵にもなるということですわ」
という風に応えた。
キング・ブルはあごをなで、そのとおりだなと言い、ふん、と笑った。
「このままマッド・ブルはリレントレスを追い、始末する! 戦闘機隊のファランクス隊はタイショー・オーツカを探し、見つけ次第始末せよ!」
号令轟けば、「YES SIR!」という返答がスピーカーからかえってくる。
それから、突如響く爆発音。爆音ではない、爆発音だ。同時に戦闘機が一機火を噴きながら粉々になり、パイロットは緊急脱出し、今は落下傘の下。
「なにごとだ!」
キング・ブルとサッキー・マツとオペレーターは驚きモニターを睨んだ。
戦闘機がやられ4機減り。空に煙がたち、やられた戦闘機の破片と一緒に地上に落ちてゆくのを目にした。
「OH MY GOD!」
共産主義者よろしく神を信じていないのにそんなことを言った。
黒い点があった。
マッド・ブルは歩みを止め、黒い点を見据えた。モニターに拡大して映し出されるそれは、空飛ぶ黒いフリスビーに乗った人間だった。
「ややや、やつ、タイショー・オーツカ!」
キング・ブルは叫んだ。
「ふふふ。自分からのこのこと首を差し出しにきたか!」
よく見ればバイカーが着るような背中に胸に肩や肘、膝パッドのある黒いバトルスーツに脛パッドのある黒いブーツに身をつつみ、手には手の甲に同じようにガードのある黒いグローブ。年甲斐もなくかっこいいではないか。
まるで雲にのるようにフリスビーに乗りこれを自在に操り、戦闘機と同じ速度で空を駆け巡っている。
戦闘機はタイショーを撃墜しようとすかさずミサイルを放った。しかし掌を差し出すと瞬時にミサイルは爆発し、しかもその破片が撃った戦闘機に弾丸のように向かい、これを撃破するではないか。
そればかりか、他の戦闘機にも弾丸よろしく突っ込みこれも撃破。
戦闘機パイロットたちは急ぎスクランブル脱出をし、落下傘の下。
「まあ、なんという……」
サッキー・マツは忌々しそうにつぶやく。
これで戦闘機はあっというまに2機減って3機になった。
「キング・ブル! 永遠に隠れることはできぬと思っていたが……。見つかった以上はやむをえん。降りかかる火の粉は払わねばならん!」
タイショーは叫び3機目をしとめようとするが、突然戦闘機はそっぽを向いて逃げ出した。
「予定変更! ファランクス隊はもうよい、やつはオレが直々に始末する!」
マッド・ブルはたたずみ。その間にピックアップトラックは逃げる。が、タイショーをみとめたリレントレスは「タイショー!」を連発していた。
まさか育ての父がこの正体不明の敵と戦うとは。しかもその戦い方は常軌を逸している。こんなこと夢にも思わない。一体全体、なにがどうなっているんだ。
「げ、あいつ立ったぞ!」
ガイが叫んだ。
4本足歩行だったマッド・ブルはよっこいせっと2本足歩行になり、しかも前脚の蹄が一旦引っ込んで手が出てくる。
「ミノタウロスかよ!」
破壊された町にたたずむミノタウロス、マッド・ブルはまさに悪魔のようだった。それが勢いよく跳躍し、後ろ脚の蹄から噴炎を吹き出しながら空でタイショーと対峙する。
「とめて、車を停めて!」
リレントレスは叫び勢いよく掌で屋根をたたいた。驚いたキースはブレーキをかけて停まると、すかさずリレントレスはスケボーをかついで荷台から飛び降り駆け出す。
「馬鹿野郎、なに考えてやがる!」
慌ててガイが追う。
だがリレントレスはスケボーを駆り、駆け足のガイを引き離してゆく。
「こんなのはゼロヨンだけにしてほしいぜ!」
生身ではリレントレスに引けはとらないものの、さすがにスケボー相手には分が悪い。
「ふふふふふふ。ここで会ったが百年目。オレと戦い死ぬ名誉を与えてやろう」
オペレーターに代わり、サッキー・マツとともにオペレーターシートに身を置くキング・ブルはモニターに映し出されるタイショーを見据え操縦桿を強く握りしめた。
勝負はあっけないものだった。
ミノタウロスとなったマッド・ブルは蝿でもたたくかのようにタイショーを一撃でぶったたいた。
タイショーとて身構えて避けようとしたが、避けられなかった。
受け身をとってどうにか墜落は避けられて、よろめきながらもゆっくりと降下してゆく。
なぜか、マッド・ブルもゆっくりと降下してからは様子見を決め込み、なにもしない。
「タイショー!」
タイショーは着地してから、崩れ落ちるようにたおれた。リレントレスは慌てて上半身を抱き上げる。タイショーは弱弱しくなっていた。
「リレントレスか」
「タイショー、なんで……」
そばではガイと、いつの間にかいるキースとブルースが困惑してたたずむ。
「教えてやろう! リレントレス・クルーエルとタイショー・オーツカは、世界の覇者となる我が組織アレキサンダーを裏切ったのだ!」
マッド・ブルが叫ぶ。ガイをはじめとする町の人々は愕然とふたりを見据える。
「まさか」
「その、まさか、だ……」
タイショーは弱弱しくも語った。
タイショーとリレントレスは、かつてアレキサンダーに所属していた超能力者であったのだ。アレキサンダーは世界各地から人材を求めたが、ときに誘拐をもって人材を得ることもあった。
だがさすがに70億にとどこうかという地球人口であっても、超能力をそなえているのは希である。
アレキサンダーは血眼になってそれらを探し出し、組織の人間として育て上げようとしていたのだ。
それは20年前。タイショー50歳のとき。彼もまた超能力をもち、アレキサンダーの世界支配思想に共鳴し、息子ほども年の離れたキング・ブルの配下として世界征服事業に手を貸していた。
「お前が覚えておらんのも無理はない。お前はまだうまれたばかりだったからな」
赤ん坊のリレントレスが誘拐され、組織の人間として育てられようとしていた。両親は、おそらく始末されてしまったことだろう。
聞けば、リレントレスは手を振れずにスプーンを動かし、曲げたそうである。これを知ったアレキサンダーが黙っているわけもなかった。
「私は、お前の清らかな瞳に吸い込まれそうだった。同時に罪悪感を覚え、お前を連れて組織を抜けたのだ」
「……」
リレントレスは呆然と聞いている。そういえば、神経が研ぎ澄まされたとき、GSXのパワーが上がったような気がした。それをタイショーに問えば。
「間違いない。それはお前の力によるものだ」
言葉もない。自分にそんな力があったなんて。
「出来れば、お前にはそのことを知らせず、普通の人間としての幸せを掴んでほしかったが……。こうなってしまえば是非もない」
しばし沈黙し、断腸の思いで、タイショーはリレントレスに告げた。
「不本意だが、私に代わってアレキサンダーと戦ってくれ。さもなくば、世界は支配され搾取され、地球が不幸の星になってしまう。あってほしくなかったが、こんなこともあろうかと、私のつけているのと同じ装備を、お前の分も用意してある」
「タイショー……。パパ」
「ふふ、やっと私のことをパパと呼んでくれたな」
ふっ、と穏やかに微笑むと、タイショーは瞳を閉じた。息もしない。
思った以上にダメージがあり、そのためにタイショーは息を引き取ってしまった。
今ごろサングラスをかけっぱなしなことに気づき、慌てて外せば。リレントレスの目からとめどもなく涙が溢れ。
ガイらはそれを静かに見守り、十字を切りタイショーの冥福を祈った。