表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昨日、僕は、人を、殺した。

作者: oKome


「タカシ君を殺したのって、お前だろ?」

「うん……。僕だよ」

「……そっか」



 昨日、僕は、人を、殺した。



「その、どうなんだ? 罪悪感とか、あんの?」

 僕は落ちていた小石を、チョンと蹴りあげた。街灯の照らす範囲から飛び出した小石は、闇のなかへ消えていった。日頃、事件とは程遠いこの町は、まるで僕との関係を否定するかのように静まり返っている。

「今のところ、そんな気持ちは無い、かな」

 嘘ではない、はずだ。後悔は少しだけしている。だけどそれは、僕の両親にこの後かかるであろう迷惑を思ってのことで、彼に悪いとはまったく思っていなかった。少なくてもこの時点では。

「刺した時って、どんなこと考えてた?」

「う~ん、あんまし覚えてないかも」


 僕が刺したのは、僕の中学では有名な、いわゆる『不良』だった。

 別に、彼からいじめられていた訳ではない。時々校庭の隅っこで、取り巻きと一緒に気弱な生徒を取り囲んでいる彼らを見て、なにやら不快な気持ちになる程度だ。


「これからどうするんだ?」

「どうしよっかなぁ……。高飛びでもするか。タクちゃんも行く?」

 タクちゃんは苦い顔で答えた。

「それは、無理だな」

「だよねぇ~」

 もちろん断ったからといって、タクちゃんを恨んだりはしない。

 僕は殺人犯なんだ。殺人犯を匿うのも犯罪だ。タクちゃんの反応は当たり前だろう。

 だけど……。

 少しだけ寂しいのも、事実だ。


「大体のことは覚悟してる。と、思う。たぶん僕は、お父さんとお母さんにめちゃくちゃ謝るだろうし、少年院行きは確実だろうね」

 タクちゃんは、僕の目をジッと見つめた。

「それでいいのか? お前は本当に、それでよかったのか?」

 僕はこの問いに答えなかった。答えられないわけではなかった。ただ、なんとなく、答えたくなかった。


「明日、親に言うよ」

「……そっか」

「少年院って面会とかあんのかな? タクちゃん面会に来てくれる?」

「……ごめん。分かんない」

「そう、だよね」

 正直、悲しかった。

 面会に行くと言ってくれなかったこともだが、それ以上に、タクちゃんにこんな辛そうな顔をさせてしまったことが、悲しくて、悔しくて、そして苦しかった。

 たぶんお母さんも、こんな顔をするのかもしれないとも、思った。


「お前ってさ……。いや、ごめん」

「なんだよ、言ってよ。もしかしたらもう、会えない、かもしれないんだよ……」

 自分で言っておいて、やっとその現実に、気がついた。

「うん。……お前ってなんか、大人だよな」

「……それは人を殺したから?」

 タクちゃんは引きつった顔で笑い、上を見上げた。


「じゃあ、俺もう、帰るな」

「……うん」

 タクちゃんは、寄りかかっていたガードレールから離れると、じゃあと言って歩き始めた。

 タクちゃんの大きな背中が、街灯の下に現れては、消えていく。

 僕はなんとなく、このまま別れたら、もう一生タクちゃんと会えないような、そんな、気がした。

「タクちゃん!!」

「ん?」

「僕達は友達だよね!! また会えるんだよね!!」

 タクちゃんはゆっくりと振り返り、右手で頬を擦りながら、照れくさそうに言った。

「何言ってんだ。当たり前だろ。俺たちはずっとずっと、親友だ!!」


 遠くに見えたタクちゃんは、笑顔で手を振ると、また暗闇の中へ消えていった。

 僕は嬉しかった。

 例え、タクちゃんが嘘をつく時に、右手で頬を擦る癖があると知っていたとしても。その言葉が、今の僕には嬉しかった。

 同時に、タクちゃんに嘘をつかせてしまったことに対して、僕は事件後、初めて罪悪感を覚えた。いや、違う。今初めて、この気持ちのことを罪悪感と呼ぶのだと、気づいた。

 たぶん、これからもっと、この気持ちが膨らんでくるのだと思った。もっともっと色々なことを考えて、もっともっと、後悔をするのだと思った。

 そうやって、ずっとずっと考えて、ずっとずっと悩み続けていくんだ。

 たぶん、僕が生きているかぎり、ずっとずっと、きっと、一生。


 それが僕の選んだ道なんだ。きっと、そうなんだ。



 昨日、僕は、人を、殺して、しまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても悲しくて歯がゆい物語ですね( ´ ▽ ` )ノ
2011/04/12 07:23 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ