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04 テブクロ

 しんしん。

 と、雪が積もる音が聞こえる。

 でもそれは錯覚で、雪は音なんか立てないことを私は知っている。

 しんしん。というのも深深とか沈沈と書いてひっそりと静まりかえった様子をあらわす言葉だということも知っている。最近知った。

 しんしん。今にぴったりの言葉だ。私たちはしんしんとした閑静な住宅街の中を歩き続ける。

 けれど、雪の上に残る足跡は一人分。

 私は彼の背中で、彼の背中からは熱は伝わらない。かわりにくっついた背中から鼓動が聞こえる。それが私の鼓動と重なって今の気持ちの背中をぐいぐいと押す。

「重くない?」

 私の言葉に、彼は雲のかかった夜空を見上げ、それから喉の奥でくつくつと笑ってこう言った。 

「重いって言ったらどうすんの?」

 彼のそういうところが嫌いだ。

 いつも人を小馬鹿にしたように質問を質問で返す。

 だから、仕返しの意味も込めて首に回した腕に力を込める。

「うれじいよ、抱きづいでぐれで」

「ちがうし」

 報復失敗。やっぱりこいつはなにもわかっていない。

 彼の肩にかかった雪を掃いつつ腕の力を緩めた。

 深い吐息は白く長く、私の前にもやをかける。

 いじわるで欲張りな雲は星の明かり逃すまいと必死に光をさえぎる。

 そして下界にむかって笑った。どうだ、悔しいだろ。って

 だけど、そのおかげで、人々はともしびというものを手に入れた。

 ぽつ、ぽつと駅周りの街中に比べてもうしわけ程度に据えられた街灯がくれる光は彼が歩くたびに降ったり止んだりで、そのつど私は目をしかめる。

 あまりにも眩しいので私は彼の頭の影に隠した。

 このまま、目の前の首筋に口づけしたら彼はどんな反応するだろうか。いや、やめておけ私。きっとまた大火傷するだけだから。

「鼻息くすぐったいんだけど」

 その指摘にあわてて顔をあげる。彼の後頭部の先では白いもやが上へと伸びていた。

「そ、そんなに鼻息荒くないし」

 乙女に向かって鼻息とは失礼な。

「じゃあ、程よく気持ちよくて興奮する」

「変態」

 彼は言葉の代わりに喉の奥で笑ってごまかす。

 あたまに積もった雪も掃ってやるが手の長さの関係で掃えないところがある。 

「ちょっとこっち向いて」

「え?」 

「いいから」

「振り向かないと、また首絞めるよ」 

 言うと振り向きかけた首が再び前を向いた。

「あ、いま振り向きかけた」

 言わなくてもいいことを言う私は意地悪だろうか。

「まあね」

 彼も彼で、ここで口を尖らせて反論を言えばかわいいものを、喉の奥で笑って私の言葉をするりと躱す。

 後ろからは彼の顔を見ることはできないが見えなくてもわかる。そこには意地悪な笑いを浮かべている。

「あのさ」 

「ん?」

「ありがと」

「ん」

 見なくてもわかるきっとそこには私の好きなはにかんだような笑顔。

 私を支える彼の手には私がさっきあげた手袋、そのせいで彼のぬくもりは私には伝わらない。熱は伝わらないが彼の心臓の音は伝わる。私の鼓動も彼に伝わっているのだろうか。

 目の前には立ち上る二本の白いかすみ。ふりかえれば、雪上に押されたたった一人分の足跡。それをしんしんと積もる雪が消そうと必死に薄くしていく。

 今なら言えるかもしれない。

 必要なのはほんの少しの勇気。

「あのさ――」

 しんしん。

 雪が積もる音に私の言葉はかき消される。

「なに?」

「なんでもない」

「そか」

 気づいてるくせに、言葉をはぐらかす。

 彼のそういうところが嫌いだ。

 しんしんと雪が降り積もる閑静な住宅街。足跡は付けたそばから消される。それでも歩みを止めない彼の足は必死に二人分の重さで雪を固めていった。

突発的発足コーナー!

レンジファインダーNG集!その1

―――――――――― 

 必要なのはほんの少しの勇気。

「あのさ、チャック開いてるよ」

 しんしん。

 雪が積もる音に私の言葉はかき消される。

「なに?」

「なんでもない」

「そか」

 気づいてるくせに、言葉をはぐらかす。

 彼のそういうところが嫌いだ。

 しんしんと雪が降り積もる閑静な住宅街。足跡は付けたそばから消される。それでも歩みを止めない彼の足は必死に二人分の重さで雪を固めていった。

――――――――――

とゆーわけで『04 テブクロ』お送りして参りました。

テーマは『熱』です。

厚着してると以外と体温って伝わらなくね? というお話です。

もうお気づきの方も多いと思いますが、この作品、章を追うごとに、春夏秋冬と物語の舞台の季節が移り変わっていきます。次回はやっと春です。さあ二巡目だ!



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