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暴言と浮気を繰り返す婚約者  作者: ヴァンドール


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4/22

4話

 踊りの輪から少し離れた場所で、喉が渇いた私は飲み物を取りに行こうとした。


「ルシアン」


 振り返ると、ピエール様が立っていた。

 先ほどまでの動揺を必死に隠した、取り繕った笑みを浮かべている。


「先ほどは、少し言葉が足りなかったようだな」


「そうでしょうか」


 私は首を傾けた。

 

「誤解があると困る。あの令嬢とは、何でもない」


「そうですか。別にお二人の関係に興味はありませんので」


 私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。


「ですから、どうぞご心配なく。舞踏会をお楽しみください」


 彼は一瞬、言葉を失った。

 私が、彼を責めないことが、想定外だったのかしら? ヤキモチ? そんな気持ち、今更ありません。残念ながら今は本当に何も感じませんので。


「後で、話そう」


「別に必要ありませんわ。それに誤解なさらないで下さい。別に私は怒ってなどいませんから」


 そう答え、私は兄の方へと向き直った。 


 (全く、ヤキモチを焼き、問い詰めれば逆ギレする。その身勝手さにお付き合いする気はありません)


「ロイドお兄様、次の曲もお願いします」


「ああ、もちろん」


 兄の口角が一瞬、上がったのがわかった。そしてすぐに私に手を差し出してくれる。


 背後で、ピエール様が何か言いかけた気配がしたが、もう振り返ることはしなかった。


 二曲ほど踊った後、私たちは壁際の静かな場所へと移動した。


「さて」


 兄が何やら、私を見ながら楽しそうに言う。


「そろそろ、紹介しておこうか」


「紹介、ですか?」


「ああ。お前に会ってもらいたい人物がいる」


 そう言って兄が視線を向けた先に、一人の男性が立っていた。


 年の頃は二十四、五かしら?

 ふくよかながらも、その体格はがっしりとしていて頼もしい。

 正装姿がとても上品で、優しさと誠実さが滲み出ている。


 その男性は、兄と目が合うと、遠慮がちに近づいてきた。


「久しぶりです。ロイド殿」


「相変わらずですね。ランガー殿。元気そうで何よりです」


 『ランガー殿』


 兄がそう呼んだその方は、私の方へと視線を向け、ゆっくりと一礼した。


「初めまして。ロイド殿の友人であり、仕事でもお世話になっています。ランガー・チェスターと申します」


 声は低いが、優しさを感じた。

 

「妹のルシアンです」


 私が名乗ると、彼は少し驚いたように一瞬目を見開いた。


「貴女が……。話にはよく聞いていました」


「兄から、ですか?」


「ええ。とても聡明で、芯の強い妹だと」


 社交辞令だとしても少し照れてしまう。


「ランガー殿は、うちの出資している事業の代表者だ。爵位は男爵でね」


 兄が紹介してくれる。


「こう見えて、とにかくやり手でな。今や、資金繰りで困った貴族たちが列をなすほどだ」


(あーこの方が金融の仕事を任されている方なのね)


「やめてください。買いかぶりですよ」


 ランガー様は困ったように笑った。


「買いかぶりなものか、金融という仕事はとても難しいんだ。それをここまで大きくしたんだ、もっと胸を張ってもいいくらいだ」


「いえ、私はただ、お金を貸す以上、相手が潰れないようにすることも私の責任だと思っているんです。だから、無理をさせる貸し方はしません。それを忠実に守っているだけですよ。相手が立っていられる形でなければ、結局はうまくいきませんから。」


 その言葉を聞いた瞬間、心の中に何かが響いた。


 この人は、きっと怒鳴らない、威圧しない。

 私の直感が働いた。


 本来、お金を貸す側がそこまで相手のことを思いやるものなのか? 普通は貸せるだけ貸して強引な取り立てをするか、それが出来ないなら、騙され、利用され、失敗してもおかしくない。

 それでも彼は成功している。

 それだけで、この人がどんな人物なのかが、伝わってくる。


(お兄様の言う通りだわ)


「ルシアン」


 兄が意味ありげに言う。


「実は彼も独り身でね。もしよければ、次の曲を一緒にどうかな?」


「ロ、ロイド殿、こんな素敵なご令嬢に、自分みたいな男では申し訳ない。迷惑になるだけだ」


 ランガー様が慌てて止めた。


「ランガー殿、君は自分を過小評価し過ぎている。もっと自信を持つべきだ」


 私はそのやり取りを見て、思わず笑ってしまった。


「でしたら、次の曲、よろしいですか? ランガー様」


 彼は一瞬戸惑い、それから、遠慮がちに頷いた。


「では、宜しくお願いします」


 差し出された手は、大きく、温かかった。

 けれど、決して強く握らない。


 音楽が流れ始める。


 私は彼と踊りながら、確かに感じていた。


 ただ、隣にいるだけで、とても安心感がある。

 それだけで、この方の人柄が伝わってきた。

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