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暴言と浮気を繰り返す婚約者  作者: ヴァンドール


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19/22

19話

 その日、ルシアンは所用のため、久しぶりに街へ出ていた。

 外に出るのは、気分転換になると思っていたが、人が多すぎて、どこか落ち着かない。


 そう思いながら歩いていた時、ふと、視界に見覚えのある姿が映った。


(あれは確か……)


 落ち着いた雰囲気の女性。

 以前、ランガー様の事務所で見かけたルイノール侯爵の未亡人?


 思わず足が止まってしまう。


 そして、その隣にいる人物を見て、心がざわつく。

 若い貴族の男性。

 二人は肩を並べ、親しげに話しながら歩いている。

 距離は近く、二人の視線は絡み合う。

 どう見ても恋人同士。


(そんな……)


 無意識のうちに、息を呑んでいた。

 気づけば、ほんの少しだけ、後を追っている。

 自分でも理由が分からないまま。


 二人は、通り沿いの店先で立ち止まり、笑顔を交わす。

 その様子は、どう見てもやはり、恋人同士だった。


 胸の奥に、強い感情が込み上げる。


(ランガー様の恋人ではなかったの?)


 だとしたら今、目の前にある光景は、それを裏切るものだった。


(なんて、ひどい)


 胸が、きりりと締め付けられる。

 ランガー様が裏切られている。

 そう思った瞬間、強い怒りが湧いた。


 だけど、それと同時に嬉しさを感じる自分がいた。

 私ったら、何を期待しているの? そんな想いを断ち切るように首を振る。

 私はもう、見合いを受け入れた身。

 彼の人間関係に、心を乱す資格はない。


 そう、分かっているのに。


(どうして……)


 自分でも理由が分からない。

 ただ、理不尽に胸が痛む。


 ルシアンは、踵を返した。

 これ以上、見てはいけない。



 その日の夜。


 彼女は、兄、ロイドの執務室を訪れていた。


「ルシアン?」


 書類から顔を上げたロイドは、妹の表情を見て、すぐに異変を察した。


「お兄様、少し話せますか?」


「ああ」


 椅子に腰掛けても、すぐには言葉が出ない。

 それでもロイドは、黙って待った。


「今日ね、街で」


 ようやく、口を開く。


「以前、ランガー様の仕事場に出入りしていた侯爵家の未亡人の方を見かけました」


 ロイドは、黙ったまま頷く。


「その方が、別の貴族の男性と、とても親しそうで……」


 ルシアンは、下を向いた。


「あれはどう見ても、恋人同士でした」


「それで、お前はそれを見てどう思った?」


 ルシアンは指先を強く握った。


「許せない、と思ってしまったんです」


 自分でも驚くほど、はっきりした言葉だった。


「ランガー様は、あの方を信頼していたはずなのに……裏切られているように見えました」


 その瞬間。


 ロイドは、はっきりと理解した。


(ああ……)


 妹は、誤解しているのか。


「ルシアン、その未亡人と、ランガー殿は仕事上の付き合いだけだ」


 一瞬、空気が止まった。


「え?」


「私が把握している限り、私的な関係はない」


 淡々と告げると、ルシアンは、呆気に取られていた。


「お兄様が知らないだけではなくて?」


「ああ間違いない」


 ロイドは、妹の顔を見つめた。


 ルシアンの表情には、動揺、安堵、そして隠しきれない感情が見て取れた。


 その全てで、ようやく確信する。


(そうだったのか)


 彼女は、最初から、ランガーのために身を引こうとしていたのだ。


 だから、見合いを受けると言い出した。

 だから、理由を語らなかった。


 ロイドは、溜息を吐いた。


「全く、お前というやつは……」


 ルシアンは、何も言えなかった。


「それは、優しさかもしれないが、同時に、とても残酷でもある」


 ロイドは、はっきりと言った。


「勘違いの上で選んだ道なら、考え直す資格はある」


 ルシアンは、胸に手を当てた。


(私の心はずっと変わっていなかった。変えようとしただけだった。だから今、こんなふうに……)


 初めて、真正面から、自分の心と向き合わされた気がした。それでも不安が消えたわけではなかった。


(お兄様は知らないだけで本当はランガー様の心はあの方に……)

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