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暴言と浮気を繰り返す婚約者  作者: ヴァンドール


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15/22

15話

 婚約破棄が公になり、暫く経った頃。


 噂というものは、思ったよりも早く、しかし確実に広がる。


 スタンリー伯爵家との婚約が、正式に解消された。

 理由は、先方の過失によるもの。

 エクセラル子爵家には、一切の非はなし。


 それが伝わると同時に、屋敷に届く釣書の数が、目に見えて増え始めた。

 最初は一日に一通、二通。

 それが今では……。


「縁談?」


 私は、机の上に積まれた釣書を前に、思わず言葉を失った。


「そうだ」


 お兄様は、どこか遠い目をしている。


「未婚の貴族家から、正式な申し込みだ。家格も年齢も、実に幅広い」


「幅広い? のですか」


 兄が顎に指を当てる。


「どう考えても、節操がない。あまりにも早すぎる」


 ぽつりと零した言葉に、隣のランガー様が小さく咳払いをした。


「婚約が解消されたことで、自由になったと判断されたのでしょう。それに、何よりルシアン嬢は美しい。それが理由でしょう」


 聞いている私が照れるようなことも、淡々と説明している。


「特に、今回の件で貴女に、全く非がなかったことが、評価を上げています」


 私は、思わず苦笑する。


「噂が広まるのは怖かったけれど、まさかこんな形になるとは予想外です」


「世間とは、そういうものだ」


 お兄様は、釣書の束を整えながら言った。


「価値が下がるどころか、上がったと見る者も多い」


 そして、ふと視線をランガー様に向けた。


「なあ、ランガー殿」


「何でしょう」


「正直な話だ」


 兄はコホンと咳払いをした。


「これだけ申し込みが来ているんだ、君が名乗りを上げても良いのではないのか?」


 一瞬、空気が止まった気がした。

 私は、思わず目を見開く。


「お兄様?」


 ランガー様は、明らかに動揺した様子で、視線が泳いでいた。


「ロ、ロイド殿、冗談が過ぎます」


「冗談ではない」


 お兄様の声は、珍しく真剣だった。


「君は、妹のことをよく理解しているし、危険から守れる力もある。その上、信用もある」


「それと、縁談は別です」


 ランガー様は、きっぱりと否定した。


「私のような男では、釣り合いません」


 その言葉に、私は思わず息を殺す。


「見てくれも良くない。社交も得意ではない。融通も利かない」


 淡々と、しかしどこか自嘲的に続けた。


「そんな男が、ルシアン嬢の隣に立つなど、申し訳なさすぎる」


 お兄様は、思わず眉を寄せた。


「君はいつだって、自己評価が低すぎる」


「事実です」


 キッパリと返した。


 私は、二人のやり取りを聞きながら、胸の奥に、言葉にならない感情が芽生えるのを感じていた。


 ここまで迷いなく、はっきりと言い切るランガー様には、もしかしたら他に、お慕いしている方がいらっしゃる? そんな疑問が湧いてきて、その瞬間、私の心はチクリと痛んだ。

 この痛みは何を意味するの?


 思考は、そこで途切れた。

 まだ、答えを出す時ではない。だけどただ一つ、確かなことがある。


 私は、もう誰かに急かされて決めることはしない。

 この先は、自分で選ぶ。そう、心の中で静かに誓いながら、私は、積まれた釣書から、そっと視線を逸らした。

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