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[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第一章 心霊現象

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再び

【闇堕ち少女、怨霊(おんりょう)と化す——】

「どう? あれから何もない感じ?」

 真由美が箸を休めて近況を聞いてきた。

 大学の食堂は、多くの学生たちでにぎわっていた。

「うん、まったく何も」

「それはよかった。一週間何もないなら、もうだいじょうぶかもね」

「だといいけどね」

 奈央はそう答えたが、内心ではかなり楽観的だった。正直、例の問題から解放された気がしていた。

 真由美が声を弾ませながら続ける。

「でも、ほんとすごいよね、あの岩国さんって人。見た目チャラい感じだったけど、できる人だったんだね」

「うん、だね」

 確かに、岩国は期待をはるかに超えた働きをしてくれた。一分もかからずに張り終えた結界が、しっかり効果を発揮したのだから。

 でもさ、と奈央はお茶を一口飲んでから続けた。

「あの変な現象も、今思えば夢だったんじゃないかなって」

 そう言うと、真由美は同意するようにうなずき、神妙な顔で口を開いた。

「その可能性はあるよね。だってあたしも高校のときさ、寝てる間に何度もからだが宙に浮いたことがあるんだ。でも、きっとあれも夢だったんだと思うし」

「からだが浮くって……怖いね」

「うん。高校時代は変なストレスが多かったから、そのせいでおかしくなってたのかも」

「そうだね。きっとストレスが原因かもね」

「だから奈央もさ、知らないうちにストレス溜めてたんじゃない?」

「そうかも」

「本当は結界なんて嘘っぱちで、ただ張ってもらったっていう安心感が、いい結果に結びついたってだけかもしれないし」

「確かにそうかもね」

「きっとそうだよ。とにかく、元の生活に戻れてよかったね」

「うん、ありがと」

 奈央は平穏な日常が訪れた喜びを改めて噛みしめた。

 すると真由美が話題を変えた。

「ところで、彼氏とはその後どう?」

 その言葉に、奈央の気分はとたんに沈み込んでいく。

「相変わらず……。電話しても、折り返しもなくて」

「マジで? それはきついなぁ……」

「もしかしたら、浮気してるのかも……」

 否定の言葉を期待しての発言だったが、真由美は奈央の意に反して大きくうなずいた。

「まあ、大学行ってたら、出会いなんて山ほどあるしね」 

 友人の言葉に、奈央の胸がずきりと痛んだ。


    *  *  *


 午後の講義を終えた奈央は、真由美と連れ立って最寄駅へ向かった。

 駅に着くと、募金活動が行われていた。貧困世帯の子どもたちを支援するためらしい。同世代と思われる五人ほどの男女が、笑顔で通行人たちに援助を呼びかけている。

 奈央は迷わず財布を取り出すと、黒髪の女性が持つ募金箱に千円札を差し込んだ。

「ご協力ありがとうございます!」

 女性の元気な声が広場に響き渡る。

 隣に立つ真由美が、えらく感心したように目を細めた。

「奈央、えらいね。進んで募金するなんて」

「だって、いいことすると気持ちがいいじゃん。真由美もやってみたら?」

「じゃあ、少しだけ」

 真由美は財布から百円玉を一枚ぎこちなく取り出すと、硬貨をそっと募金箱に落とした。

「ご協力ありがとうございます!」

 再び明るい声が響く。

「ね、気持ちいいでしょ?」

「まあ、悪くないかもね」

「一日一善だよ」

 奈央はそう言うと、軽い足取りで改札口へと向かった。


    *  *  *


 夜の海岸に腐敗した死体が打ち上げられた。身につけた服から若い男のものだと推測されるが、傷だらけの顔は水にふやけ、原型を留めていなかった。


 場所は変わり、夜の幹線道路。二十代半ばの男がふらつきながら車道に飛び出す。

 ヘッドライトの光が男の顔を照らし、彼の大きく見開いた目が浮かび上がる。

 その直後に鈍い衝突音が響き、急ブレーキの甲高い音が闇夜を切り裂いた。


    *  *  *


 奈央はスマホの着信音で目を覚ました。

 部屋の暗さから、まだ深夜だということがわかる。いやな予感が胸をよぎり、壁掛け時計に目を向けた。

「ああ!」

 思わず短い声を上げてしまう。ちょうど午前二時。また始まったのだ!

 鳴り続けるスマホを手に取ると、「非通知設定」の文字が不気味に浮かび上がっている。

 慌ててスマホの電源を切り、次の現象を予期して身を固くした。

 数秒後、壁掛け時計がカタカタと不規則に音を立て始めた。奈央は布団をきつく握りしめて恐怖に耐える。

 続いて、カーテンが大きく揺れ、次に壁がドンドンドンドンと鳴り響く。背後の壁から伝わる振動に、心臓が凍りつく。

 だが、本当の恐怖はこれからだ。

 浴室から不気味な女の声が聞こえてきた。顔から血の気が一気に引いていく。


「ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない……」


 低く這うような、憎悪に満ちた声。あの女の声だ——。

 奈央は両手で耳を強くふさぎ、声の限りに叫んだ。

「もうやめて! 全部あんたが悪いんでしょ!」

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