表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結済]【呪い系ホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
第一章 心霊現象

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/65

岩国啓一郎②

「岩国さんは、昔から霊感が強かったんですか?」

 真由美がピザを頬張りながら聞いた。

「そうだね。物心ついたころから、人には視えないものが視えていたね」

 そう答えると、岩国は二切れ目のピザに手を伸ばした。痩せの大食いなのか、細身なのに食欲旺盛だ。

 三人でデリバリーしたLサイズのピザを囲んでいた。円卓の上にはピザの他にコーラのボトルが置かれ、部屋にはトマトソースの香りが漂っている。

「怖くなかったんですか?」

 再び真由美が聞く。

「全然。だって、他の人にも視えてると思ってたから」

「あ、それよく言いますよね。みんな視えてると思ってたって」

 奈央はここで、少し恐縮しながら割って入った。

「岩国さん、本当に謝礼とかいいんですか?」

「いいって。ピザで充分だよ。それに、こういうのは趣味みたいなもんだし」

「でも、家にまで来てもらったのに……」

「どうせヒマだったし、気にしなくていいよ」

 奈央が恐縮している中、真由美が再び岩国に聞く。

「岩国さん、なんか面白い体験談とかないですか?」

「体験談?」

「うん」

「そうだなぁ……。体験談とは少し違うけど、人の死期がわかることはあるかな」

「ええっ!? それ、怖いけどすごい!」

 真由美が大げさに驚いて見せる。

 岩国は笑みを浮かべながら淡々と続ける。

「この人、そろそろかなって感じると、だいたい一か月か二か月のうちに亡くなるね」

「おお、怖っ!」

 真由美は本気で怖がっている様子だ。

 コーラを一口飲んでから今度は奈央が聞く。

「ちなみに、どんな死に方なんですか?」

「高齢者は、ほとんど病死だね。若い人は事故死が多いかな」

 真由美が心配そうにたずねた。

「あの……、わたしたちは、だいじょぶですよね?」

「ああ、だいじょうぶだよ。安心して」

「よかったぁ」

 真由美は心底ほっとしたように胸をなで下ろす。

 奈央は少し躊躇しながら、ずっと気になっていたことをたずねた。

「……あの、今日って結界を張ってもらいましたよね? これで心霊現象って止まるんですか?」

 岩国はピザを頬張りながら答える。

「しばらくは収まると思うよ。でも、さっきも言ったけど、結界の効力は有限だから、効果が弱まればまた始まると思う」

「そうですか……」

 奈央は肩を落として大きなため息をついた。

「でも、自慢じゃないけど、おれの作った結界はかなり強力だから、少なくとも数か月はもつと思うよ」

「そうなんですね……」

「ただ、結界はあくまでも応急処置に過ぎない。根本的に解決するには、怨みの元を見つけないと。そうすれば結界よりも効果的な手段を使える」

「効果的な手段って?」

「霊を成仏させるんだ。つまり、除霊ってやつさ」

「じゃあ、除霊ができれば、もう変な現象に悩まされなくて済むんですね」

「そうだね。でも、除霊の対象がわからないとどうにもならない。だから、今は結界でごまかすしかない」

 ここで真由美が口を挟んできた。

「奈央、本当に心当たりないの?」

「うん……」

 奈央は罪悪感を覚えながら答えた。だが、真実を話すわけにはいかない。それを口にすれば、軽蔑されるのは目に見えていたからだ。

 岩国が新しいピザを手に取りながら、落ち着いた声で続けた。

「かなり遠くから来てる怨念だから、前に視てもらった霊能者が言ってたように、君の地元にいた人物で間違いないと思う。だから、学生時代のことをもう一度よく思い出してみて。急がなくていいから」

「わかりました……」

 奈央は力なく答えた。

「ねえ奈央、逆恨みの可能性もあるんだから、それも考慮に入れるんだよ」

「うん、そうだね」


    *  *  *


 その夜も念のため、スマホの電源はオフにしてベッドに潜り込んだ。

 緊張のせいでなかなか寝つけなかったが、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。朝の七時ごろ、柔らかな陽光とともに自然と目が覚めた。久しぶりにぐっすり眠れた気がした。

「すごい……」

 奈央は布団に顔を埋めて歓喜した。岩国が張ってくれた結界が、しっかり効果を発揮したのだ。半信半疑だったが、彼の能力はどうやら本物だったようだ。

 スマホを手に取り、さっそく真由美にラインで報告した。すぐに返信があり、まるで自分のことのように喜んでくれた。岩国にも感謝のメッセージを送った。なかなか「既読」がつかないため、まだ眠っているのかもしれない。今度直接会って、お礼を伝えようと思った。

 久しぶりに心が軽くなった。清々しい朝の空気が部屋に満ちているように感じられた。ただ、岩国の言葉を思い出すと、わずかに不安がよぎる。結界の効力には限りがあるという。それでも、悩まされていた怪奇現象が一時的にとはいえ止まったことで、光明が差したように感じられた。

 奈央は両手を組んで祈るようにつぶやく。

「この平穏が、ずっと続きますように」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ