軽蔑の眼差し
【発狂までのカウントダウン——】
心霊現象が人為的なものだったと知り、奈央は自分に対して激しい怒りを覚えていた。なぜ、気づけなかったのか——。
今にして思えば、毎回同じ順番で心霊現象が起こること自体不自然だった。壁が音を立てるのも、いつも404号室側からだった。
奈央は意を決して404号室の扉を叩いたが、住人はすでに引っ越したあとだった。不動産屋に問い合わせたものの、個人情報保護を理由に住人の情報は教えてもらえなかった。だが、その部屋の住人が原口華奈子の親族か友人だろうと奈央は確信していた。
数日ぶりに大学に足を運ぶと、何だか様子がおかしいことに気づく。数人の学生から冷ややかな視線を浴びせられた。胸騒ぎを覚えながら、奈央は先に講義室に来ていた真由美に声をかけた。
「真由美、おはよ」
当然笑顔で迎えられるものと思っていたが、真由美の硬い表情を見て奈央は言葉を失った。
奈央は声を震わせながら聞く。
「……真由美、どうかした?」
「奈央、悪いけど、しばらく距離を置こう」
「え、なんで!?」
真由美は硬い表情のまま一枚の紙を取り出した。
「これ」
「え!?」
奈央の目が真由美が持つ紙に釘づけとなる。それは実家に届いたのと同じものだった。さっと顔から血の気が引いていく。まさか、大学にまで広まっているなんて——。
呆然と立ち尽くしていると、真由美の冷たい声が響いた。
「これって、本当なの?」
「そ、それは……」
奈央は答えに窮する。憎悪に充ちた筆跡を見れば、ただのイタズラではないのは誰の目にも明らかだ。これを、根も葉もない噂だと否定するのは無理があった。
「心霊現象の原因って、これだったんだね」
「違うの! あれは全部イタズラだったの!」
奈央は必死に訴えるが、真由美は冷ややかな態度を崩さなかった。
「そんなことされたら、わたしだって呪いたくなるよ」
親友の蔑んだ声に、奈央は言葉を失う。
「優しい子だって、信じてたのに……」
軽蔑の眼差しを残して、真由美は別の席へと移っていった。
その場に立ち尽くしていると、周囲の学生たちからの好奇の視線を感じた。目をやると、彼らの顔には一様に冷笑が浮かんでいた。
「そんな……」
孤立無縁な状況に、胸が張り裂けそうになる。数日前には両親から勘当を言い渡され、今度は大学での居場所も失った。もう、どうすればいいのかわからなくなる。
奈央はその場にいることに耐えきれなくなり、逃げるように講義室を立ち去った。
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